表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
765/812

13

 

 さぁ、いよいよやって来ましたお祭り当日。今年は神官騎士と王妃様の白百合騎士団の皆さんが加わり、見廻りが随分と強化されたので、去年のようはトラブルはそうそう起こらないと思う。


 それでも各商店街の代表である俺達も街を巡回しなくてはならないけどね。


 今年も中央広場の片隅に本部となるテントを建て、領主と王妃様、シャロットに俺を含めた商店街の代表達、そして警備してくれる領主の私兵と白百合騎士団と神官騎士達が、お祭り当日の早朝に集まった。


 そこで確認の為の軽い打ち合わせをし、午前十時頃。設置されている屋台に店員が入り、人々が中央広場に集まり出したのを見計らい、領主が祭り開催の宣言をする。


「おっしゃぁ! 去年は全部の屋台を回れなかったけど、今年は一週間もあるかんね。もう余裕っしょ!! ライルから資金もたんまり貰ったし、腹が弾けるまで食べて、気が狂うまで遊び倒してやらぁ! 覚悟は良いか? ムウナ!! 」


「うん! かくごは、すでにかんりょう。まずは、にく! にくをたべにいく!! 」


 異様にはしゃぐアンネとムウナに羽目を外し過ぎないように言って見送る。少し心配ではあるが、まぁ去年の事もあるし大丈夫だろう。


 今年は警備も客も去年と比較してかなり多くなっている。それでも手は足りているので、俺としては皆にも祭りを楽しんで貰いたいのだが……


「いや、今年も部下達と空から街を見守るつもりだ。今は何かと良くない噂があるからな。用心に越したことはない」


 そう言ってタブリスは非番の堕天使達を連れて空へと飛んで行く。


「タブリスはあぁ言いましたが、皆さんは気にせずに祭りを楽しんでくれて良いんですよ? 」


『皆が警備をしているなか、じぶんだけ遊ぶ訳にはまいりません。ライル様をお守りする為、このまま魔力収納にて待機致します』


『王の敵がいないのなら、俺も外に出る意味はない』


 オルトンは職務を優先し、バルドゥインは戦闘以外は興味無しか。


「どれ、我も其処らを見て回るとしよう。今回は巡回に加わらなくても良いのだろう? 」


 今年もギルは一人でのんびりと祭りを楽しむつもりのようだ。


「私は今年こそライル様と一緒にお祭りを見て回りたいです。去年は不本意にもアンデッドと共にしてしまいましたから…… 」


 去年の事を思い出しているのか、アグネーゼは苦い顔をしては俺の側から離れようとしない。そんなに嫌だったの?


「では、この私も一緒に…… 本来私は常に我が主のお側で仕える者ですので」


 ゲイリッヒも俺と一緒にいるつもりのようだし、エレミアも含めて俺とアグネーゼ、ゲイリッヒの四人で祭りを回る事になった。因みにレイチェルだが、今日は家族と一緒にいなければならないと連絡があった。明日には絶対に兄様と祭りを見るんだと言っていたな。




 さてと…… どうしようか? 取り合えず中央広場をざっと見て回ろう。



 特に目的もなく人の流れに乗って進んでいくと、去年と同じ場所で人魚達の海鮮串焼きの屋台があった。


「あっ、エレミアとライル! 早速来てくれたんだ! サービスするから食べていってよ!! 」


 屋台の前で元気に呼び込みをしてあるヒュリピアが、此方を見付けて嬉しそうに腕を振っていた。


「まだ始まったばかりだって言うのに、もう列が出来てるのね」


「へへ、お蔭様でね。今年もいっぱい稼いじゃうよ! 」


 感心するエレミアに、ヒュリピアは照れた様子で笑顔を浮かべる。そんな彼女に並んでいる客達が温かい視線を向けていた。どうやらヒュリピアにはファンが付くぐらい人気者のようだ。だとしたらこんなに並んでいるのも頷ける。


 列の最後尾に並ぶこと数分。人数分の串焼きを買っては近くのベンチで食べる。料理をしていた人魚が、悩ましいわ―― とかブツブツ呟いていたのが気になる所だけど、味はとても美味しい。もしかして去年よりも旨くなってるんじゃないか?


「ライル様、この海老は大きくて美味しいですね! それにこの塗られているタレは何でしょうか? 街で売っているソースとはまた違いますよね? 」


「たぶん人魚達が独自に配合したソースだと思うよ? 」


「成る程…… 可能ならば製法を教えて貰いたいです。これを塗って焼くだけでかなり美味しくなりますから」


 魔力収納内で皆の食事を用意しているからか、アグネーゼは真剣な顔をして串焼きを食べている。俺としては素直に楽しんで欲しいけど、こればっかりはどうにもならないね。


 食べた後の串をゴミ箱に捨てて、次へと歩き出す。ポイ捨て防止に、広場や街の至る所にゴミ箱を設置している。もし道にゴミを捨てるような輩がいたら、例えそれが貴族だろうが関係なく厳重注意をすると前以て伝えてあるので、今は道が綺麗なまま。この調子で最後まで行ければ良いけど…… 何せ祭りは一週間もあるんだ。必ず何処かでトラブルが発生すると、領主と王妃様は思っているらしい。



 その後も広場を回り、くじや射的等の遊戯屋台で遊んだ。


 射的では何故かエレミアとゲイリッヒが、誰が一番景品を多く倒せるかの勝負となり、棚にある殆どの物が落とされ涙目になっている店主が余りにも可哀相だったので、倒した物から一つだけ貰って屋台を後にした。因みに勝負の結果は…… 僅差でエレミアの勝利である。


「まぁ、アンデッドなんかに負ける私ではないわ」


「おや、これは手厳しいですね」


 二人とも楽しそうで何よりだね。


『くそ~、俺様も外に出たいけど、神官騎士が其処らにいるからな。あいつら俺様だと知っているのに関わらず浄化しようとするから苦手だぜ。祭りの警護にかこつけて俺様を仕留めようとしてきそうで危ねぇんだよ』


 祭りを楽しむ俺達を、魔力収納から見ていたテオドアが恨めしそうに神官騎士の文句を言う。どのみちこんな人混みの中でレイスが出てきてはパニックになってしまうから出てこれない訳だけどね。


 おっ、アラクネ達がお好み焼きに興味があるようなので人数分買ってあげた。どうやら具は海鮮よりも肉がお好みらしい。


 美味しいと喜んで食べるアラクネ達に、アルラウネ達が何とも言えない表情で見ていたので、屋台で売っているトロピカルなジュースをご馳走すると、大袈裟に喜んではアラクネの前でこれ見よがしに飲み始める。一緒に食事とは、やっぱり魔物同士仲が良いのかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ