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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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「フハハハハ!! どうした? そんな攻撃では私の体に傷一つさえ付けられんぞ! 」


 全身から金属のような鈍い光沢を放つスキュムに、堕天使達の光線、リリィとエレミアの魔術、テオドアの身体変化、その何れも奴にはあまり効いている様子がない。


「くっ! なんて硬さだ。しかし、まだ魔法は封じられているまま。休まず攻撃の手を緩めなければ倒せるぞ! 」


 魔術ではどうしようもないと判断したタブリスは、堕天使達と共にスキュムへ接近して槍を振るう。


「くそっ! 俺様の電撃が全然効かねぇ。金属ってんなら、火で溶かしてやろうか? 」


「…… それは無理。私とテオドアだけじゃ、金属を溶かすには火力不足。…… 中途半端な火力では、奴の体を赤く熱するだけ」


 うん? 溶かすまではいかなくとも高温で熱するのは可能なのか。それなら……


「リリィとテオドアは最大火力でスキュムを燃やしてくれ。十分に赤く熱した所に、今度はエレミアの水魔法で冷やすんだ」


「せっかく熱したのにすぐ冷やすの? 」


「…… ! 成る程。…… わかった、試してみる価値はある」


 エレミアはピンと来ていないようだが、リリィは気付いたみたいだ。


 そう、これからしようとしている事は、所謂焼入れというやつだ。本来、鋼や鉄の強度を上げる為のものだが、焼入れだけでは脆くなるので、焼戻しという過程を経て初めて強度は上がる。今回スキュムに仕掛けるのは焼入れだけ。上手くいけばスキュムの金属のような体が多少は脆くなってくれるかも。


「よく分かんねぇが、取り合えず火で奴を熱くすりゃ良いんだろ? 」


「…… そう、私とテオドアでスキュムの体を赤く染め上げる。全力でいく」


「へっ! 言われずとも俺様は何時も全力だぜ!! 」


 体が炎へと変化したテオドアがスキュムに突っこんでは纏わりつき、そこにリリィの魔術で発現した炎の鎖がスキュムを縛り、そのまま焼いていく。


「何だ!? これでは奴に近付けんではないか! 」


『タブリス、今は危険だからスキュムから離れてくれ。ちょっと試してみたい事があるんだよ』


『長がそう言うのならそれに従おう…… 聞いたかお前達! ここは一時距離を取れ! 』


 タブリス達が離れると、それを待っていたかのようにスキュムを燃やす勢いが一段と増した。


「無駄だ! そんな炎など私には効かん!! いい加減諦めて死ね!! 」


 スキュムは貼り付くテオドアとリリィが作り出した炎の鎖を振りほどこうするが、それでもしつこく付きまとってくる様子に苛立っているようだった。


「ハハッ!! 温めるだけじゃなんだしよ、このままテメェの魔力が無くなるまで吸い尽くすってのも良いなぁ! 」


 レイスであるテオドアは相手の魔力を吸収する事が出来る。今はスキュムに張り付き、その魔力を吸収しながら魔術を発動しているので、俺からは殆どテオドアに魔力は送っていない。そうか、魔力切れで意識を刈り取るのも良いかもしれないな。


 余裕なテオドアに比べてリリィは苦しそうな顔を浮かべていた。魔力的には平気なんだが、魔術の維持に大変なんだろう。大丈夫か? と声を掛けたいけど、リリィの邪魔をしてはいけない。ここはリリィとテオドアを信じて黙って見守ろう。


 時折スキュムが魔法を使って抵抗を試みるが、尽く発動した瞬間に消されていき、体と同じ様に怒りで燃え上がっている。


「おのれ、邪魔な魔力だ! 魔法さえ使えれば、貴様らなんぞに…… お前さえいなければ…… 」


 何かものすっごい睨んでくるな。まぁ俺のせいで魔法が消されていくんだから仕方ないとは思うけど、やはり恨みや憎しみをぶつけられるのは気分が良いとは言えないね。


 でもな、怒っているのは此方も同じなんだよ。レイチェルが受けた苦しみを、今度はお前が受ける番だ。



 赤く燃え上がっているスキュムに異常事態と思ったのか、周囲にいたロック鳥とシザーヘッドが集まってきては、俺達へと襲い掛かる。


 これはまずいな…… リリィとテオドアは手が離せないし、俺もスキュムの動きを鈍らせ、魔法を封じているから余裕がない。タブリス達とエレミアだけであの数相手に持ちこたえられそうもないぞ。


 そう焦りを覚えたのも束の間、突如として発生した赤い霧に包まれた魔物が、体内から赤黒い刺を生やして落ちていく。


「王の邪魔をするなど、不敬である」


『助かったよ、バルドゥイン。良く来てくれた』


『勿体なきお言葉…… 邪魔者は俺が始末する故、ご存分に事を為されるといい』


 相変わらず凶悪だけど、味方になるとこれほど頼もしい者はいないね。



『おい、相棒! 何処までやりゃ良いんだ? 』


 テオドアの魔力念話を受けてそちらに目を向けると、全身を真っ赤に染め上げたスキュムがいた。


『あぁ、そのぐらいでもう十分だ。ご苦労様』


 俺はエレミアに水魔法の用意を頼み、タイミングを伺う。


「ライル、私の方は何時でも大丈夫よ」


 エレミアのスタンバイが完了したので、俺は魔力念話で指示を出す。


『リリィは魔術を止めて、テオドアは急いでそこから離れんだ! …… エレミア、水魔法で奴を体を冷やしてくれ! 』


 スキュムから炎の鎖が消え、テオドアが離れるを確認したエレミアが、水魔法を発動させる。


 エレミアの突き出した掌から、激しい水流が噴出され、スキュムの真っ赤になった体にぶつかったその瞬間、一気に水が蒸発して爆発が起こり、俺達の視界は白に染まる。


 規模は小さいが、これって水蒸気爆発か? 皆に離れるように言っておいて良かったよ。

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