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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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 レグラス王国での戦いから二週間。世界の情勢は激しく変化していった。


 アスタリク帝国を筆頭に、レグラス王国、リラグンド王国や大小様々な国が連合軍参加を表明し、各地で猛威を振るっている魔王軍に反撃を始める。


 各々の国が成果を出している中、特に転移魔術の活躍が著しいものとなった。


 軍隊の移動に物資の運送、各国の主要人物を招いての会合をするのにも、安全且つ瞬時に移動できる術は何よりも重宝する。それによって魔物からの妨害もなく円滑な意思疎通が行われ、連携が取りやすくなった。



 それと同じ時期、インファネースとサンドレア王国との安全な貿易海路が確保出来たと王妃様から連絡が来た。


 ドワーフ達の工事が漸く終わったらしく、南商店街の酒場では、


「もう、海底はこりごりじゃわい…… 」


 と、意気消沈しているドワーフ達の姿があった。仕事が終わったら酒を飲んで騒ぐドワーフらしくない珍しいその様子に、周囲の人々が心配して声を掛ける程だとか…… どれ程過酷な環境だったのだろうか?


 そんなドワーフ達の苦労もあって、サンドレアとの貿易が滞りなく再開された事で、現サンドレア王であるユリウス陛下は感謝の意をリラグンドとインファネースへ公式に表明した。


 王妃様もこれには大変満足した様子で、早速サンドレアから取り寄せた素材をデイジーの薬屋に卸し、新しいシャンプーとリンスの開発を急がせた。


「ねぇ、ライルぅ~。王妃様ってば人使いが荒いったらありゃしないわよ。お願いだから手伝ってぇ。ちょっとだけエレミアちゃんを貸してくれるだけで良いのよぉ~。もう、ここ最近まともに寝てないの…… このままじゃお肌が荒れ放題で、良い男も掴まりゃしないわよ! 」


 知らんがな…… と、言いたい所ではあるが、あまりにも懇願してくるんもんだから根負けしてしまい、暫くエレミアにデイジーの協力を頼んだ。


 エレミアも、デイジーの気持ち悪―― もとい必死な姿に渋々ながらも了承してくれた。


「流石にあんなのを毎日店の中で繰り返されたんじゃ、せっかく来てくれた客が逃げてしまうわ」


「ひどい!? こっちは命懸けなのよぉ! 」


 辛辣なエレミアの言葉にデイジーの悲痛な声が店内に轟き、それに驚いた客が店から逃げるように出ていってしまった。何でもいいから、その新商品が完成するまで店に来ないでほしいね。









「ではでは、少し遅いけど此方も祝賀パーティといきましょうか! 」


 花酵母酒が入ったグラスを手に、アンネがテーブルの上に並ぶご馳走の前で意気揚々と声を上げる。


 前に約束した通り、頑張ったアンネとムウナの二人に例のご馳走を用意したのだが、こういうのは皆で飲んで騒ぐのが楽しいのよ! と言うアンネの提案で、母さんとキッカ、シャルルを加えて、皆で楽しむ事に決まった。


 トルニクス産の鶏、豚、牛。魔力収納でアルラウネ達が丹精込めて育てた野菜に、のびのびと暮らしている鶏達から卵等の食材を集め、料理はアグネーゼとエレミアと母さんの三人で用意してもらった。因みに米も炊いたのだが、全部リゾットや炒飯等になってしまって、純粋な白米は俺しか食べないのは何とも解せない。



「おっし! 皆グラスは持ったかな? そんじゃ、勝利を祝って…… かんぱ~い!! 」


 アンネの音頭でグラスの打ち鳴る音がリビングに響く。


「にく! にく! ごちそう、うれしい! 」


「ちょっと、ムウナ! あたしの分も残しておきなさいよ!!誰のお陰でこの料理を用意してもらったと思ってんの? 」


「まったく、少しぐらい落ち着いて食事も出来んのか、この羽虫は…… 」


「てめぇは今回何もしてなかったのにどうして参加してんのよ! 」


「大勢の方が楽しめるのだろ? 」


「お前は別じゃい!!! 」


 何時ものギルとアンネの口喧嘩を余所に、ムウナはひたすらに肉を口に頬張る。


「じぶんも何もしなかったのだが、この料理を食する資格はないのではなかろうか? 」


「大丈夫ですよ、オルトンさん。ライル様はそんな心の狭いお人ではない事は分かっておられるのでは? ここは変に遠慮してしまう方が失礼ですよ」


 アグネーゼがそう言ってオルトンの前に料理を運ぶと、オルトンは申し訳なさそうに食事を始めた。


「ちくしょう、俺様も生身の体だったらなぁ…… 」


「こういう時レイスだと中々辛いですね」


「貴様は既に食欲というものは無いではないか。何が辛いと言うのだ? 」


「いや、腹は空かねぇけど…… 何かこう、取り残されてるって感じがして…… よ」


「要は皆の輪に入れなくて寂しいと言う訳ですよ」


「たかが食事一つで何を大袈裟な…… そんなものなくとも共に騒げるだろうに」


 レイスであるが故、一抹の寂しさを覚えるテオドアに、ゲイリッヒが理解を示し、それをバルドゥインが一蹴する。お互いアンデッド同士だからなのか、意外と上手くやっているようだ。しかし、やっぱり教会に属するアグネーゼとオルトンとは物理的にも距離が開いている。



「ほら、何時までも周りを見てないで、ライルも食べたらどう? 」


「あぁ、そうだね。ありがとう、エレミア」


 茶碗に白米をよそってくれたエレミアが俺の隣に座っては、テーブルに並ぶ料理を取り分けてくれる。


 何故二週間も遅れてアンネとムウナの褒美であるご馳走を用意したのかと言うと…… とてもそんな気にはなれなかったからだ。魔力収納の中では未だに眠り続けるレイチェルがいるというのに。


 例え命に別状がないとしても、一人だけ除け者のようにはしたくなかった。


 そして今、こうして皆で騒いでいるという事は――


「わたしも参加して良いのかしら…… ? 結局、兄様に迷惑を掛けただけなのに…… 」


「そんな事はないよ。レイチェルのお陰で敵の情報を前もって手に入ったのは、とても重要な事なんだ。それに、これはレイチェルの快復祝いでもあるからね。遠慮は無用さ」


「兄様…… わたし、兄様が兄様で本当にうれしい…… 」


 うん? レイチェルの言ってる意味がいまいち良く分からないけど、嬉しそうだから良いか。


「おかえり、レイチェル」


「ただいま、兄様…… これからは新しく手に入れた力は、全部兄様の為に使うわ…… 」


「いや、そこは自分の為に使って貰いたいんですけど? 」


 どうやら、レイチェルは闇の属性神から何かのスキルを授かったようだけど、黒騎士のようなとんでもない制約は交わしていないらしい。そのような提案もされたが、嫌な予感がして止めたのだとか…… 流石はレイチェルだね。


 本格的に始まった人類の反撃に、魔王はどう動くのか…… クレスの願い通りに勇者候補は全員集まるのか…… 心配事は一つも減りはしないけど、俺は俺でカーミラの野望を阻止しなければならない。


 これから先、まだまだ世界は荒れる。そうなった時、俺はどれだけ大切なものを守れるのだろう? いや、きっと大丈夫さ。俺には自分よりもよっぽど頼りになる仲間達がいるからね。どんな事があろうとも、皆がいれば乗り越えられる。


 仲間達と家族が揃って楽しく食事をする光景を目に、俺は何とも言えない安心感が沸き起こるのを感じた。


 願わくば、この幸せを何時までも……

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