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ギルからレイチェルの精神に闇の属性神が干渉していると聞かされてから、何故かレイチェルの魔力総量が増えたと思ったら魔力を補充する側から減っていき完全に回復しきれないでいる。
『何かレイチェルの魔力が全然回復しなくなっているんだけど、本当に大丈夫なんだよね? 』
『その筈だが…… 考えられるのは闇の管理者から何かのスキルを授かり、精神の中で魔力を消費するような事をレイチェル自身が行っているのだろう』
何それ? もしかして闇の属性神に魔法でも教わっているとか? まぁ、ここからじゃ何も出来ないし、ギルの言葉を信じて今は待つしかない。
クレスからゲオルグ将軍の許可が下りたとの連絡を貰った際、水と土の勇者候補二人から期待されているとも言っていた。何でも俺の感情のままに漏れ出した魔力に気付き、驚愕していたらしい。
うわぁ…… なんか恥ずかしくて会いづらいんですけど? そういうのは黙ってて欲しかったな。過度な期待はしないようにとクレスから言っておいて貰えませんかね。
とにかく、後は堕天使達が鳥獣人への業務引き継ぎと指導が終わるのを待つだけだな。
『王よ、俺もその戦争で暴れてもよろしいか? 』
『我が主がお怒りになっているのに、私だけ傍観という訳にはいきません』
『レイチェル、ムウナとあそんでくれた。でも、いまはねむってておきない。そのとりやろうのせい? なら、ムウナもたたかいたい。レイチェルいじめたやつ、ゆるさない! ムウナ、ライルとおなじ、おこってる!! 』
『いいね! 人間達にあたしのゴーレムを御披露目してやろうじゃない! 』
『へへ、面白そうじゃねぇか。当然俺様も参加するぜ! 』
アンネなら問題なさそうだけど、他がなぁ…… いや、バルドゥインとテオドアに関しては既にシュタット王国で散々暴れてるから今更か。となれば同じヴァンパイアのゲイリッヒも大丈夫だとして、問題はムウナだ。
もしムウナが人前であの巨大な肉塊にでもなったら、ヴァンパイアどころの騒ぎじゃ収まらないだろう。遠慮はしないと言ったが、人間側を混乱させたい訳じゃない。だからといってムウナの気持ちを無下にはしたくないしな……
『ムウナの気持ちは分かるし、妹の為に怒ってくれるのは嬉しい。だけど本気になった姿を公の目に晒せば魔王と人間達はパニックを起こすかも知れない。だからさ、どうにか人間形態を維持したまま戦えないか? 』
『ん? それって、ずっとこのすがたで、たたかえばいいの? 』
『いや、人間の形から大きく逸脱しなければいいんだ』
『このかたちのままなら、ムウナもいっしょにたたかってもいい? わかった! がんぱる!! 』
若干の不安は残るけど、それを差し引いてもムウナの力は大きいから頼りになる。
『私はこのままレイチェルさんを診ていますね。空中では役に立てそうもありませんので』
『悔しいですが、自分も同じであります。ライル様の盾として情けない話ではありますが、この顔ぶれなら負ける事はありませんな! アンデットに遅れを取ってしまうのは不本意ではありますが…… 』
『我も今回はじっとしていよう。ライルには悪いが、どんな事情であれ、この戦争に介入する気はない』
ギルは調停者の立場として、あくまでもこの戦は人間と魔物だけのものだと心に決めているようだ。
『はぁ!? ライルがその気になってんのに、あんたは呑気に昼寝ですかぁ? 龍ってのは呑気なのねぇ~』
『何とでも言えばいい。小さき事で何時までもネチネチと絡んでくる羽虫共とは違うのだ』
アルラウネとアラクネ達も空での戦闘と魔王の魔力影響を考え、外には出ないと決めている。
しかし、堕天使達とヴァンパイア、レイス、ムウナ、それにゴーレムに乗った妖精。こりゃ凄い絵面になりそうだ。まさにカオスだな。
「…… 」
店のカウンターに立つ俺の隣で、エレミアは何やら考え込んでいた。
「どうかした? 」
「私もライルと一緒に戦いたいけど、空中ではどうしようもないわ。何か良い方法はないかしら? 」
それで最近ずっと黙って何やら難しい顔をしていたのか。
「う~ん、空を移動出来るような魔術を開発するのには時間が足りない。レヴィントン砦に着いたら、リリィに相談してみよう」
「そうね。今から考えても間に合わないものね」
それから更に数日後、俺は引き継ぎ作業を終えた堕天使全員を魔力収納に入れて、アンネの精霊魔法でレヴィントン砦へと向かった。
今度は影移動ではなく空間移動で、門から堂々と入っていく。俺とエレミアとアンネの姿を見た門衛は、少し言葉を交わしただけで特に止められる事はなかった。きっと既に話は通されていたのだろう。
今日向かうと事前にクレスに伝えていたので、門を抜けてすぐの所にクレス、レイシア、リリィ、それと見知らぬ人物二名が俺達を出迎えてくれる。あの二人が水と土の勇者候補か……
近付く俺を見た勇者候補の二人は、愕然とした表情をしている。うん? もしや俺の姿を見て驚いているのか? クレスは俺の体については何も教えていなかったようだ。
クレスもその事にやっと気付いたといった風に、隣で固まる勇者候補の二人に目を向けては、苦笑いを浮かべる。
いや、何その困ったね―― みたいな顔をそっちがすんの? ちゃんと説明しといてくれないとさ。頼みますよ、クレスさん。