52
「本分を忘れた神の傀儡ならば、今ここで消してしまうのが世界の為。そこの雑魚と共に死ね! 」
スキュムから魔力が練られ魔法が放たれる―― 事はなく、空振りに終わった。
「何故だ! 確かに魔法は発動したのに、どうして何もおこらぬ!! 」
「お前が今何処にいるのか分かっていないようだな。周囲に充満する俺の魔力が、お前の魔法を支配して発動した瞬間に消したんだ。この魔力に包まれた空間にいる限り、魔法は使えないものと思った方が良い」
「この…… 化物め! 」
魔物に化物呼ばわりされるとは、心外だね。
「長が奴の魔法を封じている間に仕留めるぞ! 」
あっ!? スキュムの言葉に内心苦笑していたら、タブリスが仲間の堕天使を連れて攻撃を仕掛けに行ってしまった。
タブリスは自慢の槍捌きで、他の堕天使達は魔術による光線でスキュムを追い込もうとしているが、そこは魔王から力を貰っているだけあって一筋縄ではいかない。魔法が使えなくともその巨体から繰り出す足爪で応戦し、金属の羽で光線を弾く。
「中々頑張るわね。それでどうするの? 他の魔物達のように、ライルの魔力で支配して内側から破壊する? 」
「そうしようと思って既に試してみたんだけど、思いの外抵抗が強くて失敗したよ。精々動きを鈍くする事ぐらいしか出来ないかな? 今繋がっている魔力を切って、奴を支配するのに集中すれば出来なくはないが、それだと俺の魔力を殆ど使う事になるから、また前みたいに暫く倦怠感が続いて動けなくなると思う」
エレミアに説明したように、奴の肉体を支配するには全力で取り掛からないと無理だ。でもそうすると、クレス達や仲間への魔力供給が止まってしまう。
「それでも鈍くは出来るんだろ? ならそれで良いじゃねぇか。後は俺様達に任せりゃいいだけだぜ」
「…… テオドアの言う通り。私も、ライルも、そしてタブリスも、皆奴に怒りを覚えている。…… ここは誰が倒すのではなく、協力する事を強く奨める」
そうだな。何もかも一人でする必要はないが、やっぱり俺の力で仕留めたいけど、ここは我慢だ。奴に一泡吹かせられるのなら、それで妥協するのも吝かではない。
「じゃあ、それで行こうか。俺がスキュムの動きを鈍くさせるから、その間に総攻撃を仕掛けよう。タブリス達には俺から伝えておく。俺が指示するのでタイミングを上手く合わせてくれ」
リリィが魔力を練り、エレミアが剣を抜くのを横目に、俺はタブリス達に魔力念話を送る。
『一旦攻撃を止めて離れてくれ。今から俺が奴の動きを鈍らせるから、皆で一斉に攻撃してほしい』
『承知した。聞いたか、お前達! 攻撃を止めて待機だ』
タブリスが離れるを確認して、俺は魔力をスキュムに浸透させて肉体を支配しようと試みるが、やはり抵抗が激しく上手くいかない。しかし、スキュムが支配から抵抗をしている間は、そこに多くの意識を持っていかれるので結果動きは鈍くなる。
『今だ! 攻撃を!! 』
俺の合図にタブリス達堕天使は穂先から光線を放ち、リリィが水魔術でスキュムの頭だけを水球に閉じ込めて窒息死させようとしている所に、エレミアは魔法で上から稲妻を落とし、テオドアが体を雷に変化させて突っ込む。
スキュムは水球から逃れる為、必死に頭を振ろうとしている様子が伺えるが、俺が動きを制限しているので思うようにいかず悪戦苦闘している。そこにエレミアとテオドアの雷攻撃に加えて、堕天使達の光線で胴体に小さな穴が増えていく。その痛みに身悶えする姿は、何とも無様である。
尚も魔法を放とうとするが、その全てを打ち消すので奴の魔力も順調に削れていき、後はこの状態を維持し続けていればその内倒せるだろう。
タブリスの報告によれば、まだ何か隠している力があるのでは? なんて警戒していたけど、それも無用になったかな?
やがてスキュムは諦めたかのように静かになり、空中で首と羽をダランと下げて静止する。そんな様子に堕天使達とエレミア、リリィ、テオドアは、やったか? みたいは顔をするが、声に出さずともフラグが発生。そして直ぐに回収する事となった。
スキュムの体から一気に魔力が暴出し、中にある俺の魔力を追い出してしまった。その反動で顔を包んでいたリリィの作り出した水球が弾け散る。
何だ? 突然スキュムの様子が変わったぞ。奴の中で魔力が脈打つのが視える。俺と同じ様に視えているエレミアも一気に警戒を高めていた。
魔力念話で何か様子がおかしいから距離を置くようにと伝えた後、変化はすぐに起こった。
スキュムの羽や嘴、足爪と同じく、全身が金属のような色に変わり、日を反射して怪しく光り出す。
「フフ、フフフ…… フハハハハ! やっとだ! 魔王様のお力が漸く私に馴染んで来たぞ!! 」
先程までとは打って変わって上機嫌に笑うスキュム。
「長よ、奴が魔王から受けた力を完全に扱いきれていないと判断したレイチェルは、あながち間違いではなかったようだ。今奴は完全にその力を我が物とした」
「おいおい、何だよあの姿は? またえらく堅そうだぜ」
今まで半端だった力が、ここに来て花開いたって訳か? ピンチになってパワーアップするのは正義の味方だけで十分なんだけどな。