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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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雪原の戦い 1

 

 今日、ライル君がエレミアとアンネを連れてレヴィントン砦へとやって来た。


 予めマナフォンで連絡を受けていた僕は、リリィとレイシア、そして同じ勇者候補であるアロルドとレイラも誘ってライル君達を出迎える。


 僕達はもう何度となく会っているので慣れてるけど、初めて会うアロルドとレイラにとって、ライル君の姿は異質に見えるのだろう。その証拠に二人して緊張した面持ちで、此方へ歩いてくるライル君から目を離せないでいた。


「なんだよ、あれ…… 」


 アロルドの口から漏れ出た呟きが、傍にいた僕の耳に入る。


 そこには馬鹿にしたり、見下しているような感じはなく、驚きと戸惑いでつい声が出てしまったのだろう。その気持ちは良く分かるよ。今のライル君は最初に出会った頃よりも更に魔力量が増え、最早人間が持つ量ではないとリリィが言っていた。そんな彼の魔力と予想外の姿に、二人の思考が一瞬だけ止まってしまうのも無理はない。


 そんなアロルドとレイラの気持ちを知る由もないライル君は、何時ものように僕達と挨拶を交わし、二人にも丁寧な口調で自己紹介をする。


 自分の体を何一つ苦にも思っていない様子で自然体で話し、レイラの失礼な疑問にも異に介さない彼に、アロルドは始終戸惑っいた。


 傍には珍しいエルフと妖精がいるというのに、二人共ライル君しか見えていないようで、レイラの発言に気を悪くしたエレミアの言葉で、やっと彼女達がいた事を知ったぐらいライル君の衝撃は強かったみたいだね。



 その後、本部の会議室にて何処からともなく現れた堕天使達にまた驚かせられたアロルドとレイラは、畑の世話に戻って行った。若干アロルドは乗り気じゃ無かったけど、レイラに手を引かれて連れて行かれる様を、ライル君は微笑ましく見送っていた。


 ライル君達を軽く町を案内し、宿へと向かってこの日は終わり。明日から彼等を含めた作戦会議が始まる。


 初めは懐疑的だった各部隊長も、突如として現れる堕天使達に希望を見出だし、幾分か顔色が明るくなったのが目に見えて分かる。この日の会議はライル君の持つスキルや堕天使の事が殆どでちっとも進まなかったな。どうにかゲオルグ将軍の叱咤で皆を抑えてくれてはいたが、もっと詳しく聞きたくてそわそわしていた。そんな部隊長達に、ゲオルグ将軍も頭を抱えて唸っていたのが印象的な会議だったのを覚えている。


 空の敵への憂いも晴れ、将軍と部隊長、そしてアロルドにレイラも、昨日までと違って顔色は良い。勿論僕だって、ライル君が来てくれてとても安心している。


 ライル君が動けば、自ずと彼の中にいる者達もこの戦いに参加する事になるだろう。残念ながら、ギルディエンテは人間と魔物の戦争に関わるつもりは無いみたいだけど、アンネは協力的だし、ライル君を王と呼び付き従っているバルドゥインが出てこないなんて考えられない。それとゲイリッヒにテオドアも力を貸してくれる。何よりあのムウナが大人しく魔力収納にいるとは思えない。


 ライル君自身もあの膨大な魔力を僕達に送り、ほぼ無尽蔵に魔法が使えるようになるし、生きてさえいれば怪我や欠損だって治せる。


 下手したら一国の戦力と同等の力を持つ事実を、ゲオルグ将軍や部隊長達、アロルドとレイラは知らない。もし気付いてしまったなら、この晴れやかな顔がどう変化してしまうのだろうか?


 一個人が持つにはあまりにも大き過ぎる力は、時として人々を恐怖へと叩き落とす。国を担う者達としてとても看過出来る問題では無くなってしまう恐れがある。


 それを危惧して、僕達は必要以上にライル君の力を当てにしないよう極力避けてきたのだけれど…… 今回は彼の妹分であるレイチェルが重症を負わされて今も意識が戻っていない状況になり、珍しくライル君が怒っている。


 本気になったライル君と仲間達によって戦場がどうなってしまうのか、それは僕にも分からない。一つ言えるとしたら、魔物側は運が悪かった。まさかこの世界で最強かも知れない戦力をぶつかる事になるのだから……









「どうした、クレス? まだ日も昇ってはいないというのに。随分と張り切っているじゃないか」


「いや、目が冴えてあんまり眠れなかっただけださ。だって、あのライル君が魔物との戦争に加わるんだよ? 今回だけだとしても、気持ちが昂ってしまってね」


「うむ! その昂り、私にも分かるぞ!! しかし休める時にきちんと休むのも大切だ。日が上るまでまだ時間はある。今更寝ろとまでは言わないが、横になるだけでも十分な休息にはなるぞ」


「そうだね…… うん、万全な状態で挑みたいし、出発まで少し横になってくるよ」


 急遽臨時の前線基地として立てたマジックテントに入って横になる。後数時間もすれば、僕達はここを出立し、魔王軍とぶつかるだろう。



 魔物達には悪いけど、この戦い…… 敗ける気がしないな。




 結局眠りこそしなかったものの、レイシアの言うように横になって正解だった。


 日が上り始めた頃、休んでいたテントから出て既に集まっている皆の下へと向かう。


「よぉ、遅かったな。そろそろ出発だぞ」


「早く魔王ってのを倒してアタイの畑に帰りたいね」


 僕はアロルドとレイラに軽く挨拶をしてその輪に加わる。


 いよいよだ。今日でこの戦いを終わらせれば、魔王へとまた一歩近付ける。

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