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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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波乱の予感 2

 

 アンネの精霊魔法でインファネースへ戻っていくライル君を見送り、僕達は得も言われぬ緊張感から解放された事で胸を撫で下ろした。


「クレス、私は今日ほどライル殿が味方で良かったと心の底から思っているぞ」


 沈黙の中、染々とレイシアはそう呟いた。


「あぁ、そうだね。それと同時に絶対に敵に回してはいけないとも思った。彼に勝つ絵が全然想像出来ないよ」


「…… ライルはただ純粋にレイチェルを傷つけられた事に怒っているだけ。…… それは私も同じ。ねぇクレス、お願いがあるのだけれど。今回私はライルと一緒でもいい? …… 正直、私も今までにないくらいに怒っているの」


 リリィとレイチェルは僕から見ても随分と仲が良く、お互いに言葉を交わさずとも何かが通じ合っているみたいだった。だからリリィが怒るのも分かるよ。


「それは構わないけど、ライル君と堕天使達は空を飛んで戦うんだろ? リリィはどうやってついていくつもりなんだい? 」


「…… 人の想像と魔術が合わされば不可能な事はないのだと、先祖が残した資料にそう綴られていた。妖精、龍、天使に堕天使、そして鳥獣人…… 彼等が空を飛ぶ原理は大体理解出来ている。あの背中に生えている翼や羽は、本来の生物的役割りとは違い一種の飛行装置になっていて、そこへ魔力を送る事により浮力を得て自在に空を移動している。ならばそれを魔術で再現すれば、私も空を飛べる筈」


「ほぅ…… その魔術を使えば私でも空を飛べるのか? 」


「…… 可能だけど、残念ながらまだ完成には至ってない。…… でも、アンネとギルディエンテにも協力して貰って空を飛ぶ感覚や仕組みを魔力念話で直接頭に教えて貰った事を術式に組み込んでいる。…… 八割方出来ているから、戦が始まる迄には間に合わせる予定」


 それを聞いてレイシアは心持ち嬉しそうな様子で、そうかそれは楽しみだな!…… と声を上げた。もしかしてレイシアも飛ぶつもりなのか?


「まぁ、その魔術が完成したのなら、ライル君も了承してくれるんじゃないかな? 逆に完成していなかったら、足手まといにしかならないけど」


「…… その時は諦めて地上からその鳥野郎を魔術で落とすだけ」


「うむ! 我等の力を鳥野郎へ存分に見せ付けてやろうではないか!! 」


 いや、一応相手にもスキュムという名前がある訳で…… 何だか鳥野郎が彼女達に定着してしまったな。


「ならリリィはあのままライル君に付いていった方が良かったんじゃないか? どうせ戦場で一緒に戦うつもりならさ」


「…… それも考えたけど、ライルの中にいたら研究に集中出来ない気がする」


「レイチェル嬢が近くにいると、どうしても心配で顔を見たくなってしまうからな」


 レイシアの言葉にリリィはコクリと小さく首肯く。


 今この医務室にあるレイチェルが寝ていたベッドには、もう誰もいない。外傷も治り、ライル君の力で体の中を隅々まで調べて、もう大丈夫だと判断したうえでライル君は魔力収納にレイチェルを入れた。その方が早く魔力を回復できるからとの事だ。


 確かに、あれ程の魔力とマナに満ちている所なら、レイチェルもすぐに魔力が回復して目を覚ますだろう。一先ずは安心といったところだな。






 すぐに僕達は本部にいるゲオルグ将軍へライル君の事を伝えると、新たに加わる戦力を喜んで迎えると言ってくれた。


「君の友人なら信用出来るからな。それに、その彼が連れてくる航空戦力というものにも興味がある。もしかしたら、これで空の魔物への対応問題が解決してくれるかも知れないしな」


 ゲオルグ将軍はまだライル君の実力を知らないので期待するだけだが、僕は知っている。先程の怒りに燃えるライル君なら、その問題を解決するどころか、今回の戦そのものを此方の勝利で終わらせる事になるだろうね。





 本部から出た先に、土の勇者候補レイラと水の勇者候補アロルドが、何やら落ち着かない様子で佇んでいた。まだ外の気温は低いというのに、いったい二人して何をしているだろうか? 取り合えず声を掛けては見たけれど…… どうも返事の歯切れが悪い。


「どうかしたのか? 」


 不思議に思って聞いてみれば、二人して本部の方から突然恐ろしい程に圧縮された魔力と威圧を感じて帰るに帰れなくなっていたという。


 それもそうか、さっきまでいた本部からあんな魔力を感じれば警戒してもおかしくはない。


「いや、その…… 警戒というよりもただ圧倒されたというか、な? 」


「そうだね、アタイも魔力だけでこんなにも身震いするなんて初めてだよ。ほら、今も膝が笑ってる」


 レイラの足がプルプルと震えているのを見れば、ライル君の怒りが籠った魔力が如何に凄まじいか分かる。僕とリリィ、レイシアは彼の魔力に慣れているから冷や汗程度で済んだけど、この二人は初めてライル君の魔力の一端に触れて戸惑っているようにも見える。


 僕は二人にライル君の事を話し、彼がこの戦いに参加する旨を伝えた。


「へぇ、クレスの友達か…… それは会うのが楽しみだな! 」


「お前、あんな魔力を放つ友人がいるなら早く連れてこいよ。そしたら前の戦いももっと楽になっていただろうに」


「彼は積極的に戦争には参加しない。今回は特例だよ。何せ、大事な妹が傷つけられてだいぶ怒っているからね」



 本気になったライル君とそれに追従するであろう魔力収納内にいる面々…… この戦い、絶対に荒れるだろうな。取り残されないように食らい付かないと、あっという間に終わってしまいそうだ。

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