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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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33

 

「じゃあ…… ちょっとリリィの所へ行ってくるわね…… 」


 そう言うとレイチェルは俺の部屋の隅に出来た影の中へ入って行った。


 アンネ曰く、影移動ならば転移魔術のように座標を設定する必要はなく、精霊魔術とは違って記憶にない場所でも問題はない。影がある場所なら何処へでも行けるらしい。でも、前に闇の勇者候補であるリアムの影移動を体験したけど、あの無数にある光の中から目的地を探すのは一苦労なんじゃないのか?


『そこは大丈夫! 会いたい人や場所を思い浮かべれば、そこへと繋がる影が向こうからやって来んのよ。ほら、闇の勇者候補が闇の中で見せてくれたでしょ? 』


 あぁ、言われてみて思い出した。確かにリアムが腕を軽く振るったら、外へ繋がる光が目の前に来たな。レイチェルも同じ事が出来る訳か。


『というか、どうしてアンネが行かないんだ? 最初に言い出したのにさ』


『あたしは一つの意見として述べただけで、自ら行くとは言ってないもん。それに…… あたしがレイチェルに掛かりっきりだった間に、完成したんでしょ? 例のお酒がさぁ。それを飲む機会を、あたしが延ばすとでも思う? 』


 うっ…… 相変わらず勘の鋭い事で。そう、アンネがレイチェルと一緒に影移動をものにしようとしていた間、俺の方も本格的に酒造りに没頭していた。とは言っても、仕込んでいた物が丁度熟成したので味をみていただけではあるが、漸く納得のいく味に仕上がった。


 どの花から取れた酵母か、発酵期間に精米歩合、もろみを抑える適切な温度、酒度、酸度、アミノ酸度、アルコールを毎日分析するなど、細かな条件をクリアさせて完成したのがこの花酵母を使った米酒である。


 出来上がった酒自体には花の香りはしないけど、普通の清酒と比べて甘さが際立ち、嫌にならない爽やかな酸味があり、酒精の高さに比べて飲みやすく、つまみがなくとも杯が進む。食前酒や食後にまったり飲むのも良いかも知れないな。


 早く飲ませろとせがむアンネを宥めつつ、俺はレイチェルの帰りを待つ。リリィから複製した転移魔石を受け取るだけなのでそんなに時間は掛からない筈。その予想通り、そんなに待つ事なくレイチェルが戻ってきた。


「じゃあ、今からこの転移魔石を発動させて、転移した場所や周囲を調べれば良いのね…… ? 」


「あぁ。だけど無理はしないでくれよ。周りを軽く調べるだけで良いから、最悪そこが何処か分からなくてもいい。危ないと感じたらすぐに逃げるんだ。念の為調査期間は二十四時間にする。明日のこの時間迄には必ず戻る事。もし帰って来なかったから、俺も複製した転移魔石でそっちに向かうからそのつもりで…… バルドゥイン、タブリス。レイチェルを頼んだよ」


「お任せを、必ずや王の期待に添えて見せましょう」


「なに、そう心配しなくても守ってみせる。オレを信じてくれ」


 リリィから受け取った転移魔石の一つをレイチェルが発動させると、部屋の中で空間の歪みが発生し、その先に別の景色を映し出す。


「パッと見、何処か分からないな。広野の様にも見えるけど…… 」


「何れにせよ、ここを通り抜けないと何も分からんという事だ。俺が先行して安全を確認してこよう」


 歪みの先に見える景色を眺めてはタブリスが警戒し、バルドゥインが安全確保の為に先行していく。


 歪みを通ったバルドゥインが辺りを見回し、近くに罠も何も無い事を確認した後、タブリスとレイチェルが空間の歪みの先へと向かっていく。


「兄様、いってきます…… 」


「いってらっしゃい。気を付けてな」


 閉じてゆく歪みの先で手を振るレイチェルを見送った。


『何もそう心配する必要はないんじゃない? どうせマナフォンですぐに連絡が来るんだからさ』


 アンネの言うようにマナフォンが震え、今さっき別れたレイチェルの声が聞こえてくる。


「兄様、聞こえる…… ? 」


「聞こえてるよ。そこが何処だか分かる? 」


「まだ何とも言えない…… 遠くに町が見えるから、其処に向かうつもり…… 」


「分かった。マナフォンはそのまま繋いでおいてくれ」


 俺の耳には大地を蹴る足音だけが聞こえてくる。恐らくレイチェルが闇魔法で作り出した狼の背に乗って移動しているのだろう。こうして常にマナフォンを繋いでおけば、何か異常があっても早く気付ける。


『やれやれ、身内となると視野が狭くなるのは考えものだな』


『それがライル様ですから…… 』


『然り、だからこそじぶん達はそんなライル様を支える為、常にお側にいなくてはならない』


 ギルの言葉に返すアグネーゼとオルトンの発言には、何やら俺が手の掛かる子供だと言っているような気がする。こちとら精神年齢五十は過ぎているんだぞ? とは言ったが、子供染みた言動だと自分でも思う時がある。


 おかしいなぁ、前世で死ぬ前はもっとしっかりしてた記憶があるんだけど…… もしかして、肉体年齢に心が引っ張られてる? そんな馬鹿なとは一蹴出来ないのが厄介なところだ。何せ確認出来る前例が俺とシャロットしかいないから、無いとは言い切れない。


「ねぇ、ライル。そろそろ店を開く時間よ」


 エレミアに言われて、マナフォンを繋いだまま俺は一階に下りて店のカウンターへ着く。ずっとマナフォンを耳に付けている訳にもいかないので、店番をしている間はエレミアに預けた。


 エレミアが言うには、そろそろ町へと到着するらしい。レイチェルとタブリスはまぁ大丈夫だと思うけど、バルドゥインは町中で大人しくしていてくれるだろうか? てっきりカーミラかその関係者のアジトに繋がっていると予想してたからな。それがまさかの広野に町とは…… 気になり過ぎて店番どころじゃないよ。

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