表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
733/812

45

 

 山にいる魔物達が動き始めた。斥候部隊からその報告がもたらされたのは、俺が砦に来て一週間が経った頃だった。


 その間、リリィとエレミアは飛行魔術の訓練に励み、レイラとアロルドは何時もの畑仕事に精を出し、クレスとレイシアは冒険者ギルドの依頼をこなしつつ町の為に働いている。レイチェルはまだ目覚めておらず、食事と水無しでも健康そのもので不思議がっていると、属性神の影響なのだとか。

 


 俺は何をしていたかと言うと、商工ギルドの許可を貰って町で商売をしていた。商品は味噌と醤油といった調味料からジパングの酒やワイン、後は洗浄の魔道具とかアラクネの糸を紡いで織った布地等を路上で売っては利益を増やす。


 この様に、会議以外は皆それぞれ自由に過ごしていたが、先に報告があった通り開戦の時が近付いているらしく、その気配を何となく察知した人々は落ち着きが無くなり、町がざわめき立つ。




 この日、急遽本部に集められた面々で緊急会議が始まった。


「もう知っているとは思うが、魔物共が動き出した。奴等が山から出てきたのに合わせて此方も出陣する。そしてこの戦にて奴等を確実に倒さなければならない。これから春を迎え、町民達は作物を育てるのに専念しないと次の冬を越せないどころか夏まで持つかどうか…… 大事なこの時期に人々の不安要素は出来るだけ多く排除しておきたい。王都から援軍を編成して此方へ向かわせたとの通信があったが、魔物の動きを見れば間に合わないのは明白である。その間、砦に籠ってインファネースから支援を受けていれば負けはしないだろうが、本当にそれで良いのか? いつまでもインファネースに寄り掛かっていてはレグラス王国の沽券に関わる。かといって無駄に長引かせても同じ…… ならばここは予定通り短期決戦しかあるまい」


 ここで部隊長の一人が挙手をして発言の許可を求める。


「短期決戦については異存ありませんが、魔物側に合わせるのはどうも気に入りませんな」


「まだ雪の残る山腹に攻めるのは自殺行為と等しいぞ? 奴等には平地まで出てきて貰わないとな。今までは数で負けていたのもあって防衛を続け王都からの援軍を待つ事も視野に入れていたが、事情が変わった。インファネースから心強い味方が来てくれたからな。この絶好の機会を逃す手はない」


 そう言ってゲオルグ将軍が俺へ顔を向けると、会議に出席している者達も全員がこっちを見る。いやぁ、物凄く居心地が悪いけど、どうにか会釈で応えた。


「ライル君と堕天使達による航空支援によって、我々が危惧していた空への対処も可能となった。数こそ少ないが、その実力は数の不利を補って余りある。いやはや、食料だけでなくゴーレムも…… インファネースには当分頭が上がりそうもないな。だがしかし、それもこれも魔物を倒し、魔王から人間の世を守る為には、ちっぽけ自尊心は邪魔なだけだ…… この戦が終わり次第、俺は王に帝国と組む事を進言する。五百年前は、当時の王の意向でこの国は勇者への協力を拒み、ひたすら自国の防衛だけに力を注いだ。世間では守りに秀でていると言われているが、魔王との戦いを拒み引きこもった我らへ皮肉であるとも言えるだろう。大陸中の国から馬鹿にされ続けるのはもう我慢ならん! 」


 念が滾ったゲオルグ将軍は、ダンッ! とテーブルに拳を叩きつける。


 部隊長達も少なからずゲオルグ将軍が言うような悔しい気持ちがあったのだろう。会議室の中はピンと張り詰めた空気で息苦しささえ感じてしまう。


 何だろうか…… 若干場違いな気がするけど、此方も相応の理由がある。ここで籠られては非常に困るんだよね。



「ところでクレス君。君の仲間であるリリィ君が何やら興味深い魔術を開発したと耳にしたのだが? 確か、飛行魔術と言ったかな? その魔術さえあれば空を飛べるのかね? 」


「はい、その通りです。リリィが開発した飛行魔術があれば、空を飛べる事は出来ます。しかし、自由に飛べる迄になるには相当の訓練を要しますので、今からではその時間はあるかどうか…… 」


「リリィ君はもう自在に飛行魔術を操っているのだろ? その位になるまでどのくらい掛かった? 」


「約一週間ですね」


 クレスの答えに、一週間か…… と、ゲオルグ将軍は難しい表情を浮かべる。あの様子では開戦まで一週間もないようだ。


「その魔術があれば、ライル君達だけに頼らずに済むと思ったのだがな…… 空に関しては全面的に任せてしまう事になり、申し訳ない」


「いえ、元からそのつもりでしたので、どうかお気に為さらずに」


 その後も会議は恙無(つつがな)く進み、これからは魔物への監視を一層強化して来る戦の日に備えて着々と準備を整えていく。



 そして遂に魔物の軍勢が山を下り、姿を表した。


 門の前にて兵士、冒険者、アロルド傘下の義勇兵、そしてゲオルグ将軍と勇者候補の三人、最後に俺と堕天使達が集結し、それを見送る町の人々によって門前広場は人でごった返していた。


 ゲオルグ将軍が集まった者達を鼓舞するかのような演説をするが、生憎と俺の耳には届かない。


 やっと…… やっとだ。例のスキュムとかいう鳥野郎を絞めて大量の唐揚げにして食ってやるよ。


 誰の妹に手を出したか、その身をもって教えてやるよ。今まで燻っていた怒りの炎が沸き上がる。待ってろよ…… 絶対に逃がさないからな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ