雪原の戦い 2
戦場となるまだ雪が積もる平地を歩いていると、丁度前方から魔物の軍と思われる影が見え始めていた。
それに気付いたライル君とエレミア、リリィの三人が飛び上がり、魔力収納から堕天使達が現れる。
僕達は既に分かっているから今更何とも思わないが、初めて見る兵士と冒険者には、突然何も無い空間から堕天使が出てきたものだから、皆して口を開き空を仰いでいた。
「おい、堕天使だけじゃ無かったのかよ」
「凄いな…… 赤いゴーレムに、あれはまさかレイス? それに一見子供に見えるのが一人いるけど、アタイの勘があれはヤバいと叫んでいる。あれ全てがライルの仲間なのかい? 」
堕天使しか見ていなかったアロルドとレイラも他と同じ様に空を仰いでは顔を引きつらせていた。
「うむ、バルドゥインは予想していたが、まさかムウナまで出てくるとはな…… それだけライル殿は本気だと言う事か」
「あぁ、どうやらそうみたいだ。ライル君達に全部持っていかれないよう、僕達も頑張らないといけないね」
僕は気合いを入れなおして、段々とその姿がハッキリとしてくる魔物達を見詰める。
やがてお互いに適度な距離を置あて両軍が睨み合う中、大きな鳥の魔物が空から下りてきた。
見た目はロック鳥に似ているが、羽と嘴、そして足爪が金属のように光を反射していた。あれが報告にあったスキュムだとすぐに分かったよ。シュタット王国で戦った異質なミノタウロスのガムドベルンと同じ嫌な気配を奴から感じる。
アロルドもそれに気付いたのか、緊張した面持ちでスキュムを睨んでいた。
「へぇ…… あれが魔王から力を貰ったって奴? 聞いていた以上に嫌な感じがするよ。あんなのが他にもまだいるなんて、本当に面倒だね」
僕とアロルドと同じ勇者候補であるレイラも、スキュムから感じる魔王の気配に強い嫌悪感を抱いているみたいだ。
下りてきたスキュムとゲオルグ将軍が言葉を交わし、遂に戦いが始まった。
「分かってるな、クレス? 俺達は後ろを気にせずただ前に突き進み、あのスキュムとかいう鳥を仕留める。あんなの勇者候補以外じゃ倒せないだろうからな」
「あぁ、分かっているさ。でも、僕達にしか倒せないというのはどうかな? 」
僕の言葉に疑問符を浮かべるアロルドを横目に、シャロットが作成してくれたゴーレム達へ魔物を倒しつつ僕に付いてくるようにと命令を下す。
「レイラはこんな大規模戦闘は初めてだよね? 怖くはないかい? 」
「うん? 数は多いけど、コイツらは畑を荒らす害獣みたいなもんだろ? 害獣駆除は慣れているから平気さ! 」
「それは頼もしいな! 土の勇者候補に選ばれただけはある。同じ土魔法を使う者として、共に魔物共を駆逐してやろうではないか!! 」
ハハ…… 流石はレイシアが認めた女性だけあって豪胆だね。でも、この状況では凄く頼もしいよ。
「良く聞け! 勇敢なる兵士、冒険者諸君!! これは始まりに過ぎない。我等が目指すは魔王の討伐! こんな所で足踏みをしている場合ではない!! 我等人間の強さを、魔物共に思い知らせてやろうではないか! 慈悲など不必要、目の前の敵を容赦なく、全力で叩き潰せ!! 」
ゲオルグ将軍が皆を鼓舞している間に、空にいるライル君達が魔物に向かって動き出した。
「此方も行くぞ! 魔物如きに、人間が負ける訳にはいかない!! 全軍、突撃!!!! 」
―― ウォォォオオオオ!!!! ――
全員が各々の武器を天高く掲げては、空気を震わせる雄叫びを上げる。それは僕達も例外ではなくレイシアは剣を、僕とアロルドとレイラは、スキルで呼び出した聖剣を空へ掲げては声を上げた。
レイラの聖剣は、全体的に見れば身の丈もある大剣なのだが、異様に分厚く、剣先が丸くなっていて、斬るというより叩き割るような武器だ。そんな物を軽々しく肩に担ぐ姿は、とても農家の女性には見えない。
「行くぞ! 遅れるなよ!! 」
「そう言うアロルドこそ!! 」
アロルドは義勇兵を、僕はゴーレム達を連れて敵陣へと突っ込んでいき、お互いの側にはレイシアとレイラが追従している。
先頭にいるのはガイアウルフにシルバーコング。これも報告にあった通りだ。先ずは両軍がぶつかる前に、僕は聖剣に光を纏わせ大きく前方へ振るうと、光の刃が飛び出してはシルバーコングを切り裂く。
アロルドもまた自分の聖剣を勢い良く突き出し、大量の水を放出させ、ガイアウルフ達を飲み込んでは凍らせて破壊する。
「やるじゃないか、優男! アタイも負けてらんないね!! 」
気合いの入ったレイラが、その大きな聖剣を地面へ豪快に叩きつけると、地面が棘の形に隆起して魔物達を串刺しにしていく。
僕達勇者候補が魔物の陣形を崩し、アロルドの義勇兵と僕のゴーレムが追い討ちをかけ、そうして道が開いた所をそのまま走り抜ける。
まだ残っている魔物は後ろに控えている兵士と冒険者に任せて、僕達はひたすらに攻め込むだけ。
「凄いぞ、クレス! 魔法を使う度に魔力が回復していくぞ!? これなら無限に魔法が使えそうだ! 」
「あんな強大な魔力を他へ与えるなんて、これがライルの力なのかい? 本当に大したもんだよ! あんたが敗ける気がしないって言った意味が漸く分かった気がするね!! 」
「うむ! だが、これはライル殿の実力のほんの一部、まだまだこんな物ではないぞ!! 」
ライル君から繋がる魔力から、減る度に魔力が補充されていく様子にアロルドとレイラは興奮を隠せないようだ。無理もない、僕も初めて経験した時も同じだったから。この安心感は一度味わってしまうと中々忘れられない。たぶん二人もライル君の力の虜になってしまっただろうね。
しかし、前に進む程魔物の抵抗は激しくなり、やはりライル君達では空の魔物を全部食い止める事は難しいらしく、ロック鳥とシザーヘッドが空から襲ってくる。
僕達は自分の身は自分で守れるから良いものの、義勇兵達が危ない。幾ら命を捨てているからと言って、やっぱり僕は彼らを見捨てたくはないんだ。
一人の義勇兵にロック鳥が鋭い足爪で襲い掛かろうとしている所を僕が割って入ろうとした時、空から針が降ってきてロック鳥に突き刺さったかと思うと、突然そのロック鳥が地面の上でのたうち回り、体の穴という穴から血が吹き出て動かなくなる。
針が飛んできた方へ目をやれば、そこには赤いゴーレムの肩に乗ったムウナの姿があった。
「良いぞ、ムウナ! この調子でバンバン倒して、ライルからご馳走を引き出すのだぁ!! 」
「おぉ! ムウナ、ごちそうのため、がんばる!! 」
ゴーレムから聞こえてくる声はアンネだな? まったく、あの二人はどんな時でも変わらないね。