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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
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2

 

 暑い…… 今年の夏はもしかしたら今まで一番暑いのではないのだろうか? なんて毎年そんな事を思っている気がする。


 こんな季節にはヒンヤリと冷房の効いた屋内で過ごすのが一番なのだが、今俺はギラギラと輝く太陽の下、額にじんわり汗を浮かべながら街中をエレミアと一緒に歩いている。


「どう? こうして外に出て太陽の光を浴びるのも良いものでしょ? それに、ライルは南商店街の代表なんだから、各店舗の様子を直に確認する必要もあるんじゃない? 」


「いや、店の様子を知るだけならテオドアに見てくるように頼めば、俺が出向かなくても…… 」


「駄目よ。ずっと家の中にいるより、外に出て体を動かしていないと不健康なんだから。クラリスにもお願いされてるし」


 ふぅ…… 母さんからもそう言われちゃ抵抗は出来ない。ここはさっさと店の状況を確認して一分でも早く帰ろう。




 真夏と言って良い暑さの中、南商店街は客で賑わっていた。


 等級は下がるが、北商店街の高級店に出されているトルニクス産の肉が比較的安く提供される酒場には、昼でも食事目当ての人で席が埋まっている。

アラクネ達が糸を紡ぎ織ってくれた布地で作る服も評判が良い。リタの服飾店には南地区だけでなく、他の地区からも服を買いに来たり、商人や貴族の使用人は布地そのものを大量に買っていく。アラクネの糸で織った布は肌触りが従来の物よりも格段に良く、そのうえ希少価値も高いとなれば、そこに食い付く商人は必ず出てくる。


 住民の人達にも手が届くようにと、他の服よりも少し高い程度の価格設定にしてあるのだが、布地を買いに来る商人達は値段を見て言葉を失った後、何も言わずに買う者とリタに注意を促す者との二通りに別れるらしい。そんな時、後者との付き合いを考えるとリタは言う。




 ガンテの鍛冶屋では、最近新しい武具製作の依頼が来なくなったらしい。魔物との戦争で、各国にある大手の鍛冶屋に大量発注が行き、それに伴うミスリルの消費も激しくなり、他の鍛冶屋には依頼が回らなく、またミスリルの価格も上昇して、ここ最近大した仕事はしていないという。


「もうずっと修理や研ぎばっかりでつまらないね。有名所が羨ましいよ」


「なに言ってやがる! こういう時だから集中して自分の腕を磨けるってもんだろ!! ぼやいてる暇があんなら、早くワシを唸らせるくらいの物を打って見せんかい! 」


 店先でぼやくガンテに、彼の師匠であるドワーフのドルムが怒鳴り、店の中へと引き摺っていく。





 デイジーの薬屋は変わらず繁盛しているのかしていないのか微妙な客数ではあるが、お得意様に王妃様がいるので利益はほぼ安定していると言ってもいい。


「あらぁ? いらっしゃい。どうしたの? 何か欲しいのがあったら態々ここに来なくても、休憩時に言えば翌日には持っていくわよ? 」


 カウンターで一人、肘を付きながら接客するデイジーに、客商売として如何なものかと思うけど、デイジーだしなぁ…… と流してしまう。


「いえ、別に欲しい物がある訳ではないんですが、エレミアや母さん達が外に出ろってしつこく言ってくるもので…… 」


「もう此処に来て二年になるのにまだ慣れないの? インファネースの人達は皆この暑さを楽しんでいるのにねぇ」


 何度夏が来たって慣れそうもないよ。げんなりしながらデイジーを見ていると、良く店にいる妖精の姿が見えない。


「今日はピッケはいないんですね? 」


「あの子なら西商店街に行ってるわよ。ほら、あの喫茶店ではもうアイスクリーム等の氷菓子を売り出したから、それを目当てに妖精達が群がってるのよ。ピッケちゃんも薬草を届けた後すぐに飛んで行ったわ」


「へぇ、何だか寂しいですね」


「別にそうでもないわよ? そろそろ帰ってくる筈だから」


 その言葉に頭を傾げ、どういう意味かと聞こうとしたら、デイジーのすぐ横の空間に穴が開き、中から大きな箱を魔力で浮かせて運んできたピッケが出てきた。


「デイジー、買ってきたよ! 溶けちゃう前に早く食べよう!! 」


「ありがと、ピッケちゃん♪ 丁度お客も捌けた所だし、食べちゃおうかしら」


 やったぜ! と喜ぶピッケが、カウンターの上に箱を置く。


「それってケーキの箱よね? アイスじゃないの? 」


「フフ、何でも今年から売り出す新作らしいのよ。私も見るのは初めてなの」


 デイジーはエレミアに答えながらその箱を開けると、中にはワンホールのショートケーキが入っていた。


「ケーキよね? 」


「いや、良く見ると冷気を発しているのが見える。これはアイスで作ったケーキだ」


「せいかーい! これがあの店が出した新作アイスケーキなのだ! 」


 ピッケがそわそわしている中、デイジーがナイフでアイスケーキを切り分けて皿に移していく。


「せっかくだからあんた達もどう? 日頃紅茶とクッキーを頂いてるから、これぐらいわね」


「そういう事でしたら喜んで頂きます」


「上に乗っているイチゴは普通なのね? 」


 ケーキをアイスで作る、か。確か前世でも似たような物はあったよな? 世界が違えども思い付く発想は同じなのかね?


「えぇ~…… それじゃあたしの食べる分が減っちゃうじゃん! 買ってきたのはあたしだよ? 」


「あら? それを言ったらお金を出したのは私よ? それに、皆で食べた方が楽しいじゃない? 」


 ピッケの不満を軽く流したデイジーは、ぐむむ…… と口を閉じるピッケを横目にフォークをアイスケーキに刺して一口食べる。


「う~ん! やっぱりアイスは冷たくて美味しいわねぇ♪ 」


「こうなりゃ残りは早い者勝ちだ! 取られる前に食べ尽くしてやらぁ!! 」


 幾ら客がいないからって、こんなにも堂々とカウンターでアイスを食って休憩するとは…… 日本では考えられない光景ではあるけど、此処ではそんなに珍しくもない。


 まぁ、のんびりマイペースって感じで、俺は結構好きなんだけどね。

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