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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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反撃への一歩 1

 

 あれからレヴィントン砦に魔王軍が数回程攻めて来たが、特に苦戦するような事はないまま時は過ぎ、雪か曇りが殆どだった天気が次第に晴れ、日の光で雪が溶け始めた頃、魔王軍の動きがパッタリと止まる。


 部隊長達の見解では、やっと向こうも幾ら攻めても嫌がらせにならないと分かったのだろうと、安堵の表情を浮かべていた。


 しかしそう喜んでばかりはいられない。今までその嫌がらせをしていた戦力を温存し、この春で一気に攻め落とそうとしてくるだろう。そうなると余り長引かせるのも都合が悪いという事で、短期決戦で作戦を組むと決まった。


 それからのレヴィントン砦は春に備えての準備で忙しなくなる。その間、シャロットが送ってくれたゴーレム達には家の屋根に積もった雪を下ろしたりと除雪作業をしてもらっている。これには町の人達も大いに喜んでくれた。もしかしたら魔物から町を守る以上に喜んでいたかも。


 レイシアもゴーレムに混じって作業をし、レイラは畑の世話に力を入れていた。その畑には彼女に無理矢理連れてこられたアロルドが渋々手伝う姿が見掛ける時がある。


「この怪力大女め、何で俺がこんな事を…… 」


「何言ってんだ! そのヒョロイ体も、アタイと一緒に畑仕事に精を出せば村の男共のようになるさ! それに、水魔法の使い手は農家には重宝されるからね。どうだい? 戦争が終わったら村に来る気はない? 何ならアタイと結婚して農家でも継ぐかい? 」


「はぁ!? お、お前、突然何言い出すんだよ! 馬鹿なのか!? 」


 焦るアロルドにレイラは大声で笑っている。アロルドはどうか分からないけど、確実にレイラの方はアロルドを気に入っているよな。あの二人なら案外上手くやれそうな気がする。



 魔王軍の動きが止まり、暫く平和な日が続いていたが、以外な来客で事態は大きく進む事となった。



 この日は、寒いと言って宿の部屋に引きこもっていたリリィが珍しく外に出ていた。まぁ単純に部屋に用意していた食料が尽きたので買いに出ただけなのだが……


 僕もその買い物に付き合い一緒に町を歩いていると、突然リリィが路地裏の影に向かって警戒し出した。


「…… クレス、何かが来る」


 杖を強く握り締めるリリィの様子に、僕も腰に差した剣の柄に手を掛けたその時、影がゆっくりと蠢き、中から何かが姿を表す。しかし、その全容を確認して僕は驚きで声を失ってしまった。まさか彼女がこのレヴィントン砦に来るなんて思ってもいなかったからだ。


「来ちゃった…… 」


 リラグンド王国にいる筈のレイチェルが影から出てきては、僕達を見て一言ポツリと呟く。そんな彼女にリリィもまた一言だけ、


「…… ようこそ」


 レイチェルの鋭い目とリリィの眠そうな目が互いに交わる。いや、二人して無言で向かい合ってないで、そろそろ説明してくれませんか?








「なるほど、影移動か…… 闇魔法は僕の光魔法と同じでまだまだ謎が多いからね」


 レイチェルをリリィの部屋まで連れ、これ迄の経緯を説明してもらった。


「…… でもいくら影移動が使えるからって、この転移座標にレイチェルが行くのはお勧めしない。…… 何があるか分からないのに、それでも行くの? 」


「えぇ、行くわ…… この新しい力でもっと兄様の役に立ちたいの…… 」


 リリィは行ってほしくないようだけど、レイチェルの意思は固く説得は無理だと判断したみたいで、それ以上何も言わずに例の転移魔石を複製した物を二つ、レイチェルに渡した。


「…… 複製した物はこの二つだけ。…… くれぐれも気を付けて」


「ありがとう、リリィ…… 」


 そしてまた二人無言で見つめ合う。


「しかし、あのライル君がよく許可したね。彼の事だから反対すると思ったけど? 」


「わたし一人じゃなく、バルドゥインとタブリスが一緒だから…… それでもかなり心配していたわ…… 」


 それもそうだろうね。でもバルドゥインも一緒だと余計に心配したんじゃないのかな?






 複製した転移魔石を持って影の中に消えていくレイチェルを見送った数日後。


「また来ちゃった…… 」


「…… ようこそ」


 レイチェルが無事で良かったけど、何故またここに? 理由を聞けば、どうやらライル君の期待に添えられなかったみたいで、悔しい思いをしたレイチェルは、もっと影移動を上達させようと此処へ訪れるようになっていた。


 そんな日が暫く続いたとある日、何時もようにレイチェルが影移動でこのレヴィントン砦に来たが、今日は一人ではなかった。


「久しぶりだな、クレス。長の中で活躍は良く耳にしていた」


「お久し振りです、タブリスさん。あの…… これは一体どういう状況で? 」


「戸惑うのも分かる。オレも何でこうなったのか…… とにかく、レイチェルはこれから始まる戦いに加勢しようとしている。オレは長に護衛を任されていてな、まぁ宜しく頼む」



 その後すぐにライル君から連絡があり、レイチェルが自分を鍛える為に僕達に協力してくれるという事が分かった。何にせよ、レイチェルの闇魔法が頼りになるのはインセクトキングの巣穴とシュタット王国での戦いで証明されている。しかも護衛とはいえ堕天使のタブリスさんも一緒だ。


 問題はどうやってゲオルグ将軍に説明するかだな…… 他国とはいえ貴族のお嬢様が家の許可なく戦争に参加するんだ。普通なら即刻送り返されるところだ。


 あまり誉められた行為ではないが、ここは正体を隠してもらった方が良いかな?

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