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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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34

 

 あぁ…… レイチェル達が心配でちっとも店番に身が入らない。いらっしゃいませの言葉に余程心が籠っていなかったのか、何時ものように休憩に来たデイジーに、魂が抜けてるみたい―― なんて言われてしまった。


 気持ちを切り替えないととは思うが、それでもやはり意識がレイチェル達へと向かい、どうにもおざなりな対応になってしまう。


「ライルさん、心ここにあらずって感じですね。何な悩みでもあるのかな? 」


「そうねぇ…… 誰かを想っているような顔してるけど、色恋沙汰ではないわね。単純に遠くにいる誰かを心配してるってとこかしら」


「そうなんですか? デイジーさん、顔見ただけで良く分かりますね! 」


「まぁ、私も色々とあったからねぇ。その手の事にはちょっとばかり自信がある訳よ」


 テーブル席に着いて紅茶を飲むリタとデイジーが、勝手に人の心情を想像して盛り上がっている。しかもデイジーの予想が大体合ってるのが微妙に腹立たしい。


 やきもきしながらの店番も、漸くシャルルとの交代時間となり、俺は自分の部屋で休憩を取っている間にレイチェルの様子を確認する。逐一エレミアが報せてくれた内容では、ヴァンパイアの特徴である肌の色を、魔力によって一時的に体温を上げ、止まっている血管の血の巡らせて人間と遜色無い見た目になったバルドゥインと、三対六枚の羽を隠す為にローブを羽織るタブリス、そして堂々と姿を晒す人間のレイチェルが、転移場所から見えると言う町の門を問題なく通過し、町の人達に聞き込みをしている最中らしい。


 俺は部屋の中で、エレミアからまだ繋がったままのマナフォンを受け取り、スピーカーをオンにして話し掛ける。


「レイチェル? その後の調査で何か分かった事はある? 」


「えぇ、此処が何処だか分かったわ…… 怪しまれないように直球な質問は避けてはいるけど、話を聞けばどうやらヴェルーシ公国内みたいなの…… 」


「えっ!? それじゃあ、レオポルドはヴェルーシ公国に逃げようとしていたって事なのか? 」


「そうなるわ…… もしかしてこの町の何処かにカーミラの息が掛かった所があるのか、それとも町そのものが既に奴等のアジトと化している可能性もある…… もう少し調べてみようと思うの…… 」


「いや、そこまで分かれば十分だよ。本当にその町自体がカーミラと関係があるのなら、それ以上其処にいるのは危険だ」


 もしそうだったら、ウェアウルフや更に厄介な者が潜んでいるかも知れない。レイチェルの影移動なら逃げられるだろうけど、用心に越した事はない。何かあってからでは遅いのだ。


「兄様…… 約束の時間は二十四時間だった筈…… それまで集められるだけ情報を集めるつもり…… 大丈夫、バルドゥインとタブリスもいるし、無茶はしないから…… それと、ずっとマナフォンを繋げているのは思いの外魔力を消費するから、報告はメールでするわ…… 」


「俺としてはそう急がなくとも、後でじっくり調べても良いと思うけど…… そう言われては仕方ない。分かった、くれぐれも安全第一で頼むよ。レイチェルに何かあったら、俺は悲しいから」


「フフフ…… 兄様を悲しませるなんて、例えそれが私でも許せないわ…… ちゃんと元気な姿を見せなくちゃいけないわね…… 」


 此方は本気で心配してると言うのに、マナフォンの向こうからは何故かレイチェルが嬉しそうに笑う声が聞こえ、マナフォンが切れる。


 はぁ…… 気が気でない、これなら俺が行った方がまだ気が楽だったよ。


 俺の心配をよそに魔力収納内では、新しく出来た花酵母の酒を飲んでは盛り上がっていた。


『くっは~…… 何これ!? 何て言うか、甘酸っぱい!! デザートワインのようなガツンッとくる甘さじゃないけど、こういうのも良いわね! 花の香りがしないのは残念だけど悪くない、気に入った! 』


『はい。米酒の酒精をそのままに、甘さと酸味の調和が素晴らしく、とても飲みやすいです。初めての味ですが、慣れてくると癖になりますね』


『むぅ…… 我としてはこの酸味がどうにも合わぬ。しかし、同じ米の酒なのに、こうも違う味になるのだな。酒造りとは思っていたよりもずっと奥が深い』


 強い酒を好むギルとしてはあまり気に入らなかったようだが、アルラウネやアラクネも喜んでくれて概ね好評だ。


『酸っぱい? それって腐ってる訳じゃねぇんだよな? 』


『全然違わい! あたしが腐ってんのとそうじゃないものの区別がつかないとでも思ってんの? あんたも飲んでみれば分かるわよ!! 』


『俺様だって飲めるなら飲みてぇよ! でもこの体じゃ飲めねぇんだから仕方ねぇだろ!! 』


 レイスであるテオドアは食べ物は勿論、酒すらも飲む事は出来ない。元人間であるが故に食の楽しみが得られないのは結構キツイよな。


『ライル様、このお酒の名前は決まっているのですか? 』


 テオドアとアンネが言い争っている中、アグネーゼが素朴な質問をぶつけてくる。名前かぁ…… その内店で売り出す予定だから、商品名が無いと困るよな。


『花を使った酒ですから、花酒というのは如何でありましょうか! 』


 うん、オルトンの考えは悪くないんだけど…… それだとどうしても泡盛を思い出すんだよね。この世界には泡盛なんて無いだろうからそれでも通じるとは思うけど、やっぱりどうにも気になってしまう。


『ここは花酵母酒と言うのはどうかな? 』


『ライルも、オルトンも、なまえ、そのまんま。ひねりが、ない』


『くっ!? よもやムウナ君にそんな事を言われるとは…… なんと言う屈辱!! 』


 余りにもショックを受けたのか、オルトンがその場で膝から崩れ落ちてしまった。その気持ち、良く分かるよ。俺もベッドで座っていなかったら床に膝を付いていただろう。代わりにガックリと肩を落としているけどね。



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