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「インファネースはここ二年で驚くほど発展し、その勢いは今も止まりません。最早この国の要と言っても良いでしょう。だからこそ独立する必要があるのです」
何故要だと言うインファネースを国から独立させようとするのか、俺には全く理解出来ないんですけど?
「なるほどのぅ…… つまりは単純に力を持ちすぎたと言う訳じゃな? 」
「うむ、その通りだ。インファネースが開発してきた魔術、魔道具、ゴーレム理論、他種族との交流…… 細かく言うなら日が暮れてしまうほどの功績があり、本来ならその一つ一つに褒賞と勲章を与えるべきなのだが、それを執拗に反対する者達がいるのでな。奴等が異議を申し立てる暇さえ与えられない目立つ功績で今までは貴族派の連中を黙らせていたのだが…… ここ最近になって、私を王位から引摺り落とそうとしている動きが見られる。その裏には公国が関わっている事が最近判明した」
貴族派と公国が繋がっているかもという噂はあったが、それが事実だと国王様の口から出た事に、此処にいる俺以外の人が驚きを隠せないでいた。
「公国の存在が明らかになったのはライル君のお陰でもあります。もし、貴族派が推奨する第三王子が王位を継ぐ事になったら、事実上リラグンドが公国に支配されてしまうでしょう。勿論そうはならないよう動いていますが、万が一に備えて対抗する力が必要なのです」
「それが、インファネースだと言うのですか? 」
俺の言葉に王妃様は然りと頷く。
「えぇ、でももう一つ理由があります。インファネースは力を付けすぎてしまいました。このままではリラグンドが他の国より突き出た存在になり、世界の均衡が崩れてしまう恐れがあります。今は他国と一丸となって魔王軍と戦っていますが、それが終われば脅威へと変わりかねません。一国が持つには大きすぎる力が、このインファネースにはあるのです。なのでこの戦争が終わる前に私達の名の下で独立を宣言し、リラグンドを含めた他国との貿易を自由化させる事で、リラグンドが独占しているインファネースの技術を世界に広めてしまえば、再び国同士の均衡が保てるようになり、無用な争いを避けられるでしょう」
確かに、インファネースが開発した転移魔術や実用化に成功した空間魔術、シャロットが発表した新しいゴーレム理論等、インファネースがリラグンドにもたらした力は他を凌駕していた。その事実に他国が見逃すとは思えない。
「じゃが、王太子は既に決まって居られるはず。陛下が退位なされば、次期国王は第一王子となるのでは? 」
「そう…… そこが私達が懸念している事柄の一つなのだ。本来なら既に私は退位し、王位をあやつに継がせていたのだが…… とある問題により、今も私は王でいる」
うん? それって第一王子になにか問題があるってこと?
チラリと国王様の隣に座るコルタス殿下に目を向ければ、そこには苦虫を噛み潰したかのような顔をした殿下がいた。
そう言えば、前に殿下から聞いた事があったな。表向きは良いが、腹の中は引くぐらい真っ黒だと言っていたのを思い出した。
「第一王子の何処に問題があるのでしょうか? とても人当たりの良い印象がありましたが…… 」
「アタシも良い噂しか聞かないね」
国王様達が抱いている懸念に、カラミアとティリアが疑問符を浮かべる。
「確かに、あやつは取り繕うのは上手い。それに、母親譲りで頭も切れる。しかし、問題はその性格にあるのだ。あやつは、そうだな…… 好戦的な性格とでも言おうか。敵対する者は誰であろうと一切の情を捨て容赦しない。もし予定通り王位を継いでいたなら、インファネースの技術を独占し、公国に戦争を仕掛けていただろう。邪魔する貴族派の連中も一人残らず処刑か追放にし、権力を思いのままに振り翳す暴君と化していたかも知れぬ。なのであやつには見聞を広げる為に他国へ留学させ、そこで妻も娶らせた。これで少しは落ち着いてくれると願っていたが、結果はまぁ…… 望んだ通りとは言わないが、多少は良くなったとは思う」
多少、ね…… そこは国王様でも断言出来ないようだ。
「だが、国民達は私に不安を募らせているのも事実。貴族派の策謀なのは分かっているが、もうこれ以上抑えられんのだ。今や王族派も推奨する第一王子を王とする為、傍観を決め動こうとはしない。私の味方は此処にいる者達だけだ。私が退位する事は既に決まったようなもの…… 貴族派と公国が何かを仕掛けてこない限り、即位するのは第一王子になる。多少まともになっているといっても、インファネースを独占しようとするのは確実だろう。そうなれば此処の強みである他国との貿易を制限されてしまう恐れがある。そうなる前に独立し、自由貿易都市国家として更なる発展を目指す他あるまい」
領主と代表達は、味方は此処にいる者達だけという国王様のお言葉に胸を打たれているようだが、さらっと物凄い事をぶっこんできたよ! え? 自由貿易都市国家ってなんですか?