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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
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 帝国を筆頭に結成した魔王討伐連合軍は、少しずつではあるが攻め入る魔物達を押し戻しつつあった。


 各地に広がる魔物の被害はまだまだ収まりそうもないけど、向こうもこれまでとは違って攻勢に転じた人間達に苦戦しているようにも感じる。


 このまま魔王がいると予想される元小国を包囲し、今現在集まっている勇者候補達で魔王を討つ予定なのだと、クレスからマナフォンで連絡があった。


 レグラス王国での戦いの後、クレス達は帝国軍と共に帝都へ向かい、其処で帝国最強の守護者である黒騎士こと初代皇帝と雷の勇者候補に出会ったのだと、若干興奮気味で話してくれた。


 まぁ、帝国の黒騎士と言ったら、この大陸では有名だからね。テンションが上がるのは仕方ない事だけど、その黒騎士に俺の事をベラベラと話すのは止めて貰えませんかね? 後で黒騎士からあれこれと聞かれて困るんだよ。



 魔王から力を与えられた魔物に苦戦しているとの話も聞くけど、連合軍には勇者候補以外にもオリハルコン級の冒険者も参加しているらしく、それほど被害は多くないと言う。


 やっと始まった人類の反撃に、今の所戦況は拮抗を保っている状況だ。


 未だ勇者候補も全ては集まってはおらず、決定的な何かが足りない感じで両者の小競合いと睨み合いが続くこと数ヶ月…… 季節は春を過ぎ夏へと変わっていった。


 どんなに世界が荒れていようとも季節の変化はやってくる。またリラグンドの厳しい夏が訪れ、余りの暑さにクーラーが欠かせない毎日に辟易とした日々を送っている。


 本当に何でここの夏はこんなにも暑いのか…… 汗をかくのも嫌だし、体質なのか俺の体は日焼けで黒くはならず真っ赤になって風呂に入るのにも苦労するので外に出たくないのだ。


 もう冷房の効いた店の中から一歩も外に出ない生活を続けている常態に、母さん、エレミア、アグネーゼの三人から不健康だと注意されているが、それでも余程の事がない限り外に出る事はないだろう。



 この季節はクーラーの普及に伴い、動力となる魔石や魔核の消費量が増えて各地からインファネースへ送られてくる。商業ギルドのマスターであるクライドは、今年も忙しくなりそうだとこのくそ暑い中で張り切り、鳥獣人達に魔石と魔核の運搬を指示していた。




 インファネースとサンドレアとの貿易海路の安全が保証されたのに手応えを感じたのか、それとも魔王との戦争が長期化すると予想したのか、王妃様は新たに海路の工事をドワーフ達に依頼し、各国からの貿易路確保に力を注いでいる。トルニクスへの事もそうだが、これまで以上に積極的に外交を進める様子に何か違和感を感じるのは俺だけか?


 確かにこんなご時世だから、国と国が協力し合うのは良い事だとは思う。だけど王妃様がやっているのは、国同士というかインファネースと他国を結びつけるような…… そこにリラグンド王国が含まれていないように思えてしまう。寧ろ王国を蔑ろにしている節さえもある。


 そんな事を地下市場に来ていたエルマンにそれとなく伝えた所、


「あの御方は常に数手先を見越しておられます。私にも何を考え行動しているのか読めませんが、決して悪いようにはならないと信頼しておりますよ。ライルさんの疑問も分かりますが、そうしなければならない事情があるのでしょう。どうか、ライル君も王妃様を信じ、事が動くまで待ってくれると有り難いですね」


 と、何の迷いもない目で言葉を発する。


 まぁ、王妃様がやる事に今更異を唱えるつもりはないけどさ…… やっぱり何も知らないっていうのは不安になるよね。かと言って何をしてるんですか? って気軽に聞きに行ける程、俺と王妃様は親しくないし、そんなに図太い性格でもない。アンネだったら出来るかも知れないけど、上手くあしらわれてしまいそうだ。ここは待つしかないのか?



 それに王妃様にはレイチェルの事で世話になったから、頭が上がらないんだよね。


 レイチェルが一月も魔力収納内で眠っている間、当然実家のハロトライン家はレイチェルの安否を確認してくる。インファネースにある邸にもいないとなったら騒ぎになるのは当たり前なのだが、そこは領主と王妃様が口裏を合わせ、勉強の為にと当時行われいた貿易海路の工事監修で、王妃様と共に船に乗っている事にしてもらっていた。


 流石に王妃様のお言葉にはハロトライン伯爵も納得するしかなく、それ以上の追求は無かったけど、一月も連絡が無いのは余りにも不自然。なので今レイチェルはハロトライン領に諸々の報告をしに戻っている訳なんだが……


「シャルル、紅茶のお代わりお願い…… 」


「あ、はい! い、今持ってきます」


「フフ、あのオドオドした感じが庇護欲を誘うんですよね~」


「あらぁ? リタちゃんは年下がお好み? でもあれはちょっと下過ぎない? 」


 焦った様子でレイチェルの紅茶を用意するシャルルの姿に、リタが優しい眼差しを向け、それをデイジーがからかう。


 何時もの二人に何の違和感無しに混ざって紅茶を飲むレイチェル。そう、彼女には闇魔法の影移動があるので、結界の有無関わらず自由にインファネースまで瞬時に来れる。しかも闇の属性神から加護を受けた影響により、魔力保有量も格段に増え、闇魔法の腕も上がった彼女にとって、もはや道端を歩くように影移動を使う程である。


「なぁ、レイチェル。頻繁に店に来ているけど、そんなに邸を留守にして大丈夫なのか? 」


「わたしは義務として報告に戻っているだけ…… あんな所よりも兄様の側にいる事の方が、わたしには何よりも大事で優先すべき事なの…… 」


 長い眠りから覚めたレイチェルは、すぐにリリィの元へ向かって無事を報告した後、頑なに俺の側にいようとする。


 寝ている間にどんな心境の変化があったのか分からないが、前よりも距離が近くなったような気がするのは、俺の勘違いだろうか?

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