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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
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15

 

 お祭り初日は特に問題もなく終わったが、本番は二日目からと言っても良い。


 今日から中央広場に設置した特設ステージにて各種イベントが開催される。


 予めイベントの参加者は募集してあるが、ものによっては飛び入り参加も可能だ。


 この日は昼から中央広場のステージで、力自慢コンテストを始める。内容は至極単純、土魔法で重さの異なる大岩を用意して、参加者にはそれを持ち上げて競ってもらうだけ。その後、別の参加者によるアームレスリング大会も予定している。


 夜には港に設置した海上ステージで、人魚と妖精達によるコンサートが始まる。去年は最終日だけだったけど、今年は数回に分けて行う。


「この日の為に、あたし達も人魚達も頑張って新曲作ったり、練習してきたかんね! 腕が、いや喉が鳴るぜい!! 」


 朝から気合い充分なアンネは、打ち合わせをしに人魚達の下へ飛んでいった。


「アンネも色々と忙しいね…… まぁ母さん達も今日はお祭りを楽しんでよ」


 昨日は母さんとシャルル、キッカの三人には店番をしてもらったから、今回は俺の番だ。いくらお祭りだからといって一週間も店を閉める訳にはいかない。


 本当に良いのかしら…… と申し訳なさそうにしていた母さんだったが、シャルルとキッカの笑顔とはち切れんばかりに揺れる尻尾を見て、お祭りに行くと決めたようだ。


「やっと兄様とお祭りを回れると思っていたのに…… 」


「ごめんなレイチェル。明日は一緒に回れるから、今日はムウナを頼んだよ」


「レイチェル! ムウナといっしょに、にく、たべる!! 」


 打ち合わせに向かったアンネの代わりに、ムウナの世話をレイチェルに任せた訳だが、子供二人だけでは何かと心配なので大人を一人付ける事にした。


「ゲイリッヒ、二人をよろしく」


「お任せ下さい、我が主よ」


 レイチェルとムウナなら自分の身は自分で守れるけど、もし何らかのトラブルで戦闘にでも発展した場合、周囲への被害が尋常じゃない。ゲイリッヒには二人の護衛ではなく、被害を最小に抑えるのが目的である。特にムウナが暴れたら祭りどころじゃなくなるからね。


 ギルはまた一人でブラブラとするみたいだし、オルトンとバルドゥインも魔力収納から出るつもりはないらしい。


 母さん達とレイチェル達を見送り、店のカウンターへと向かう。


 外から聞こえる祭りを楽しむ人達の声を聞きつつ、まだ誰もいない店を見渡すと、俺と一緒に残ってくれたエレミアとアグネーゼが商品の陳列や軽い床掃除などの手伝いをしてくれていた。


「ねぇ、皆祭りの屋台に夢中なのに、店を開く意味ってあるの? 」


 確かに、外に立ち並ぶ屋台があるのに、態々店に入ろうとは思いづらい。


「それなら私達も外に出るのはどうでしょうか? 」


「それって去年と同じに屋台でも出そうってこと? 」


「いえ、屋台を出さずとも、店の前で商品を並べて売れば良いんですよ」


 成る程、店頭販売ってやつだな。それなら移動してくる客の目にもとまりやすいし、気軽に買ってくれるかもしれない。


「気軽さを求めるなら、高い物は置かない方が良いわね。人も多いし、食べながら歩いている人も大勢いるなら、不意に衣服を汚してしまう事もあるんじゃない? 洗浄の魔道具を置いたら売れるかもよ」


「後は飲み物とお菓子なんかも良いですよね」


 あれよあれよと決まっていき、店の前には商品が並べられたテーブルが設置された。





「蜂蜜クッキーは如何ですか? 今ならお祭り価格でお得ですよ! 」


「不意の汚れにこの魔道具はどう? どんな汚れも綺麗に落ちるわ」


 今日も朝から快晴で日差しも強い中、エレミアとアグネーゼは元気よく呼び込みをしている。俺はもう暑さでバテてしまいそうだよ。


『ライル様、水分補給はこまめになさるよう、お気をつけ下さい! 』


 オルトンに忠告通り水分を取りつつ店の前にいると、


「あらぁ? なんか面白そうな事をしてるじゃなぁい? 」


「これなら移動のついでに買うのに良いですね! 」


 客の相手をしているエレミアとアグネーゼを見ながら、デイジーとリタが感心した様子で近付いてきた。


「あれ? お二人とも何故ここに? 店が忙しいのではないのですか? 」


「それが、いざお祭りが始まったらお客が減ってしまいまして、ライルさんの所で紅茶でもと…… 」


「そうそう、皆屋台を巡る事に夢中で、店に入ってくる人なんて少数よぉ。でも…… うん、これならいけるかも知れないわねぇ」


 そうか、今年は難民達も屋台を出しているから、去年とは違い屋台の数がギリギリで借りられない状況にある。何処の商店街も同じなようで、祭りの間店を閉める所も少なくない。そんな中、一筋の光明を見いだしたかのようにデイジーの目がキラリと光り、怪しい笑みを浮かべた。間違っても妖艶ではない。


「どういう意味です? 」


「だからね、リタちゃん。私達もこれを真似して商品を店頭で売れば良いのよ。いえ、私達だけじゃなく商店街にある店全部が、お祭りの間この販売の仕方をすれば、商店街の売り上げは確実に上がるわ。何も本格的な屋台を出す必要もない訳だし、簡素で良いのよ。なんでこんな簡単な事を思い付かなかったのかしら? 」


「祭りといえば屋台という固定観念があったのではないですか? まだ祭りをするようになってから二年ですからね。仕方ありませんよ」


「まぁ、普通ならこんな暑い中態々店の前で売ろうなんて思わないわよねぇ。客も目の前に店があるのに炎天下で買い物しようともしないだろうし…… でも、お祭りの最中なら間違いなく上手くいくわ! 早速皆に教えなくっちゃね。リタちゃんも周りの店に教えてあげてね♪ ウフフ、これからまた忙しくなっちゃうわよぉ」


 上機嫌な角刈りのオカマが、女の子走りで去っていく姿は何とも形容し難いものがある。そんなデイジーの後ろ姿を黙って眺めていたが、すぐにハッと気を取り戻したリタが慌てるようにデイジーの後を追う。



「何だったのかしらね? 取り合えず、南商店街は皆でこの売り方をするって事で決まったの? 」


「えっと…… うん、多分そうだと思うよ」


「ライル様、エレミアさん。クッキーが少なくなってきましたので、焼いてきますね。その間ここをお願い致します」


 おっと、呆けてる場合じゃない。アグネーゼだけに働かせては悪い。俺も洗浄の魔道具の補充をしないと。



 思いの外良く売れるな。やはりお祭りとあってか、皆の財布の紐が緩んでいるようだ。これなら別の商品も出して品目を増やしてみても良いな。


 明日からも店頭販売を続けようと決めた俺は、店内から蜂蜜や紅茶の茶葉を外へと持ち出し、テーブルの上に並べるのだった。

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