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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
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23

 

 教皇様とカルネラ司教がこの部屋へ来たという事は、国王様が待っていたのはこの二人だったのか。


「あれ? お二人とも今朝と服装が違いますね。なんて言いますか…… とても普通に見えます。一般の民衆に溶け込める程ですよ」


 法衣を脱いだだけでも少し威厳のあるお爺さんって感じだったのに、それがこの街によくあるような服装に身を包む事で、どう見ても何処にでもいる好々爺になる。


「せっかくのお祭りですからね。人目を気にせず楽しみたいと思う心は、幾つになっても衰えたりはしません」


「去年は話に聞いただけで来れませんでしたからね。教皇様はそれはもう大層楽しみにしておられたのですよ? 多少この格好に不安を感じていましたが、ライル君がそう仰るのなら大丈夫そうですね。突然街中に教皇様が現れては祭りどころではありませんので」


 おぉ、教皇様がそんなに楽しみにしていたなんて、祭りを提案した一人として嬉しいものがあるね。


「お二人ともとても似合って―― いや、馴染んで? おられますよ」


「フフ、それは誉め言葉としてお受け取り致します…… さて、リラグンド王よ、私に何か用があって呼んだのでしょう? 」


「先ずは、呼び出した事による無礼をお詫び致します。本来なら私が教皇様の下へ伺わなければならない立場であるにも関わらず、大変失礼致しました」


 国王様と王妃様がソファーから立ち上がり、深々と頭を下げる。流石は硬貨製造を担う聖教国のトップだ。大国の王でさえ、対等とはいかないようだ。しかし、突然二人が立ち上がったのをぼんやりと眺めていたら、俺も立つタイミングを逃してしまった。この場で座っているのは俺一人…… 目茶苦茶気不味い。


 教皇様は国王様と王妃様の謝罪を快く受け入れ、ソファーへと座る―― のは良いけど、何故か教皇様とカルネラ司教は俺を挟んでソファーの両端に座っている。どうして教皇様でなく俺が真ん中なの? もしかして調停者だから? いや、馬車の中で今の俺の立ち位置は商店街の代表だって言ってじゃないか。これじゃ、俺と教皇様の間に何か特別な関係がありますって言っているようなものだ。自分を凡人だと卑下する国王様はどうか分からないが、確実に王妃様は気付いているだろうな。


 そう思って王妃様へと視線を移せば、バッチリと目が合ってしまい息を飲んだ。


「そう心配せずとも大丈夫よ。貴方と教会が親密な関係にあるというのは前々から分かっていたわ…… 何を驚く事があるの? 神官騎士を引き連れ、付き従わせる姿を見れば、誰だって分かるでしょ? もしかして、あれで隠そうとしていたの? あまりにも堂々としていたから、てっきり隠すつもりがないものかと思っていたわ。だから敢えて此方からは何も言わなかったのだけれど…… 」


 うぅ…… そんな憐れむような目で見ないでくれませんか? そりゃ特別内緒にしようとしていた訳ではないけど、この街で出会って仲が良くなった風に装っていたのは事実だ。


『残念ではありますが、あの初対面風の演技はまるっきり無駄でありましたな。だから自然にしようとあの時申したではありませんか』


 ぐぬぬ、王妃様が今まで教会との関係を何一つ聞いて来なかったから、上手く誤魔化せていたと思っていたのに…… 流石は王国一の知謀の持ち主だよ。


『いや、相棒が間抜けなだけじゃねぇのか? 』


『貴様、王を愚弄するか! 同じアンデッドでも許さんぞ!! 』


 バルドゥインの天井が突き抜けた忠誠心が今はとても辛いです。頼むからこれ以上傷口を広げるのは止めてくれ。


 心の中で羞恥に悶えている間にも、国王様と教皇様との話は進んでいく。


「そうですか…… 各商店街の代表全員が独立に賛成したのですか。ならば約束通り私も協力しなければなりませんね。ですが、国として認められるには、他の王とそれに準ずる者達の承認が必要です。それが無ければ幾ら私でも一存で決められるものではありませんよ? 」


 教皇様は、例え調停者である俺が望む事でも、正規の手続きをしなくては国家の独立は難しいと暗に伝えてくる。何事も公平を重んじる教会だからこそ、法はきちんと守らなければ他者の模範にはならない。


「それは重々承知しております。必ずや規定数の承認を得てみせますので、どうかそれまでお待ち下さいますようお願い致します」


 王妃様はそう言うと、俺の方をチラリと見る。


「成る程、ツテはあるという訳ですか…… それでしたら、私から言う事はもうございません。インファネースが独立する日を楽しみにしておりますよ」


 …… ん? 何故か皆から見られているような気がするな。よく分からない内に話は終わり、俺と教皇様、それとカルネラ司教の三人で執務室から退室して館の玄関へと足を進める。


「う~ん、国王陛下と王妃様にはそれだけのツテがあるから、独立するには問題無いって事で良いんですよね? 」


 館の廊下を三人で歩きながら、先程の会話の意味を教皇様へと尋ねる。


「概ねそれで宜しいかと。更に言えば、ライル君が持っておられるツテを当てにしているという事です」


「私が持っている、ですか? 」


「えぇ。ライル君はあの皇帝とも知り合いでもありますし、何も人間の国からの承認しか認められない訳ではありません。それに準ずる者も含まれますので、他種族からの承認でも問題ないのです」


 あぁ…… それで皆して俺を見てたのか。確かにそれならエルフの里長、ドワーフの王、人魚の女王、天使の長、それと一応アンネも妖精女王だから数に含まれるか。これだけで五人の承認が集まる訳だから、そりゃ期待もするよな。


「まぁ、それはそれとして…… お祭り、楽しみですね。時間がなく日帰りなのが残念ですが、今日は久方振りに羽を伸ばすとしますか」


 先程まで真面目な話をしていたのを忘れ、教皇様は足取りを軽くして俺とカルネラ司教の前を進んで行く。

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