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シザーヘッドを粗方仕留めていると、今度はロック鳥が此方へ向かって飛んで来た。
こいつらはデカイから目を瞑ってでも弾丸を当てる事は出来る。しかし、いくらミスリルと言えども、こんな小さい物を何発撃ち込もうとロック鳥は怯まず向かってくるだろう。
それならここは別の弾丸を用意するか。前々から作っていたけど、今日まで使う機会が無かったから丁度良い。
俺はまた魔力収納から新しい弾丸を取り出す。ミスリルから鉄へとグレードダウンはしているが、相手はロック鳥。堅い甲殻で身を守るシバーヘッドよりもずっと柔らかく、鉄でも問題はない。
最初に出した物と唯一違う点を言えば、弾の先端に魔石を仕込んでいるぐらいか。
予想通り、巨体故に小回りの効かないロック鳥に弾丸は簡単に当たるが、ダメージは微々たるもの。しかし、まだ弾丸と俺の魔力は繋がったまま。俺は繋がっている魔力で弾丸の先端に仕込んでいた魔石に施されている魔術を発動させる。すると、ロック鳥の体に埋まった弾丸が爆発を起こし、内側から肉と血を外へと吹き飛ばす。
弾丸に仕込んだ爆裂魔術の味はどうだ? 弾ける程にウマイだろ?
当のロック鳥は怯みこそしたが、まだ生きている。やはり一発程度ではそこまでの威力は見込めないか。なら、死ぬまで当て続ければ良い。
エレミアが高速で接近してくるシザーヘッドを雷魔法で落とし、俺は爆裂の弾丸でロック鳥を弱らせてから、丸ノコで頭部を切り刻む。
「はぁ、はぁ…… 」
「おいおい、随分とへばるのが早いな? そんな調子で大丈夫か? 」
リリィの息切れと、それを心配するテオドアの声が耳に入る。無理もない。慣れない飛行魔術と併用して敵を倒す為に別の魔術も使っているんだ。魔力なら俺が常に補充しているので魔力切れには早々なったりしないけど、精神の疲れまでは緩和できない。
そしてそれはエレミアも同じ。側にいる彼女の様子を見るが、我慢して表情には出さないようしているけど、明らかに疲労が蓄積している。
このままではエレミアとリリィが地上へ真っ逆さまに落ちてしまうのも時間の問題だ。ここは一旦二人を魔力収納で休ませる必要があるな。
そう考えを巡らませていると、一羽のロック鳥が真上から降りてきた。近付いて来ていたのは既に魔力を視て確認済みだ。俺は直ぐに弾丸を撃ち込もうとするが、ロック鳥から慌てる声が聞こえてくる。
「おい! 撃つなよ、相棒。このまんまじゃ、リリィが持たねぇからな」
なんと、テオドアはお得意の憑依でロック鳥の体を乗っ取り、その背中にリリィを乗せて休ませている。
成る程、これなら一々魔力収納にいかなくとも休めるとまでは言わないが、負担は軽減できる。
テオドアにしては珍しく他人に気を使ったね。
『テオドア、後一人乗れる余裕はあるか? 』
『あぁ、もう一人くらいなら何とかなる。エレミアも限界か? 』
『そうみたい。だから頼んだ』
まだ平気だと言い張るエレミアをテオドアが憑依したロック鳥の背中に乗せて、俺は一人で魔物達と対峙する。
正直、結構疲れるからスキュムまで使わずに取って置きたかったけど、そんな事を言っている場合ではないよな?
テオドアはロック鳥に憑依しているので思うように動けず、エレミアとリリィも疲労が貯まり休息が必要な中、魔物達が俺達を包囲していく。
ふぅ…… これはあまり使いたくなかった。間接的ではあるが、俺が初めて魔力支配で人を殺した時を思い出す。あの時の馭者の怨めしい顔は今も忘れやしない。それもあってか、この魔力支配の使用法は控えてきた。単に俺の力不足だったからもあるが、それよりも生き物の尊厳を平気で踏みつけているような気がして、気分が最悪になってしまうというのが一番の理由かな。
しかし、今はそんな事で愚図ってる場合じゃない。悪いけど、今日の俺は酷く怒っている。これ以上仲間や家族を傷付けるのなら、それ相応の反撃をさせてもらう。
俺は魔力を一気に放出し、包囲している魔物を包み込み、魔物一匹一匹に自分の魔力を染み込ませては肉体をジワジワと支配していく。
このスキルは、魔力“を”支配し、魔力“で”支配する。したがって、この世の全ての物質を支配する事が可能である。対象の魔力量によっては抵抗する力は違ってくるが、圧倒的な魔力で無理矢理押さえ付けてしまえば良い。
俺の魔力量なら、包囲している魔物全員を無理矢理に支配するのは容易く、突然体の自由が利かなくなった魔物達が戸惑っていいるのが分かる。
魔力支配で空中に静止させられた魔物達だが、それだけで終わる筈もなく、ここからが本番である。
俺は一切の慈悲を捨てて意識を集中させる。すると、ロック鳥とシザーヘッド達が踠き苦しみ、体の至る部分が捻れていく。
ロック鳥の羽、足、首があらぬ方向に曲がってはねじ切れ、シザーヘッドの鋏と脚も無惨に千切れていく。
魔力で支配しているからこそ、自由にその肉体を動かす事も、細胞から切断させる事も出来る。どんなに堅かろうが一度支配してしまえば、この崩壊を止める術はない。
恐怖が籠った断末魔と共に、ロック鳥とシザーヘッドのバラバラとなった肉体が下へ落ちていく。
まぁ、色々と言い訳を並べていたけど、ただ単純に使いたくなかっただけ。ハッキリ言ってこの力の使い方は危険過ぎる。こんな事を当たり前のように使い続けていれば、いつか人として何か大事なものを無くしてしまいそうな気がして怖いんだ。
「あぁ~…… 俺様も初めて会った時にやられたけど、あれはキツかったぜ」
そう言えば、テオドアを拘束する時にも似たような事をしたんだっけ? その節はどうもすいませんでした。