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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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「どうです? 人数こそ少ないですが、彼ら一人一人の実力は並ではありません。航空戦力として十分かと」


「あ、あぁ、そうだな。確かに、これ程の他種族が力を貸してくれるのなら、とても心強い。これはもう一度作戦を練り直す必要がありそうだな」


 何とか意識を取り戻したゲオルグ将軍が、今度は生き生きとした様子で堕天使達を見ている。彼等の尋常ならざる雰囲気を醸し出す佇まいに、否が応でも期待してしまうものだ。


「しかし、彼等はどうやってここへ? 突然現れたかのようにも見えたが…… 」


「申し訳ありませんが、全てを教えるつもりはありませんよ? 」


「ほぅ? まだ他にも隠しているものがあると? 結構、この戦に勝利出来るのなら、一向に構わない。思う存分に暴れて貰いたい」


「ご寛大な心遣い感謝致します。必ずや勝利を収めて見せましょう」


 俺とゲオルグ将軍はお互いに見つめ合い、ニヤリと笑う。その様子にエレミアは溜め息を吐き、アンネは欠伸を溢した。


 その後、軽くゲオルグ将軍と話をして別れる。明日、各部隊長を集めて会議を開く予定なので、今日は砦の中にある町を見て回ってから手配してくれた宿へと向かう予定だ。


 本部を出て町を歩いていると、刺すような冷たい風が頬にあたる。同じ春だというのに、北と南でこうも違うものなんだな。


「あんたには色々と聞きたい事はあるけど、先ずは畑の様子を見ないとね。ほら、アロルドも行くよ! 」


「はぁ? また俺に手伝わせるつもりか? もう勘弁してくれよ…… 」


 嫌々ながらもレイラに腕を引っ張られて連れていかれるアロルドの顔は、それはもうとても複雑だった。


「レイラは農民だからね。自分の仕事に誇りを持っているからこそ、こんな時でも任された畑が気になって仕方ないのだと思うよ? 」


 遠ざかる二人を、クレスは微笑ましく見送っている。前世での俺の実家も農家だったから、レイラとは初対面なのに何処か懐かしい匂いがして、好感を持てたのだろう。ただ俺と彼女の違いは、農家である事を誇りに思うか、恥ずかしいと思うかだ。俺はレイラのように家の仕事が好きにはなれなかった。


 二人と別れた俺とエレミアは、クレスとレイシアに案内されて町を散策する。リリィとアンネ? 彼女達なら魔力収納にいるよ。リリィはどうしてもレイチェルの事が頭から離れないらしく、今もずっと側にいる。アンネは、たぶん飽きたか酒でも飲みたかったのだろう。


 リラグンドの気候に慣れてしまっているので、とても寒く感じるけど、大量の雪解け水が地下へと流れていくのを見ては、やっぱり春なんだと思った。それでもコート無しじゃ辛いけどね。



 暫く町を歩き、クレスがお薦めだという店で昼食を取る。何を頼んでも必ず芋が出てくるんだよね。どうやらレグラス王国では、ご飯やパンではなく芋が主食のようだ。マッシュポテトやそのまま蒸かしただけ等お好みで選べ、芋はホクホクで見た目と味は男爵芋に似ている。俺は丸ごと蒸かしたものにバツ印の切れ込みを入れて、その上にバターを乗せる―― 所謂じゃがバターを頂く。


 世界は違えどもそこは人間、やっぱり考える事は同じのようだ。冬では店に出す料理の種類は限られ、毎年開店休業な状態が続くらしい。しかし、この店には魚料理もあり種類が豊富である。急遽手書きで足されているメニューを見ては内心首を傾げていると、それに気付いたクレスが説明してくれた。


「今年はインファネースが食料援助をしてくれているから、僕達は今日まで魔物一匹砦の内部には入らせてはいないし、僅かな食料を求めて外へ出ていく必要もないから事故や遭難で命を落とした者はいない。魔王軍がいなければ、今年の冬は今まで一番平和だっただろうとゲオルグ将軍は言っていたよ」


「成る程、だから魚料理なんてあるんですね。転移魔術がもたらす影響は想像以上だな」


「うむ、それにインファネースから送られてくる物は食料だけではないぞ。シャロット殿が作るゴーレムも活躍が目まぐるしい。リラグンドというよりも、皆の者はインファネースに感謝している」


 色々と話を伺っていると、今回リラグンド王国がというよりも、インファネースの独断でレヴィントン砦へ支援を行っているようだ。


 十中八九、これも王妃様が絡んでいるだろうね。そこにどんな意図があり、それに釣り合う利益があるのか。今の段階では何も言えない。まったく、今度は何を企んでいるのやら……









「町を案内して頂き、ありがとうございました」


「いや、別に構わないよ。僕も暇していたからね」


 用意してもらった宿はクレス達が世話になっている所と一緒だったようで、今は俺が泊まる部屋にて軽くこれ迄の事を話しながら時間を潰していた。まぁ殆どメールで書いてあったのを口頭で詳しく聞いているだけなのだが。


「それじゃ、そろそろ僕達は休むとするよ。明日の会議も宜しくね」


「ライル殿、エレミア、ゆっくりと休むと良い。ではまた明日! 」


 クレスとレイシアが部屋から出ていき、残ったのは俺とエレミアだけ。例に漏れず借りたのは二人部屋である。


「あ、そうだ。丁度魔力収納にリリィもいる事だし、相談してみようか? 」


「そうね。リリィなら空中でも戦える術を知っているかも」


 という訳で、今も魔力収納内でレイチェルを看ているリリィに、事情を説明すると、


『…… 今、空を飛ぶ魔術を開発している。術式自体は完成しているけど、まだ試験段階で実用まで至っていない。…… 明日から試験運用をしつつ調整するつもり』


『流石ね。その魔術なら私も空を飛べるようになるの? 』


『…… 慣れるまで時間は掛かるけど、可能だと思う』


『なら、その魔術の調整というのを私も手伝うわ。そうすれば早く完成するんでしょ? 』


『…… それは助かる』


 エレミアとリリィの予定は決まったようだね。俺は明日の会議以外何もする事がないな。まぁそこは追々考えるとして、今は休みますか。

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