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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
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14

 

 今年は去年よりも人の出入りが多く、どこもかしこも人で溢れかえっていた。


 事前の打ち合わせで人が多くなる事で生じるトラブルを想定し、色々と対策を講じたのが良かったのか、今のところ皆祭りを楽しんでいる。


 兵士達による交通誘導、街に設置した簡易トイレにゴミ箱、屋台と屋台の間を空け避難スペースの確保、各商店街に必ず休憩所を一つ設けるのも全ては王妃様の提案である。


 その王妃様は今、シャロットとコルタス殿下の三人と北商店街で祭りを堪能していることだろう。


 王様もこの祭りを見にインファネースへお越しになられる予定だが、流石に王が長く城を空ける訳にもいかないので、三日目から二日間滞在するつもりのようだ。


 王妃様が招待した各国の要人達も、忙しい合間を縫って来てくれるみたいなので、そんなに長くは此処へいられず、来訪した当日か翌日には自国へと帰る。遠目で今日来たその要人らしき人物と王妃様が挨拶しているのを見たけど、どうにも純粋に祭りを楽しもうという感じではなかった。何と言うか…… インファネースそのものを品定めしているかのような感じが印象に残ったかな。


 そうそう、去年は貴族派の奴等にちょっかいを出されたが、今年はその反省を生かし、王妃様の全面協力の下、貴族派に属する者達をリスト化して厳重に入街規制を敷いた。


 それにより東門と西門、客船が停まる港では拒否された貴族派の者達が納得いかないと騒ぎ出す事態が多発しているけど、此方も負けじと強制的にお帰り願っている。貴族派もこの国を担う貴族であるのは変わらない。それを有無も言わせずに門前払いが出来るのも、王妃様が遠慮はいらないと許可を下したお陰である。王族の強力な後ろ盾があるからこそ、此方も強気で貴族派の連中を追い出せる訳だ。


 それでも、リストに乗っていない貴族派の息が掛かった者達までは防ぎきれないのも事実。だからこそ去年よりも巡回を強化する必要がある。とは言え、此方も去年のままじゃない。少し目を横にずらせば兵士の姿があり、ちょっと進めば白百合騎士団と神官騎士が歩いているのを目にする。


 今もほら、屋台の間にある避難スペースにも兵士が周囲に目を光らせ……


「ガストールの兄貴、飲んでていいんすか? 仕事中っすよ? 」


「あぁ? 少しくらい大丈夫だ。祭りだってのに飲まない方がおかしいだろ? それに、俺達より頼りになる騎士達がいるんだから、俺達が少しぐらいサボっても支障はねぇよ」


「ねぇねぇ! あっちで焼きそば売ってるよ! あたし食べたいから買って来てよ!! 」


「…… 」


 ガストール達が堂々とサボっては酒を飲んでいる…… 後で領主にチクっておこう。


「ライル様、あの人達は軍人のようですね。もしかして連合軍の方では? 」


 アグネーゼの言葉でガストールから目を離すと、ある屋台の前で数人の男性が穏やかな表情で商品を物色している。


「確かに、他の人達とは何だか雰囲気が違うね。アグネーゼの言うように休暇を取った連合軍の人かも。初日から来るなんて、想像していた以上に戦況は膠着しているようだ。充分に英気を養い、来るべき決戦に備えてほしいものだよ。それにしてもアグネーゼは良く彼らに気付けたね」


「よく戦場へ救護班として教会から派遣されていましたから、軍人やそれに連なる方達は見れば何となく分かるようになりました」


 アグネーゼと初めて出会ったのは、オーガと戦争中の帝国の前線基地だったな。その前からアグネーゼは教会に派遣されて数々の戦場へ送られていたらしい。


「それは大変だったね」


「いえ、強制ではありませんでしたし、私の場合は自ら志願していました。戦いによる怪我で苦しむ人達を癒す事こそ、回復魔法を授かった私の使命だと思っていましたから」


「思っていた? 今は違うの? 」


「…… 恐らく今も変わってはいないでしょう。調停者で在らせられるライル様の力になれる事は、教会の者達にとっては誉れです。しかし、私にはライル様と共に行けば今まで以上に苦しむ人達をお救い出来るのではないかとも思っているのです。厚かましい考えだとは承知しておりますが、やっぱり私は最初の気持ちを捨てられないようです」


「いや、別に捨てなくても良いんじゃない? 自分の力で人々を救いたいなんて立派もんだよ。もしその目的の為に俺を利用していると後ろめたく思っているのなら、全然気にしなくて大丈夫。むしろじゃんじゃん利用してくれて構わないからさ。アグネーゼには日頃から世話になっているし、調停者という立場が何か役に経つのなら遠慮なく頼ってもらいたい」


 アグネーゼがもし俺と出会ってなければ、もしかしたら戦場で救われた命があったかも知れない。その機会を奪ってしまった事、アグネーゼの人生を大きく変えてしまった事に、少なからず申し訳ないという気持ちはある。だから、アグネーゼがどうしてもやりたいと思う事があるのなら、出来るだけ協力したい。


「ありがとうございます。ライル様のそのお気持ちだけで充分です。ですが、調停者の立場を何かに利用するつもりは毛頭こざいません。ライル様の為に尽くす事こそが、私達教会の者の教義でもあります。なので、私はライル様と出会えた奇跡に感謝しております」


 そう言って笑顔を浮かべるアグネーゼの手には、真っ赤に彩られたりんご飴が握られていた。



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