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会議当日。朝からエレミアとリリィは開発中である飛行魔術のテストと調整の為、何処かへ出掛けていった。
宿のエントランスでクレスとレイシアの二人と合流した俺は、昨日訪ねた本部へと赴き、会議室に入る。
そこには既にゲオルグ将軍と、各部隊長と思わしき者達が顔を揃え、アロルドとレイラも席に座っていた。
あれ? 時間に余裕をもって行動していた筈なのに俺達が最後? 時間を間違えた訳ではないよな? 皆さん早いですね。困惑する俺を見て、ゲオルグ将軍は苦笑する。
「時間通りだから気にしなくて良い。普段なら時間ギリギリか遅れて来る者もいるのだが、今日に限って何故か集まりが良くて私も驚いているよ。それだけライル君に期待しているという事さ」
いやいや、俺はただ私怨を晴らしに来ただけなんですけど? ゲオルグ将軍から何て言われたか知らないが、そんなに期待はしないでくれませんかね。一斉に向けられる視線がとても痛い。
注目され過ぎて居心地が悪い中、俺とクレスは空いている席へと座り、会議が始まった。因みにレイシアは参加出来ないので外でまっている。
議題は俺と堕天使達の航空戦力を加えた戦略の変更点についてが殆どの割合を占めていた。懐疑的な部隊長に、昨日ゲオルグ将軍へ見せた時と同様に魔力収納から出てきた堕天使達を紹介すると、もう誰も俺を胡散臭いと思う者はいなくなった―― ら良いなぁと希望的観測を抱きつつ、部隊長達からの矢継ぎ早な質問に軽く現実逃避をしていた。
やれどうやって他種族と知り合ったのか、何も無い空間から突然でてきた仕組みはなんだとか、もっと数は揃えられないのかとか、もう色々と聞きだそうとしてくるのをクレスの助力を得ながら何とか躱していく。
途中、あまりにもしつこく全然話が前に進まず、ゲオルグ将軍の叱咤が飛んで来るという場面も多々あったが、どうにか作戦が固まってきた。
俺達は魔王軍の航空戦力を出来るだけ減らし、突貫していくクレス達勇者候補の支援をする役割りだ。
まぁ支援なら、勇者候補の三人に俺の魔力を繋げてそこから魔力を補充するだけでも十分だと思うけどね。
会議も終わり、ゲオルグ将軍と部隊長達は退出していき、残ったのは俺と勇者候補の三人、それとタイミングを計り入ってきたレイシアだけ。
勇者候補になら俺のスキルについて教えるのも良いだろうと思い、こうして残ってもらった次第だ。
クレスとレイシアの補足も交え、俺の持つ魔力支配のスキルを説明すると、アロルドは顔を引きつらせ、レイラは良く分からなかったのかキョトンとしていた。
「魔力支配、か…… 反則だろそんなスキル。もういっそ勇者なんかいなくても、お前がいれば魔王を倒せるんじゃないか? 」
「残念ですが、俺のスキルは魔王に効きません。世の中、そう都合の良いものでないという事です」
俺自身は人間であるから、魔王にダメージを与えられるだろう。だがしかし、俺の持つ魔力支配は調停者として与えられたスキルなので、魔王には全く効果が無いとギルが言っていた。そうであれば、俺が魔王を倒すには直接攻撃するしかない…… うん、絶対に無理だね。
「良く分かんないけど…… あんたがいれば魔力使い放題って事かい? 」
「いや、別に無尽蔵に魔力が湧いている訳でなく、俺にも限界がありますので、使い放題じゃありませんよ。なので意味のない魔法の連発は止めて下さい」
こっちは堕天使達、エレミア、リリィ、バルドゥインにゲイリッヒ、それからアンネとテオドアにも魔力を送らなければならないから、言うほど余裕は無いんだよね。特にテオドアは魔力の消費量がえげつない。そういう魔術を施したのは俺なんだけどさ。
ムウナは…… 特に必要ないかな? 魔力の使い所は飛ぶ時だけだし、自身の細胞で作り出した魔核には十分に魔力を補充しておいたからね。
「ライル君は空から、僕達は地上から敵陣へと突貫して戦力を分断、撃破していく。ライル君とは何度か一緒に戦った事があるこら、凄く頼もしいよ」
「うむ! ライル殿の魔力と繋がっていると、形容し難い謎の安心感に包まれるのだ! 」
クレス達の俺への信用が思いの外高くてビビる。あんまりハードル上げないでくれるかな? ほら、アロルドとレイラも凄い期待した目を向けてくるじゃないか。それに対して俺は曖昧な笑みで返す。
諸々の準備を初めて数日、雪もいい感じに溶けて斥候が魔物への監視がしやすくなった頃、リリィの飛行魔術が遂に完成した。
「…… これでライルについていける」
リリィから今回は俺と共に戦いたいと言われていたが、空の移動が難点となり、こうして飛行魔術を急いで開発したらしく、完成した飛行魔術で宙に浮かんで見せるリリィが小さく笑った。
そこまでして俺についてくる理由は言わずもがなレイチェルだ。
この二人は初対面の時から何か通じあっていたようだし、お互いに相手を好いているのは目に見えて分かる程だ。そんなレイチェルが血塗れの意識不明で担ぎ込まれたら、そりゃ怒るに決まっている。
俺は綺麗な姿で医務室のベッドで寝ているレイチェルしか見ていないので怒りを内に溜め込んでいられるが、もし運び込まれた時のレイチェルをこの目に映してしまったのなら、すぐに飛び出して魔物達に報復していただろう。
それなのに、リリィは耐えた。内から沸き上がる衝動を理性で抑え、レイチェルに回復魔術を掛けて助ける事に専念してくれたのだ。そんなリリィの頼みを俺が聞かない理由はなく、共に戦う事を快諾した。
「これは…… 中々に、難しいわね」
初めての飛行に、エレミアは苦戦しているようだ。完成と同時に飛行魔術をその身に施したのは良いけど、制御が難しく練習が必要だ。
『じぶんも空さえ飛べればライル様をお守り出来るというのに…… 』
魔力収納内でオルトンが意気消沈している。オルトンもリリィから飛行魔術を刻んで貰おうとしたのだが、術式を施せる空きが無いとの事で断念せざるを得なかった。
リリィ曰く、回復魔法と結界魔法でほぼ容量が満杯なのだそうだ。なので近い内に飛行魔術を施した魔道具でも作ろうかと言う計画も立てているが、それはこの戦いが終わってからになりそうだな。