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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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敵情視察 2

 

 何処からかわたしを襲う威圧感に呼吸を乱しながらも、その視線の出所を注意深く探っていく。


 岩や木の影から外を覗き、辺りを調べていくが中々見付からない。


 おかしい…… 確かに恐ろしい程の威圧感と視線は感じるのに、姿が見えないなんて。向こうもわたしの存在に気付いているから姿を隠しているのか、それとも単純にわたしが見逃してしまう程に小さいのか……


 その時、突然地面が揺れ周囲の雪が盛り上がっていく。わたしは急いで木の影から出していた頭を引っ込ませて闇へと待避する。


 何? いったい何が起こったの? それを確かめる為に別の影から外を様子を窺うと、降り積もっていた雪の中から大きな鳥の魔物が姿を現していた。まさかずっと雪の中に?


 その魔物はロック鳥よりも更に大きく、翼、嘴、爪が金属に似た光沢を放っていた。そしてあの威圧感を放つ鋭い目は、わたしが覗いている影へと向けられている。


 あんな魔物、わたしは知らない。今までの読んだどの本にも乗っていなかった。見た目はロック鳥に似てなくもないけど、あの様に体の一部が金属のようにはなっていない。さしずめロック鳥の変異種といったところね。


 この嫌な感じ、前にも一度味わった記憶がある。そう、シュタット王国にいた魔王から力を授かったというミノタウロスと似ているわ。


 恐らく、あのロック鳥の変異種と思われる魔物も、魔王から力を与えられた影響で体が大きくなり姿も変わったのだと推測できる。



「鬱陶しい気配で眠りから覚めたと思ったら何事か? 」


 周囲の空気を震わせ発せられた重低音の声が、わたしのいる闇の中にまで響く。


 予想はしていたけど、実際に話しているところを聞くとやっぱり驚くわね…… しかもミノタウロスよりも流暢だわ。


 変異種の言葉に他のロック鳥が飛び寄っては一声鳴くと、タブリスが飛んでいる空へと顔を向ける。


「いや、私が感じた気配はあれではない。近くで此方を覗いている者がいる…… そこにいるのは分かっているぞ。姿を現せ」


 変異種は真っ直ぐわたしが覗いている木の影に視線を定め、動かそうとしない。どうやら完全に此方を察知しているようね。


 どうする? ここで逃げ帰っても良いけど、相手が言葉を話すのなら意思の疎通は可能であり、会話で更なる情報を引き出す事も出来る。まだ相手の正体も推測の域は出ていない状況だし、わたしの存在に気付かれた時点で次はない。警戒されるだけならいいが、人間側に隠密を得意とする者がいると判明された以上、下手すればすぐにでも開戦してしまう恐れがある。


 それは此方としても非常に都合が悪い。もしあの変異種がここにいる魔物達を束ねる者ならば、今の状況で戦いを始めるリスクを理解している筈。だとするならば交渉の余地はあるかも知れないわ。


 これは一つの賭けでもある。人間の事情や常識なんて魔物には通じない。ここでわたしが出ていっても問答無用で襲い掛かり、そのままレヴィントン砦に攻め込む事だって考えられる。


 でも、変異種の態度と口調でそこまで短絡的思考の持ち主ではないと期待できる。もう失態する姿を兄様に晒したくない。


 深く息を吐いて覚悟を決めたわたしは、不測の事態に備えて何時でも逃げられるよう、上半身だけを木の影から出して変異種と対峙する。


「ほぉ…… 珍しい魔法を使う人間だな。貴様はあの砦から来たのか? 」


 やはり思った通り、姿を見せたわたしへ反射的に襲おうとしたロック鳥を視線だけで止めた変異種は、落ち着いた様子で話し掛けてきた。それとこれまで観察して分かったのは、嘴を動かさずに言葉を発するのを見るに、どうやらこの変異種は魔法か何で音を出して言葉にしているようね。


「えぇ、そうよ…… わたしはレイチェル。近々始まる戦いに備えて、貴方達の戦力を調べていた…… 」


「これは随分と余裕な人間だ。私に気付かれて逃げるでもなく、自己紹介までしてくるとはな。その覚悟と勇気を称して此方も名乗るとしよう…… 私は “ステュム” 。魔王様から力を授かり、このレグラス王国を滅ぼす者である。その第一歩として先ずはあの砦と町を破壊する」


 これで確定したわ。まぁ殆ど決まっていたようなものだったけど、確信に至る何かを掴みたかった。やっぱり、魔王の力には相手の知能と身体能力を上げるのと他に、肉体にも変化を及ぼすようね。


「さて、お互いに名乗った所で本題と行こうか。何故逃げずに姿を現した? まさか私が出てこいといったから馬鹿正直に従った訳ではあるまい。何が狙いだ? 」


 ほんとに鳥とは思えないくらいに利口ね。


「貴方も既に分かっているとは思うけど、このまま開戦したとしてもお互いに利益よりも不利益が大きい戦いになるのは明白よ…… ここは雪がある程度溶けるまで待つというのはどう…… ? 」


「フッ、私としては元からそのつもりだったのだがな…… しかしお前のような者の存在を知り、そこまで待つと思うか? 私と手下のロック鳥、それとシザーヘッドだけで空から攻めても良いのだぞ? その交渉に乗る必要があるとは思えんが? 」


「これに同意してくれるのなら、開戦まで此方は貴方達に一切干渉しないと約束するわ…… でなければ、わたし達もあらゆる手を使って貴方達を追い詰める…… 類い稀に見る泥仕合になるわよ……? そんな無様な戦いを魔王に見せるつもり……? それでも良いのなら、すぐにでも始めましょうか…… 」


 ロック鳥の変異種、ステュムは目を細めて愉快そうに喉を鳴らす。


「ククク、成る程。お前は私達へ人間のように開戦時期を互いに決めて戦争をしようと言うのだな? 」


「そうよ…… 開戦日は今から二週間後、日の出と共に始める…… それをのむというのなら約束通り、わたしはこれ以上貴方達を調べようとはしない…… 」


「…… フン、良いだろう。わたしも少々寝足りないと思っていた所だ。その邪魔をしないと言うのなら別に構わん。どちらにせよ、勝つのは私達に変わり無いのだからな」


 ふぅ…… これでどうにか時間を作る事が出来たわ。後はクレスとゲオルグ将軍に任せるしかないわね。


 相手が交渉にのってくれた事に、わたしは不覚にも気を抜いてしまった。まったく、わたしらしくもない。その一瞬の隙を、あのスキュムは見逃さなかった。


 突然、下から上へと吹き上がる暴風が、わたしと共に雪と木々を巻き上げる衝撃で影が無くなり、わたしは外へと押し出されてしまう。


 雪の上に落ちて倒れるわたしに、スティムの無情な声が響く。



「馬鹿め! お前のような力を持った人間をみすみす逃すと思っていたのか? ここで油断するとは、所詮は子供よ」


 悔しいけど、確かにその通りだわ。でも、わたしの帰りを兄様が待ってるの。ここで死ぬ訳にはいかない。

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