51
〈鬱陶しい小物共め…… 〉
怒り心頭と言った感じのスキュムに、タブリスと堕天使達は穂先から光線を放つ。
〈馬鹿め! そう何度も同じ手が通用すると思うな!! 〉
穂先が光るのを見たスキュムは、金属の羽で自身の体を覆い隠す。それでも巨体故の遅い動作で何発か食らっているけど、半分以上は防がれてしまった。
スキュムの羽は大きく背中まで包み、足を折り畳んで頭も引っ込めれば、まるで卵のような形となる。
〈くっ、やはりのあの羽は堅くて邪魔だな〉
これにはタブリスも攻めあぐねているようだ。もしかしてこのまま防御体勢を取り続けるつもりではないだろうな?
なんて頭を過ったが、それは直ぐに掻き消えた。何故ならスキュムから膨大な魔力が練られていく様が、ハニービィから送られてくる映像からでも確認出来る。
『何か仕掛けてくるぞ! 皆急いでそこから離れるんだ!! 』
嫌な予感がした俺は、堕天使達に魔力念話を送るが、それでも彼等は動かない。
『ここで逃げては我等の誇りに傷が付く。心配するな長よ、あれは前にも一度見た。だから先程の言葉をそっくりそのまま奴に返してやろう。お前達、用意は良いな? 魔法障壁を展開! 』
タブリスは、周りに集まった堕天使と共に光の壁を魔術で作り出しては幾重にも重ねたその瞬間、スキュムを覆い隠していた羽が勢い良く広がり、巨大な風の刃が暴風を纏いタブリス達を襲う。
〈ウオオォォォオオオ!!! 耐えろ! 魔力は長がいる限り尽きる事はない! オレ達なら耐えられる!! 〉
障壁が一枚破られる度に新たな障壁を作り出し、スキュムが放った風の刃を防ごうとするタブリス達。しかし、向こうの方が威力が高く…… 一枚、また一枚と硝子が割れるような音を立てながら障壁が破れていく。やがて最後の一枚、タブリスの障壁だけが残り、必死にスキュムの魔法を食い止める。
〈終わりだ! いくら他種族でも、魔王様の邪魔する者は消えて無くなればいい! 〉
〈貴様こそ、長の安寧を乱す邪魔者ではないか! オレの誇りと、長の怒りを思い知れ!! 〉
タブリスが維持する障壁に付く前、他の堕天使達の障壁によって、スキュムの風の刃は、威力もスビードも落ちているようで、最後の障壁に皹が入った所で風の刃は完全に沈黙した。
〈フン、オレに同じ手は通用せんぞ? 〉
先程のスキュムが発言した内容をそのまま返すタブリス。いや、してやったりみたいな顔をしているけど、結構ギリギリだったよね?
しかもそんなタブリスに腹を立てたのか、スキュムが暴風を纏いて堕天使達へと突進してきた。その巨大と激しい風による荒々しいスキュムの攻撃は、周囲にいる魔物さえも巻き込み止まらない。
流石にあんなのは幾ら障壁を張ろうとも防ぎきれる事は出来ないだろう。この場から逃げるにしても、スピードだけはあるからそれも難しい。
〈二度と再生しないよう細切れにしてくれるわ!! 〉
万事休すかと思われたその時、魔力が周囲を包み、スキュムの纏っていた暴風が掻き消える。
「っ!? 何だ? 何が起こった? 何故魔法が消える!? 」
戸惑うスキュムだったが、堕天使達への突進は急には止まれずにそのまま向かうが、あの風を纏わないただの突進になってしまったので、難なく避けられてしまう。
まだ困惑の最中にいるスキュムに新たな災難が見舞われた。
「ウガァァァ!!! 」
突然叫び出しては激しく体を痙攣させるスキュム。原因は雷に変化したテオドアが張り付いているからである。
「どうにか間に合ったよ。タブリス、抜け駆けするなとは言わないけどさ。せめて何か一言あっても良かったんじゃないかな? 」
「申し訳ない。長の怒りは知っていたが、手を煩わせたくなかった―― と言うのはただの言い訳か。オレは自分が受けた屈辱を自分で晴らしたかっただけかも知れない」
「気持ちは察するけど、ここからは一緒に戦っても良いかな? 」
「勿論だ。長が来てくれたなら勝利したも同然だな」
ふぅ、どうにか間に合ったか。しかし、なんつう魔力を込めた魔法なんだ。スキルで支配して消すのは結構骨が折れる。流石は魔王から力を授かっただけはあるな。
「貴様…… その身から放つ気配は…… まさか神の? だとしたら何故邪魔をする! これは神が用意した戦いの筈だ!! 」
テオドアの攻撃を耐え抜き激昂するスキュムとは反対に、俺は静かに声をかける。
「初めまして、俺はライルと言います。既に気付いているかと思いますが、調停者なんて呼ぶ者もいます。この度は妹が大変世話になりました。今回はその礼がしたくてここへ来た次第です…… 誰の家族に手を出したか、たっぷりと後悔させてやるよ。覚悟するんだな」
周囲を包む魔力に俺の殺気を込めてスキュムを威嚇すると、ビクリと身を震わせた。
「…… 待って、私もいる」
「ライル、頭に血を上らせて冷静さを欠いては駄目よ」
魔力収納からリリィとエレミアが出て、飛行魔術で俺の隣で杖と剣を構える。
「あいつ、結構しぶとそうだぜ? 俺様の電撃をもろに浴びせてもピンピンしてやがる」
スキュムから離れたテオドアが言うように、ダメージを食らっている様子はない。あの痙攣と叫びは突然の電撃を受けた驚きからなるものだったのかな? いや、多少なりとも効いているとは思いたい。