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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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55

 

 戦いは俺達の勝利で終わった。地上へと落下したスキュムがまだ生きていたのは驚いたが、そこはクレスと他の勇者候補が倒してくれたので一安心である。


 空から迫り来るスキュムの巨体に、クレス以外の勇者候補二名が何してんの? って顔で俺を見ていたような…… うん、きっと気のせい―― だといいな。



 その後、大将を失った魔物達は一斉に山の方へと逃げ出した。空にいる魔物達は、動けない俺に代わってテオドアやバルドゥイン、堕天使達が追撃してくれているが、地上では結構苦戦しているようだった。


 春になって雪が溶けたとは言っても、元が腰に届くぐらいの積雪だったのが足首までになっただけ。当然そんな雪原ではいくら雪に慣れていようとも、全力で逃げる魔物を追うのは難しい。


 このまま山の中まで逃げられてしまうのかと危惧していたところへ、何とその山中から帝国軍が現れ、向かってくる魔物を容赦なく仕留めていく。


 確か、此処に来る前に帝国軍がレグラス王国の国境付近で待機しているとか聞いていたな。漸く動き出してくれたのか。これで魔物の逃げ道も塞いだ事だし、俺達の出番はもうないね。




「…… ライル、どうやら終わったみたいね。…… 大丈夫? 」


 未だエレミアに支えてもらっている俺に、リリィが眠そうな目を向けながら声を掛けてくる。


「まだ体に力が入らないけど、喋れない程じゃないから大丈夫。少しすれば直ぐに回復するさ」


「…… 流石は内にマナの大樹がある者ね。……魔力の回復量からして規格外だわ。ついでに言うけど、動けなくなるくらいに魔力を使ったのだから、更にライルの魔力量が増えているかも知れない」


 そうか、魔力保有量は個人の資質と訓練次第で増やせるんだったな。でも俺の場合は魔力が少なくなったからではなく、一気に大量の魔力を使った反動で体が動かなくなっているだけ。


 そもそも、俺でさえ自身の魔力がどのくらいあるのか把握しきれていない。正直、ここ最近魔力切れなんて起こってはいないんだ。これ以上増えたとて、扱えきれなくては宝の持ち腐れってもんだよ。


『人の身では一度に使用する魔力量には限りがある。だからこそお前の肉体を我等と同じ魔力細胞へと変化させる必要があるのだ。まぁそう焦る事はない。今もゆっくりではあるが、確実にお前の体はその魔力量に見合ったものへと変化している』


 ギルが言うように、俺の細胞が全部その魔力細胞とやらに変われば使用する魔力量の制限は無くなる訳だけど、同時に人間をやめる事にもなりそうで少し不安なんだよね。


『それが調停者として選ばれた者の宿命だ。しかし、心まではいくら彼の御方でも干渉は出来ない。自分をやめる事になる訳ではないのだから、そう恐れる必要はないのではないか? 』


 ギルの言う通り、この世界で生まれ変わっても中身は俺のままだったからね。完全な調停者になったとしても、劇的に変わるなんて事も無さそうだ。



 少し安心した俺は、下の様子を確認してみると、帝国の指揮官と思わしき青年とゲオルグ将軍が握手を交わしていた。


 魔物ももう残り少ない事だし、先に休ませて貰おう。


 テオドアに頼んで皆を呼び戻してもらい魔力収納への入れた後、俺はエレミアに支えられつつ、アンネの精霊魔法で全線基地へと戻ってはテントの中で横になる。



『…… レイチェル。私達、勝ったから』


 リリィは魔力収納の中で、未だに目を覚まさないレイチェルに勝利報告をしていた。それを聞いてはいるのか、レイチェルの寝顔がピクリと動いて反応を示す。


『きっと喜んでいますよ』


『…… だと嬉しい』


 寝ているレイチェルの世話をしてくれているアグネーゼがそう言うのだから、たぶんそうなのだろう。ギルの話では闇の属性神が絡んでいるのが原因だと言うけど、それって本当に大丈夫なのか? 力はくれるけど、黒騎士みたいにえげつない制約をされたら困るんだけどな。


『ライル! ムウナ、がんばった! いいつけどおり、すがた、かえてなかった。まもの、たくさんたおした! ごちそう、くれ!! 』


『そうそう、あたしも本当ならこの戦いには干渉してはいけないけど、あんたの為に一肌も二肌も脱いだのよ? 何かしらの労いが欲しいわね。例えば、花酵母酒とかデザートワインとか? それとその酒に合いそうなご馳走とかね!! 』


 あぁ、ハニービィから、二人がそんな事を言っている映像が送られてきてたっけ? 約束はしていないが、ムウナは良く言う事を聞いてくれているからな。少しくらいの我が儘は許容範囲だ。


『分かった。体が回復したら、酒や食材を用意しておくから、アグネーゼに何か作って貰おう。希望があるなら言ってくれ。出来るだけ揃えてみるよ』


 そんな俺の言葉に、アンネとムウナは小躍りしながら喜んでいた。


『堕天使達もお疲れ様でした。急に仕事を休ませてしまってすみません。でもお陰で助かったよ、ありがとう』


『気にするな、長よ。むしろ久々の戦いで、部下達の良いストレス発散となっただろう』


 あ、やっぱりストレスは感じていたのかな? これからは鳥獣人も業務に加わったし、堕天使達の休みも増えるだろうね。


 その後、ゲイリッヒとバルドゥインに労いの言葉を送り、クレス達が戻ってくるまで軽く寝る事にした。


 俺はエレミアが見守る中、目を瞑って回復に努めた。

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