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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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敵情視察3

 

 これは非常にまずい状況だわ…… わたしの周りはスキュムの風魔法で木々や岩等が吹き飛ばされて、影が出来るような物が何一つない真っ白な地が広がっているだけ。


 そしてその騒ぎで他の魔物達も集り、目の前にはロック鳥よりも大きいスキュムが、金属のような光沢を放つ翼を広げ威嚇している。


「さぁ、これでお前の逃げ場所はない。大人しく死ぬというのなら、苦しませずに一瞬で殺してやろう。だが愚かにも抵抗するというのなら、嬲り殺しだ! 」


「どちらもお断りよ…… わたしは帰らなきゃならないの…… 」


 闇魔法で黒い狼達を生み出しその一匹に跨がったわたしは、両腕に同じく作り出した蛇を絡ませる。


「本当に一人でこの数とやり合おうというのか? 面白い! その気丈な顔を恐怖と絶望に歪むその時が楽しみだ」


「あら…… 誰が一人だと言ったかしら…… ?」


 スキュムがその巨大な嘴をわたしに突き立てようと動くと、わたしとスキュムの間に一本の槍が空から降り、積もった雪を落ちてきた衝撃で飛ばしながら、剥き出しになった地面に突き刺さった。


「おいおい、もしかして任務失敗か? 」


「いいえ…… 情報を持ち帰れれば成功よ…… 」


「それじゃ、すぐに帰らないとな」


 槍の後に空から降りてきたタブリスは、地面に刺さっている槍を引き抜いては、守るようにわたしの前で構えた。


「他種族が、何の真似だ? これは魔物と人間の戦い、関係ない者は引っ込んでいて貰おう」


「悪いが、こっちも色々と事情があってね。この人間を死なせる訳にはいかないんだよ」


「ならば仕方ない。お前もついでに殺すだけだ」


 スキュムの体から魔力のうねりを感じる。


「レイチェル! 」


「ええ、分かってる…… ! 」


 わたしとタブリスは急いでスキュムから離れたその時、わたし達がいた場所の地面を抉りながら突風が通り過ぎていく。すさまじい威力ね、わたしの闇魔法で作った狼が何体かやられてしまったわ。でも、後ろにいたガイアウルフとシルバーコングも数体程巻き添えをくらったみたい。この調子で戦力を削るのも良いわね。


「雑魚共め、邪魔だ! 向こうへ行ってろ!! 」


 スキュムの怒声で魔物達が慌てて散々となって離れていく。どうやら向こうも戦力が減るのは嫌なようね。


『レイチェル、どうもあいつは自分の力を扱いきれていないらしい。威力自体は大したものだが、操作に精密さがないな。これなら隙を見て逃げられるんじゃないか? 』


 タブリスが魔力念話で語った内容には、わたしも同意する部分はあるけど、強力なうえに範囲も広い魔法を避けつつ隙を窺うのは難しいわ。


 右手の甲から先の尖った蛇の尻尾をスキュムに伸ばし牽制するが、巻き上がる風の刃で細切れにされてしまう。


 しかし、注意がわたしに逸れているところにタブリスが接近して槍を振るう。


 タブリスの動きは速くて精確だ。図体の大きいスキュムでは小回りも効かず動きも鈍くなる。避けるのは困難なのだけど、あの金属のような翼で体を覆い隠し、タブリスの槍を弾いてしまう。


「くっ!? 見た目通りの硬さだな。見せ掛けではなかったか! 」


「魔王様から頂いた力で変化した私の体は、そんな槍では傷付かんぞ! 」


 スキュムは自身の体を覆う翼を払い広げると、金属の嘴でタブリスの腹部を貫く。


「ぐはっ!? 」


「む? 何だこの感触は…… ? 」


 胴体を貫かれたタブリスは、スキュムの少し戸惑う声にニヤリと血を滴らせた口を歪める。


「オレの体はある女に呪われていてな、こんなのは怪我の内に入りはしない! 」


 そのままタブリスは槍をスキュムの左目に突き立てようとするが、首を勢いよく振った反動で嘴から地面に払い落とされてしまう。


『タブリス、大丈夫なの…… ? 』


『あぁ、問題ない。こんなのはすぐに治る。それよりどうやって此処から逃げるか考えてくれ。流石にこんな奴を相手に何時までも粘ってられないからな。癪だがオレ達だけで倒すのは無理だ』


 いくら肉体を改造されているタブリスでも、わたしと二人だけではスキュムを倒すのは無理だと早々に見切り、逃げる為の手段を考える時間を稼ぐ方針のようね。


「無駄だ、どんな手を使おうとも貴様らは此処から逃がさん! 」


 スキュムの魔力が風の刃となって広範囲に吹き荒れる。


 わたしは跨がっている闇で作った狼でどうにか回避を試みるけど、山の積雪は分厚く、狼の足が取られて思うように動かせない。


「くっ…… !」


 避けきれなかった風の刃に右肩と左足が斬られ、傷口から吹き出る血で白い雪に赤い斑点模様が出来上がる。


 力の制御が上手くなくても、この威力と範囲は十分に脅威である事には変わり無い。先程の攻撃で更に周囲の木々は薙ぎ倒され、わたしの影移動に使える影が無くなっていく。


 隙を見てタブリスに抱えられ飛んで逃げたとしても、相手も空を飛べるし、あの出鱈目な風魔法を使われてしまったら敢えなく撃墜されてしまう恐れがある。


 どうする? どうすればいい?


 こんな時どうすればいいかなんて、どの本にも答えは載っていない。これまでの経験と蓄えた知識で乗り切るしかないんだ。考えるのよ…… こんな所で死にたくない。まだまだ兄様と一緒にいたいの。


 どうにかあの風魔法を無力化かそれに近い形で回避する方法はないのかしら? わたしにある力は闇魔法だけ。闇で風を防ぐ方法は…… ?


 心当たりはある。周囲を呑み込み、クレスの光魔法さえも無効化した闇の塊を、わたしはシュタット王国で実際に目の当たりにした。


 ミノタウロスに出来るのだから、人間であるわたしに出来ない道理はない筈よ。



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