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「成る程、貴方の言い分は理解したわ。でも、このご時世にお祭りだなんて…… 普通に考えれば正気を疑うわね」
「そうか? アタシはいい考えだと思うけどな。最近の街はどうも暗すぎるんだよ。ここらで景気の良さを外へ宣伝したらどうだ? 」
「儂も賛成じゃ。王妃様のお陰で他国からの貿易船も問題なくインファネースに来られるようになりそうじゃからな。そうなれば、安全を確保された海路から他国の客を連れて来る事も可能じゃろうて」
デイジーとリタの二人から、お祭りで街の雰囲気を元の明るいものにして欲しいと頼まれた翌日。俺は早速マナフォンで各商店街の代表達と、王妃様、領主へと連絡を取り、館の応接室にて集まった皆さんへ今年のお祭り開催とそこへ至った経緯を説明した。
西商店街のティリアと東商店街のヘバックは祭りの開催に肯定的だが、北商店街のカラミアは世間の目を気にしてか否定的なようだ。 まぁ、彼女の気持ちも分からなくはない。俺だってデイジーとリタに言われてなければ、今年の祭りは見送ろうと思っていたからね。
「ブフゥ…… インファネースの今の財政からして祭りを行うのは問題ない。だがしかし、カラミアの言う通り他の国から批難されてしまう可能性を考慮すれば、開催を見送るべきかもしれん」
おっと、領主は余り乗り気ではないのかな? 肝心の領主に反対されてしまっては、祭りの開催はほぼ絶望的だ。ここで俺は状況を見守り未だに口を開かない王妃様の意見を伺うべく声をかける。
「王妃様の意見をお聞かせ願えますか? 」
「そうですね…… 確かに他の国ならず自国でも批難されるでしょう。ですが、この時期に祭りをする事には街の活気を取り戻す事の他にも利益はあります。かと言ってそこを無視する訳にもいきません。お二人が否定的なのは、今も魔物と命懸けで戦ってくれている兵士や冒険者達を蔑ろにして、安全な場所にて呑気に騒いでいると、世間の目にはそう映ってしまうのを危惧しているからでは? その憂いさえ取り除くか小さく出来さえすれぱ、お二人は祭りを行うのに賛成してくれますね? 」
「王妃様の仰る通り、その問題さえ解決したなら、私も賛成するのですが…… そこまでの目処は立っているのですか? 」
「リラグンドの評判が落ちるような事にならないのなら、吾輩も祭りを行うのに協力するのであるが、全ての者に理解を求めるのは不可能。しかもこの国には現国王の失墜を狙う貴族派がいる。奴等がこの機会を逃すとは考えにくいのである。下手に奴等の前に餌を吊るすような真似は控えるべきでは? それならば何もしない方が良くもならないけど悪くもならないと、吾輩はそう思うのであるが? 」
去年と違って今年は警戒と配慮する事が、考えられるだけで山ほど出てくる。これをどうクリアしていくかが重要になる。
「とりあえず、一番の批難要因となる兵士と冒険者について考えてみないか? 彼等を蔑ろにしていると思われるんならさ、祭りに呼ぶのはどう? そうすりゃ文句の言う奴が減るんじゃない? 」
「ハァ? 戦争中なのにどうやって祭りに参加するのよ? その体と同じで頭の中も小さくなってんじゃないの? 」
「アァ? そういうアンタも、歳のせいで頭がカチカチに固まってんじゃねぇの? 」
カラミアとティリアがお互いに睨み合う横で、ヘバックは呆れた様子で二人を見ていた。いや、やれやれじゃなくて止めて貰えると助かるのですけど。
「兵士も参加させる―― ね。案外良いかも知れませんよ? 」
ん? 意外にも食い付いてきた王妃様に、ここにいる誰もが目を見張った。おい、言い出しっぺのティリアまで驚いているのは何でだよ。自分の意見には自信を持ってもらわないと。
「し、しかしじゃな、王妃様。いったいどの様にして戦地で戦っておる兵士と冒険者を集めるのじゃ? 」
「人間と魔物が激戦状態であれば、私も祭りは見送るつもりでした…… しかし幸か不幸か、今は膠着状態もあってそこまで動きを見せていません。彼等にはこの国から支給された転移魔石を持っている筈ですので、後でインファネースの座標を設定した転移魔石を渡し、それを使用してここまで来てもらいます。勿論、一気に全員を呼ぶのではなく、何人かで交替しながら祭りを楽しんでもらいます。膠着状態の今だからこそ出来る事であり、これなら兵士達が要因で批難される事も少なくなるでしょう」
う~ん、それはそれで別の批難が来ると思うけど? 税金払ってんだから祭りなんかに行ってないで戦えとか言われそうだよね。
「ブフ、それは良き考えかと思いますが、そ上手く行くでありましょうか? 今戦っている者達がどの位いるのか王妃様はお分かりであるか? 幾ら人数を制限しようとも、流石に全員は些か無理があると言わざるを得ないのである」
「無理に全員を連れて来なければならないという訳ではありません。どれ程の人数であろうと、連合軍の兵士がインファネースの祭りに参加したとの事実が必要であって、必ずしも数が絶対ではありませんよ」
「周囲の人達にそう認知させる事が重要なのですね? でしたら、希望者だけお祭りに参加して頂く形にすれば宜しいかと」
「でもさ、どれだけの人数になるか分からないけど、去年の開催期間は三日だったよな? それで足りるのか? 」
「なら、単純に開催期間を延ばせば良いだけじゃて。そうじゃな…… 一週間でどうじゃ? 」
それって、一週間の間ずっと祭りをするって事? ちょっと長くないか?
「今年は去年と違って、シュタット王国からの難民達もいます。それに、安全を確保された海路で、多くの船が祭り目当ての客を連れて来てくれるでしょう。そう考えると一週間という期間は決して長くはありませんよ」
そう言って王妃様は、俺にニコリと微笑んだ。
あの…… 俺の顔色から心を読まないでくれます? 皆からも良く言われてるけど、俺ってそんなに分かりやすく心境が表情に出るのか?
「えぇ、それはもうハッキリと出てるわね」
これまで横で黙って事の成り行きを見ていたエレミアが初めて口を開いた。
そうか、そんなに分かりやすいのか…… それって商人としては致命的なんじゃない? これから先やっていける自信を無くしてしまいそうだよ。