雪原の戦い 3
「あの声には聞き覚えがある。なぁ、もしかしてあのゴーレムにはアンネとかいう妖精が乗っているのか? 」
「それに肩に乗っている男の子、やっぱりただ者じゃなかったね。あんなのを引き連れているなんて…… 後どれ程の戦力を隠し持っているのやら」
空中の魔物はアンネが操作するゴーレムが、地上の魔物はムウナが掌から発射される毒針によってどんどん仕留めていく。
「このままでは、クレスの言ったように私達の出番が無くなりそうだな。これは呑気に空を見上げている場合ではないぞ! 」
「そうだね、レイシア。今は細かい事は置いといて、魔物を倒すのに専念しよう! 」
僕達はムウナの援護を受けつつ、敵陣を分断する為に攻め込んでいく。
アロルドの聖剣が魔物を突き、魔法で凍らせる。レイラの聖剣が敵を叩き斬り、レイシアはマナトライトを広げた大盾で魔物の攻撃を防ぎ、レイラと共に土魔法で壁を作っては敵陣をバラバラにする。僕は光を纏い、光速で魔物達を聖剣で斬り伏せていく。
ライル君からの魔力補充があるので、聖剣を長時間出していられるは有り難い。魔力の残りを気にしなくていいのは本当に楽なものだ。
義勇兵達も相変わらずの突貫でハラハラするが、今の所目立った負傷者は出ていない。この調子なら完全勝利も夢じゃないかも知れないね。
そんな風に思っていた時、空に拡がる圧倒的な魔力の気配に、僕達も魔物も揃って動きが瞬時に止まった。
まだ戦いの最中だと言うのに、お互いに立ち止まり空を見上げる様子は異常とも言えるだろう。しかし、それ以上にとんでもないものに、僕達は釘付けになってしまったんだ。
ライル君の濃い魔力が広範囲に広がった気配を感じた後、周囲にいるロック鳥とシザーヘッドが空中で静止し、体があらぬ方向へのねじ曲がり、千切れ、内部から破壊された肉片が空から降ってくる。
「おいおい…… 何だあれは? 何をどうしたらあんな事になるんだよ! あんなの見せられたら勇者候補という肩書きが霞んでしまう気がするぜ」
「ハハ! やるじゃないか! まさかここまでとはね…… 人は見かけじゃないんだな! 」
ライル君の力に戦慄するアロルドの横では、レイラが興奮を隠せずにいた。
「あれがライル殿の隠していた力か…… 何とも頼もしく、それと同じくらいに恐ろしくもある」
「ライル君ならあの力を正しく使ってくれるさ。だから怖いとは思わない。さぁ、何時までも呆けていないで、僕達は僕達の戦いをしよう! 」
間抜けにも立ち止まり空を見上げる僕達と違って、ゴーレムは今も魔物と戦闘を繰り広げていた。急いで僕達もその後を追い、戦いを続行させる。
いったいどれくらい魔物を仕留めただろうか? 一向に終わる様子のない戦いにいい加減辟易し始めた頃、スキュムの機嫌が良い声がここまで聞こえて目を向けると、そこには全身金属へと変貌したスキュムに、堕天使達が悪戦苦闘している様が見える。
まさか、あれがスキュムの本当の姿なのか? あの堕天使達の槍が尽く弾かれてしまっている。なんていう強度だ。
「クレス! 上が気になるのは分かるが、此方にも集中してくれ!! 」
アロルドが聖剣にてシルバーコングの胸を穿ち、僕を注意してくる。戦争中に余所見なんかしている場合ではない。頭では分かっているのに、どうしてもライル君達とスキュムの戦いの行方が気になってしまう。
それでもどうにか自分を抑え、一体でも多くの魔物を倒そうと聖剣を振るっていると、突然繋がっていたライル君の魔力が切れてしまった。
まるで命綱を外された思いだが、何かあったのだろうか? そう疑問に感じた瞬間、圧倒的な魔力の気配に鳥肌が立つ。反射的に空へ顔を向けると、ライル君とスキュムがお互いに睨み合っていた。
だが僕には分かる。あれはただ向かい合っているだけではなく、見えない所でライル君のスキュムの激しい攻防が繰り広げられている。なんて静かな戦いなんだ。
二人の様子を気にかけながら魔物と戦う事暫く、遂にその静寂な戦いに決着がついた。
スキュムの羽が内側から崩壊し、嘴から血を吐きながら空から落ちてくる。魔力を使いすぎたのか、ライル君はエレミアに支えられグッタリとしていた。あの様子ではもう魔力の補充は出来ないだろう。
「やりやがった! アイツら、スキュムを倒したぞ!! 」
「という事は、これでアタイ達の勝ちで良いんだよね? 」
同じくライル君の魔力に気付いたアロルドとレイラも、落ちてくるスキュムを確認して湧き立つ。
「いや、少し待て…… 私の気のせいか? スキュムが此方へ落ちてきているように見えるのだが? 」
ん? 確かに、レイシアの言う通り近づいてくるような……
「気のせいなんかじゃない! 早くこの場から離れるんだ! 此処へ落ちてくるぞ!! 」
僕達は落ちてくるスキュムに潰されないよう蜘蛛の子を散らす勢いで退避する。その様子に魔物達も気づいて慌てて逃げ出す。
スキュムが地面に叩き付けられた衝撃で激しい地鳴りが起き、近くにいた誰もがまともに立ってはいられない。
土煙で視界が塞がるが、僕達も魔物も動く様子はなく、ただ唖然と土煙が晴れた目の前の光景に釘付けになっている。
そこには、最早満身創痍のスキュムが倒れていた。
ライル君…… スキュムを倒してくれたのは喜ばしい事なんだけど、もう少し地上への配慮をして貰いたかった。危うく押し潰される所だったよ。