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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
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21

 

「あのぅ…… その自由貿易都市国家というのは…… 」


 恐る恐る国王様に発言の真意を聞いてみる。


「国から独立するのだ、他の国に属しないというのなら新たな国となるのは当然ではないか? 」


「成る程…… では、その国の王は一体どなたが務めるのですか? もしかして、国王陛下が? 」


「いや、私ももう歳だからな…… 独立して暫くはマーカス卿に今まで通りインファネースを治めてもらい、コルタスとシャロット嬢が正式に婚姻を結んだその時、コルタスにマーカス卿の後を継がせる予定である」


 そこは前と変わらない訳か。そうなると、独立も国王様の退位もそう遠い話でもないようだ。


「第一王子が王となれば、インファネースの独立は叶わぬだろう。あやつが此処を手放す訳がないからな。私が王である時にインファネースを独立させなければならない。これが王としての最後の仕事となるであろう」


 そう言って遠くを見詰める国王様の目は、何処か寂しそうであり、安堵しているようでもあった。


「それじゃあ、王じゃ無くなった国王陛下と王妃様はどうなるんだい? 」


 ティリアが二人の行き先を心配した様子で問うと、国王様と王妃様は嬉しそうに微笑みを浮かべた。


「大丈夫よ。既に北地区の小高い丘に私達が住む邸を建てているところです」


「うむ。海の見える土地で安全で静かに過ごすのが夢であった。退位したら海で釣りでもしながらのんびりと余生を送るつもりだ」


 つまりはあれか? 色々と独立させる理由は語ったけど、一番の目的はさっさと面倒な王なんか辞めて、このインファネースで誰にも邪魔されずに充実した老後を送りたいって事?


「え? あの建設中の邸は別邸ではなくて本邸にするつもりなのですか? そうと分かればもっと豪華にしなくては! 」


「あぁ、それには及びません。外観や内装を派手にしてしまうと、王城を思い出して落ち着いていられません。他の所と遜色ない平凡な邸で良いのです。むしろそうじゃないといけません」


 完全に仕事を忘れようとしているね。かなり老後の生活に拘りを持っているようだ。


「ブフゥ…… 吾輩も初めて話を聞いた時は驚き、国王陛下の退位に否定的な思いであったが、陛下は今まで十分過ぎるほど我々の為に働いてくれた。これ以上望むのは酷というものである。それに、吾輩が忠誠を誓ったのは今の国王陛下であって王族ではない。インファネースと国王陛下、王妃様の為ならば、喜んで独立する道を選ぶ。勝手な言い分ではあるが、どうか付いてきてほしいのである」


「わたくしからも、お願い致しますわ」


 領主とシャロットはこの独立話を前から知っていたみたいで、俺達へ賛同してくれるよう頭を下げる。


「私は、どんな事があろうと領主様についていくと決めています。それが亡き親友との約束ですから…… 」


「まぁ、独立して他国と自由に商売が出来るってんなら反対する理由はないよな? 面白そうだし、アタシも全然良いぜ! 」


「フォッフォッ、貿易商として他国との関わりを制限されるのはちと困るからのぅ。儂も賛成じゃな」


 代表の三人は独立を受け入れ、まだ発言していない俺へと皆の視線が集まる。


「…… どんな形であれ、家族を守れるのならそれで良いです。私も独立の為に協力致します」


 俺が賛成であると分かった面々があからさまに安堵の息を溢した。


「ふぅ、ライルさんに断られたらおしまいでしたので、心から安心致しましたわ。これでインファネースは安泰ですわね! 」


「そうじゃな。ライル君が反対して此処から出ていかれでもしたら、他種族との交流が無くなるかも知れん。逆を言えば、ライル君がおる限り他種族との交流はこれからも続くという事じゃ」


 う~ん、もうここまで来たら俺がいなくとも他種族との交流は無くならないんじゃないかな?


『それは違うわ。他の種族は分からないけど、少なくとも私達エルフは、貴方がいなくなったらインファネースと関わらなくなるわね。ライルを信じているからこそ、私達はインファネースにいるの。そこは忘れないで欲しいわ』


 魔力収納にいるエレミアが、魔力を通じて俺の疑問に気付いて反論してきた。


 そうか、エルフだけでもインファネースからいなくなったら結構な経済的打撃はありそうだもんな。それに南商店街もやっと軌道に乗ってきたところなのに、ここで代表である俺が抜けたら後の三人に物凄い迷惑がかかるだろう。だから皆こんなにホッとしているのか。



 此処にいる皆の気持ちが纏まり、いよいよ本格的にインファネース独立の為に動き出す。


「皆の気持ちは確かに受け取った。この先色々と力を借りる事になろうが、今は祭りを成功させるのに尽力してほしい。この祭りこそ、独立の足掛かりになる」


「ほぅ? 他国の要人や王を招待しておるのは、インファネースを売り込む為かの? 国として認められるのには、教皇様と幾つかの国の王、もしくはそれに並ぶ者の承認が必要じゃからな」


 そうか、お祭りをする事でインファネースの豊かさと、一国の都市として付き合うよりも、国として自由に交友する方が何倍も得であるとアピールしているのか。



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