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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第四幕】ゴーレムマスターと人魚族の憂鬱
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20

 

「ちょっと! 今出来るって言ったわよね! ほんとに火を使わずに料理が出来るの?」


 人魚の少女は濡れた手で俺の肩を掴んで揺らしてくる。ああ…… 肩が何かヌメヌメする。


「は、はい…… 出来ますから、少し落ち着いて下さい。ちゃんと説明しますから」


 俺に言われて少女は肩から手を離してくれた。肩がヌメヌメして気持ち悪いので魔力支配の力でヌメヌメだけを取り除き、ホッと一息ついていると、


「早くどういうことか言いなさいよ」


 わかってるから、そんなに睨まないでほしい。可愛いのに好戦的な子だな。


「火ではなくて雷の力で加熱して料理が出来る魔道具があるんですよ。魔動コンロと呼んでいます」


「魔動コンロ…… それがあれば、何時でも温かい食事が出来るのね?」


「そうなんですけど、一つ問題がありまして」


「なによ? あ、分かった! 人間ってお金っていう丸い金属を渡さないといけないんでしょ? そうしないと物をくれないって聞いたわ。だけど私達はそんな物もってないよ」


 先程からこの少女の話を聞くに、人間とは交流が無いみたいだ。でもお金や漁師といった知識があるから、昔は何かしらの交流があったのかな?


「いえ、別にお金じゃ無くても良いのですが…… それでは無くてですね、この魔道具は重要な部分が鉄で出来ているんですよ。貴女方が住んでいる場所では直ぐに錆びて使い物にならなくなる可能性が大きいです」


 防錆処理を施すにしても亜鉛が必要だしな、漁船に使われているスクリューには亜鉛でメッキしていたから探せばあるだろうがどのくらいの費用が掛かるか分からない。ミスリルは錆びないからそれで作れば良いんだけど、せっかく作った剣を潰さないといけないし、坑夫達から貰ったミスリルを手離したくない。エルフが作った薬剤で木材を鉄並の強度にしても、鉄になる訳ではないから熱で内側からボロボロになってしまう。


「錆びない金属があれば良いの? それがあれば作ってくれる?」


「はい、そんな金属を用意出来るのなら作りますよ」


 少女は腕を組み、何やら考え込んでいる。思い当たる物でもあるのだろうか?


「…… 分かった、何とかしてみる。約束して、錆びない金属を用意出来たらその魔道具を作ってくれるって」


 真剣な少女の瞳に見詰められ、思わず口を開いてしまう。


「分かった。約束するよ」


 その言葉を聞いて、安心したように軽く微笑む少女の姿に見蕩れてしまった。不意打ちは卑怯だろ、こんなん見蕩れない方が無理だよ。


「約束だからね。明日のこの時間にここで待ってて、必ず用意するから」


「明日のこの時間ですね? 分かりました。え~と、そういえばまだお名前を伺ってませんね。何と言うのですか?」


「あっ、そういえばそうね。私はヒュリピア、それじゃまた明日ね!」


 そう言って人魚の少女―― ヒュリピアはボートから海に飛び込んで泳いでいった。


「いいの? あんな約束しちゃって」


 ヒュリピアが去っていった方を見ていたらエレミアが声を掛けてくる。


「ああ、人魚達と取り引きが出来るかもしれない。この機会を逃す手はないよ」


「人魚達なら魚を沢山捕ってそうだもんね」


 そう、人魚達なら色んな魚介を捕っているはず。陽も大分傾いてきたので俺達は街に向かいボートを進め、宿に着く頃にはすっかり暗くなっていた。


 宿に入り、カウンターにいる猫耳のオッサンから鍵を受け取った後、部屋には戻らずに食堂に向かった。適当な席につき、給仕をしている別の猫耳のオッサンに頼んで料理とエールを運んで貰う。勿論、海鮮料理だ。魚の煮付けに貝と野菜のソテー、魚と海老のスープ、どれも旨そうだね。魔力収納の中ではアンネとギルがブーブーと文句を言っているが、後で料理を沢山作ると約束して大人しくしてもらった―― 作るのはエレミアだけど。


「お? 何だ、お前らもここの宿なのか?」


 ギルドマスターが言った通りの旨い食事を楽しんでいると、ガラの悪そうなスキンヘッドの男が話しかけてきた。と思ったらガストールじゃないか。紛らわしいな、どこかのヤクザ者が絡んで来たのかと思ったよ。


「お久しぶりです。ガストールさん達もこの宿に?」


「ハハッ、久しぶりって言うほど経っちゃいねぇがな」


 そう言いながら、ガストールは俺達と同じテーブルの席に座って来る。ん? そんな所に座っても俺は奢らないぞ。酒が飲みたければ自分のお金でお願いします。


「この宿は安全だぜ、なんせ元冒険者がやっているんだからな」


「元冒険者? それって従業員全員がですか?」


「ああ、そうだ。しかも全員ゴールド級だったらしい。そんな奴等がやっている宿でバカな真似なんか出来ねぇだろ?」


 おぅ…… だからあんなに頼もしい雰囲気をしていたのか。でも猫耳なんだよな~、渋いオッサンが猫耳って…… この宿の名前で勘違いした奴は絶対俺だけじゃ無いはずだ! たぶん。


「それで、お前らはあのお嬢様にお呼ばれされたんだよな? どうだったんだ?」


「歓迎してくれた以外は特に何も無かったですよ」


「ほぅ、そうか…… なら良いんだけどよ。気になる依頼書を見つけたんでちょっとな」


「それってどんな依頼なんですか?」


「この街に向かってる時に、あのお嬢様に盗賊と間違えられただろ? どうやら最近この領内で盗賊被害が頻繁に起きているようだな。依頼は討伐じゃなくて、アジトを突き止めてほしいって内容だったぜ。恐らく自分達で解決する気なんだろうよ」


 成る程、それで俺達を捕まえようとしたのか。


「でも、話ぐらいは聞いてくれても良かったんじゃないの? ギルドカードも確認しないでいきなり襲い掛からなくてもいいと思うわ」


「嬢ちゃん、それは仕方がねぇよ。ギルドカードってのは持ち主の魔力を込め続けないと読めねぇ仕組みになってんだ。そうなるとある程度近づかなくちゃならねぇだろ? そうやって近づいた所を襲うっていう手口もあるからな。取り合えず怪しい奴は捕まえてから調べた方が安全なのさ。今考えてみたら、あのゴーレムの動きはゴブリン共との戦闘と比べると怠慢だった気がする。だから俺達でもあそこまで耐えられたんだと思うぜ。あのお嬢様のいう通り初めから殺す気なんてなかったって訳だ。例え怪我を負わせても教会の回復魔法があるしな」


 それでも、パイルバンカーは非道いと思うけどね。多分俺の丸ノコに対抗したんだと思うけど、当たったら怪我どころじゃなかったぞ!

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