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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
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19

 

「ブフゥ、待たせてしまってすまない」


 シャロットと代表達で雑談でもしながら待つこと二時間弱、何時もより脂で顔をテカテカさせた領主が応接室へと入ってきた。


「いえ、お構いなく。待つ事も仕事の内ですので」


「教皇様との会談じゃからな。もう少し長くなるものと思ったが案外早かったのぅ」


「おっせぇよ。もう紅茶は飲み飽きちまった」


 三者三様の言葉に領主はもう一度軽く頭を下げ、王様と王妃様が待つ執務室へと案内された。


「ブフ、この扉の先に国王陛下が居られる。重々承知しておると思うが、失礼の無いよう細心の注意をお願いするである」


 領主が扉をノックすると、一拍遅れて中から王妃様の声で入室の許可が下りる。


「失礼致します」


 先ずは領主が、その後に俺を含めた代表達と最後にシャロットという順で入室する。勿論目線は常に床へ向けている。


 全員が入り終わると、扉の前で一列に並んでは片膝をついて跪く。向こうから声がかけられるまで決して頭を上げず、声も出してはならない。


 勝手知ったる領主の館が、今では王城にいるかのような緊張感で包まれている。いや、実際に行った事はないから完全な想像でしかないけど…… シンと静まる空間の中、嫌に俺の鼓動が激しく響くのを感じ、周りに聞こえてしまうんじゃないかとしなくていい心配をしてしまう。


「よく来てくれた、面を上げよ」


 静寂の中でよく響く重低音に従い、俺は恐る恐る顔を上げる。


 目の前には、如何にも高級そうなソファーに王妃様とコルタス殿下との間に座る一人の威風堂々とした男性がいた。


 輝くような黄金の髪と短く整えられた髭、目尻と顔に刻まれた皺は想像も出来ない程多くの責務を抱え、その重圧に耐え応えて来た証し。しかし、御年五十とは思えないくらいに肉体は仕上がり、服の上からからでも分かるほど胸筋の自己主張が激しい。その威厳と知性に溢れたアイスブルーの瞳が真っ直ぐ俺を射抜く。


「妻と息子が世話になっている。二人とも我が強いからさぞかし手を焼いている事だろう。知っているとは思うが、私がこの国の王、マルシアル・ノエ・リラグンドである。この場は非公式故、そう畏まらなくても良い。皆もソファーに座ってくれ」


 え? それって素直に従っても良いやつ? それとも酒の席で言う上司の今日は無礼講だ―― みたいなやつ? どっちなの?


 王様から顔を背ける事も出来ずに迷った俺は、目だけを何とか動かして横にいるカラミアに視線を送る。


 しかし、助けを求めたカラミアでさえ、困ったような顔をしていた。他の皆も同じみたいで、誰一人立ち上がってソファーに向かう者はいない。


 そんな様子に国王様は眉をしかめ、王妃様はクスリと笑う。


「大丈夫よ。陛下が仰ったように此処には私達しかいません。多少の無礼では罪に問われませんので、どうぞ安心してお座りなさい。そう跪かれたままでは話がしずらいわ」


 王妃様のお言葉で、やっと俺達は立ち上がりソファーへと座る。


 うわ…… すぐ目の前、手を伸ばせば届きそうな距離に国王様がいるよ。まぁ俺には伸ばせる手はないんだけど。


 部屋の中は俺達だけで、護衛の騎士の姿はない。それにさっきまで会談していた筈の教皇様とカルネラ司教もいないな。


「お二人ならこの話が終わるまで別室にて寛いで頂いているわ」


 キョロキョロと辺りを見回していた俺の心を見透かした王妃様が答え、そのまま話を続ける。


「皆さんにこうして集まってもらったのは、ただ陛下と会わせるだけではありません。私のこれまでの行動に疑問や不信を抱いている事でしょう。言い訳をするつもりはありませんが、此方の準備が整うまで迂闊に話す事が出来なかったのです。決して皆さんを信用していなかった訳ではありません」


「大丈夫ですよ、王妃様。私は一度だって疑ってはおりませんでした」


「そうじゃな。王妃様のお陰でまた貿易が盛んになって感謝しておるわい」


「まぁ、今までの王妃様を見てたら分かるけど、心からインファネースを愛してくれる人を疑うなんてないよな? 」


 ちょっ!? いくら非公式でちょっとやそっとでは罪に問われないからと言って、その言葉使いは良いのか? 特にへバックとティリア。思いっきりタメ口じゃないか!


「ふふ…… ありがとう」


 おぉ、良かった。言葉遣いも何時も通りで問題なかったみたいだ。もう何処まで許されるのか分からなくて発言しずらいよ。


「王妃様はこのインファネースをどうなさるおつもりなのか、どうか私達にお聞かせ願いますか? 微力ではありますが、出来る限り協力致します」


 カラミアの熱い視線に、王妃様はゆっくりと頷く。


「えぇ、今日はその為に集まってもらったのですから…… 私はこのインファネースを…… リラグンド王国から独立させます」


 王妃様の宣言に誰もが口をつぐみ息を飲んだ。


 インファネースを、国から独立させるだって? そんな事が可能なのか? いや、王妃様が言うのだから出来るのだろう。この場には国王様もいらっしゃるので、既に国王様もその考えに賛同しているという事になる。


 しかし、何がどうなれば独立させるだなんて話になるんだ? そこんところもう少し詳しくご説明よろしくお願いします。

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