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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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46

 

 レヴィントン砦を出立した軍隊と俺達は、予め決めていた魔王軍を迎え撃つ予定地に到着した。


 そこは見張らしも良く、まだ少し雪が残る風景はまるで雪原を思わせる。


「良し、ここにテントを張る! 各自速やかに行動に移せ! 」


 ゲオルグ将軍の号令で一斉に動き出す兵士達。流石はレヴィントン砦の軍隊、兵士一人一人の錬度が高いのが伺えるね。


 俺も適当な場所にマジックテントを張って中で休む。慣れない雪道を歩くのは結構しんどいもので、何時ものように歩くと直ぐに足を滑らせて転びそうになる。歩幅は小さく小刻みに歩くのが転ばないコツだが、その分余計に足を動かさなくてはならないから普段よりずっと疲れてしまう。


「大丈夫? 足が疲れたのならマッサージでもしてあげようか? 」


「いや、流石にそこまではしなくていいよ。少し休めば良くなるからさ」


 そう…… と何故か残念そうな顔をするエレミアと暫く雑談でもしていると、クレスからお呼びが掛かり、ゲオルグ将軍がいる大きなテントへと向かった。




「斥候部隊の報告では、魔物共は予定通り此方へ向かっているらしい。ここを簡易的な前線基地として神官達と救護部隊の何人かを残し、我々は明日の朝更に前へと進み奴等と対峙する。各自、十分に休息を取り明日に備えてくれ。以上だ」





 いよいよ明日には魔王軍とぶつかる。俺が直接戦争に介入するのは何気に初めてじゃないか? まさか戦争に参加するなんて、前世じゃ考えられなかったね。そう思うと途端に緊張して心臓が煩く脈打つ。


 弱気になるな、緊張は怒りで上塗りしろ。俺はこれから魔物を大量に殺しに行く。それが戦争だとしても、多くの命が失われる事実は変わらない。今回の戦いで出来るだけ此方の被害を抑えるにはどうしたら良いのか? 幾ら俺の魔力が多くても、兵士や冒険者全員に魔力を繋げて、個別に管理なんてしていられない。なんて考えを巡らせているせいか、ベッドで横になっていても一向に眠気がやってこない。


「明日が心配で眠れないの? 大丈夫、私も何とか飛行魔術を扱えるようになったし、ライルは私が守る。だから安心して好きに暴れると良いわ。貴方の本気を魔物達に見せ付けてやればいいのよ」


 まだ起きていると気配で気付いたのか、隣のベッドで横になっているエレミアが声を掛けてくる。そうだな、俺には頼りになる仲間達がいるんだ。他の者達が被害に遭う前に、魔物を一体でも多く倒せばいい。そして、レイチェルをあんなになるまで追い込んだスキュムを、今度は此方が追い込んでやろう。


『王を怒らせた報いは命でもって償ってもらう』


『そうですね。我が主の恐ろしさをその身でもって体験して戴きましょうか』


『眠れない時は飲むに限るわ! ライルも強い酒引っかければ直ぐに眠くなれんじゃね? 』


『相棒の魔力があるんなら、久々に本気で暴れられそうだぜ』


『ムウナ、あすにそなえて、もうねる』


 魔力収納にいる者達の士気も十分。堕天使達も訓練をそこそこに今日は早めに就寝するようだ。俺も目を瞑ってベッドの柔らかさに身を預けた。









「良いか、この戦いで奴等と雌雄を決する! 散々砦を攻め、町の者達を不安にさせた報いを受けさせようではないか!! 一匹も逃がすな! では、行くぞ!! 」


 早朝、まだ日も昇らない時間に集まった兵士や冒険者、そして俺達へ、ゲオルグ将軍の声がやたらとよく通る。


 皆の気合が入った声が、朝の静かな空気を震わせる。それによって眠気は完全に吹き飛び、軍隊の行進に加わって移動を始める。




 どのくらい進んだのだろうか…… 誰も緊張と奮い立つ気持ちで無駄話をしている余裕もなく黙々と足を動かしていると、目の前に大量の影が見えてくる。あの空に浮かんでいる奴等が、今回の俺が受け持つ案件だな。


 俺が空へ移動してまだ小さな影に睨んでいると、魔力収納からタブリス率いる三十六名の堕天使達。飛行魔術で飛ぶリリィとエレミア。バルドゥイン、ゲイリッヒ、テオドアのアンデッド三人。赤い光沢を放つゴーレムに乗ったアンネ、そして約束通り人の形を変えずにいるムウナが俺の周りを固める。


 遠目に見えていた影は徐々に大きくなり、その姿を捉える頃には、此方の足は安全に止まっていた。



 魔物達が目視出来る距離まで近付き動きを止めた後、空からやたらとデカイ鳥が下りてきた。その翼と嘴、足の爪は金属のような見た目をしている。報告にあった通りなら、あれがスキュムで間違いないだろう。


 そうか、アイツがレイチェルを……


「王よ、お気持ちは分かりますがまだ早いかと。その殺気が向こうに気付かれてしまったら、無用な警戒を誘うだけです」


 え? まさか戦闘狂いとも呼ばれるバルドゥインに注意を受けてしまう程だったのか…… その事実に俺の気分は軽く萎えてしまった。結果、殺気は抑えられたから良かったけど。




「今日は雲ひとつない晴天。死ぬにはいい日だと思わんかね? 矮小なる人間共よ」


 スキュムの周囲の空気が振動し、声が大きく響く。成る程、ああやって言葉を発している訳か。それに対してゲオルグ将軍が大声で応える。


「あぁ! 正にその通りだ! だが、死ぬのはお前達の方だがな!! 」


「愚かな…… 魔王様から頂いたこの力で、その偉大さを理解し、そして死ね!! 」


 魔物達から一斉に殺気が放たれ、スキュムはまた空へと上がっていく。


「此方も行くぞ! 魔物如きに、人間が負ける訳にはいかない!! 全軍、突撃!!!! 」


 魔物と人間の雄叫びが混じり合い、両軍が激しくぶつかる。


 俺は仲間達とクレス、リリィ、レイシア、アロルド、レイラに魔力を繋げて、迫り来るロック鳥とシザーヘッドと呼ばれている何かクワガタに似た魔物の後ろに控えているスキュムへと目を向ける。


 あそこまで行くには、先ず邪魔な魔物を片付けないといけないな。



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