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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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反撃への一歩 3

 

 翌日、僕達はレイチェルとタブリスさんを連れて土と水の勇者候補二人に紹介するべく、レイラが管理している畑を訪ねる。


 今日もオーバーオールに土を付け、畑仕事に精を出すレイラの傍らには、何処か諦めた顔をしたアロルドと義勇兵の皆さんが手伝わされている姿があった。


「ん? よぉ、クレス。お前からもこの大女に何か言ってやってくれよ。ここ最近ずっと土いじりばかりやらされて、勇者候補の存在意義に疑問さえ持ち始めてきたぜ」


 から笑いをするアロルドに、これは重症だと心配になるけど、僕では彼女を止められそうもないし、残念ではあるが自力で何とかしてほしい。


「なんだい? もしかしてクレス達も手伝いに来てくれたのか? 」


「いや、新しく加わった仲間を紹介しようと思ってね」


 僕がそう言うと、レイチェルとタブリスさんが前に出る。


「レイチェルよ…… よろしく…… 」


「堕天使のタブリスだ。オレはレイチェルの護衛だから積極的に戦いには参加しないが、まぁよろしく頼む」


「へぇ! 他種族なんて始めて見たよ。アタイはレイラ、よく分かんないけど土の勇者候補に選らばれちまった。二人ともよろしくな! 」


「なんだ、レイチェル一人か? てっきり火の勇者候補も来たのかと思ったが、代わりに他種族を連れてくるとは…… ハロトライン家は交流が広いんだな」


 おっと、アロルドにもレイチェルが貴族だという事を秘密にしてもらわないと、何処でバレるか分からないからね。


 互いに自己紹介も終え、レイチェルとタブリスさんに軽く町を案内する。


「砦の中に町があるのは珍しいな」


「そうね…… それだけこの砦を攻め落とすのは難しいという事…… 余程の自信がなければ町なんか出来ないわ…… 」


 長く難攻不落を貫いてきた実績があるからこそ、レヴィントン砦には多くの人々が集まって来たのだろう。町の歴史を感じつつレイチェルとタブリスさんは町並みを眺め足を進める。


「レイチェルとタブリス殿が来てくれるとは思わなかった。頼もしいが、この後敵陣の偵察に出ると聞いている。くれぐれも用心するのだぞ! 」


「えぇ、分かってるわ…… ありがとう…… 」



 レイシアは激励の意味を込めて、レイチェルの肩を叩くと除雪作業に戻って行った。



「レイシアはこんな寒さの中でよく動けるわね…… 同じ季節でも北と南では全然違う…… リリィが部屋に籠るのも分かるわ…… 」


 レイチェルもリリィと同じで、冬のレグラス王国は苦手な様子。そう言えば、レイチェルは時々影移動でリリィの下へ来てはいたが、その何れもが暖房の効いている室内であり、今回が初めての外出である。


「…… 最近は日が出ている日数が多くなったから多少は我慢出来るけど、真冬の夜は肌を刺すような寒さだった。…… これほど夜に襲撃に来る魔王軍に殺意を覚えた事はない。…… あの嫌がらせだけは絶対に許さない」


「気持ちは分かる…… わたしも同じ状況になったらと思うと…… 少しやる気が出てきた…… もっと闇魔法を使いこなして、あの時の汚名を返上してみせる…… 」


 ライル君の役に立てなかった事を随分と気にしているようで、レイチェルの表情は真剣そのものだった。






「偵察は明日か…… 今のレイチェルは気負い過ぎている感じがして少し心配だな。功を焦って無理をしないと良いけど」


「なに、その為にオレがいる」


「囮になると? 」


「それが役目だからな。憎らしい事に、この肉体だからこそ多少の無茶も問題ない」


 レイチェルとタブリスさんの出立を明日に控えた前夜、僕の部屋でタブリスさんと二人、就寝前に話をしていた。因みにレイチェルはリリィの部屋にいる。きっと魔法や魔術について論じていることだろう。


「さて、明日も早いしそろそろ寝るとするか」


「そうですね、おやすみなさい」


 タブリスさんが立ち上り部屋から出ていくを見送る。明日の偵察次第で作戦の内容が変わるかも知れない。あれから魔王軍がどのくらいの規模になっているのか…… インファネースから送られてくるゴーレムとアロルドの義勇軍、そして僕達勇者候補三人が魔王軍へと突貫するのだが、完全に分断させても数が多ければあまり意味を成さない。


 それに今回の戦いに魔王から力を授かった魔物がいないとも限らないからね。シュタット王国で戦ったミノタウロスのガムドベルンは強敵だった。僕とアロルドとアランの三人でどうにか討つ事が出来たが、ギリギリの戦いでどうにか勝てた。その様な敵が向こうにいるのなら、この作戦もそう上手くはいかないだろう。砦の中で守りを優先していたからこそ、今まで目立った犠牲者を出さずに済んでいたけど、この作戦でどのくらいの人が亡くなるのか…… 勿論そんな人が出ないのが一番だ。でも、春は冬に消費した備蓄品を補充する為に、色々と忙しくなる時期。魔王軍に時間を割いてられる程の余裕はなく、もうこれ以上インファネースからの食糧援助に頼ってばかりはいられないからと、ゲオルグ将軍は短期決戦を望んでいる。


 ライル君へのメールを打ち終わり、送信する。現状の報告とこれからの動き、そして僕の心の内を吐露した内容で今日も長文になってしまった。それに対してライル君からの返信はあまりにも短く簡潔だ。まぁ長ければ良いという事でもないけど、少し寂しくはあるかな?

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