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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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レヴィントン砦の防衛戦 5

 

 もう何体目か分からないレイスの断末魔を聞きつつ、僕はスケルトンが攻めてきている門前へと向かう。


 そこには防壁の上で雪の中を進むスケルトンに弩砲と魔法を放つ兵士と魔法士に混じり、レイシアとリリィ、それと少し離れた所にアロルドとレイラの姿があった。


「遅れてすまない! 戦況は? 」


 いち早く僕に気付いたアロルドが魔法で下の雪を操りながら答える。


「見ての通りだ! スケルトン共は弓や弩砲で何とかなるが、レイスがな…… リリィと魔法士達がどうにか抑えているが、数が多くて苦戦しているみたいだ」


「アタイの土魔法じゃ避けられちまう。肉体労働は得意だけど、魔法はちょいと苦手でね」


 レイラはこの間まで農民で、授かった土魔法は畑を耕したり害獣から作物を守る土壁を作ることぐらいしか使った事がないらしく、空にいるレイスに当たる程の命中率はないようだ。


「分かった! レイスは僕に任せてくれ!! 」


 今夜はレイスの数が多いな。もしかして夜の方が嫌がらせに適していると思い、作戦の変更でもしてきたか? だとしたら実に迷惑な話だね。



 少し離れた防御壁の上で輝く魔術陣の中にリリィがいた。


「リリィ! まだ魔力は大丈夫か? 」


「…… 問題ない。…… 私の付与魔術で、兵達の弓に光属性を付与したけど、効果時間も矢の数にも限りがある。…… 頼める? 」


「あぁ、勿論! 」


 兵士と冒険者が、リリィの魔術によって強化された光る弓を持ってレイスへ矢を放つ。あの弓で射れば、自動的に矢にも光属性が付与されるようになっている。こうすれば一々矢の一本ずつに付与魔術を使わなくて済む。しかし、夜で視界も悪いうえにレイスは激しく空中を動き回るので、熟練の者でも当てるのは困難だ。レイラが早々に諦めてスケルトンの相手をするのも頷ける。


 僕は剣先を空へ掲げ、光球を打ち上げた。レイス達がその光球から身を躱しては再び結界へと攻撃を仕掛ける。近付く光球の光に当てられ苦しそうに顔を歪めるレイスだったが、通り過ぎてしまえば意識は結界へと移る。そこが狙い目だ。まだ僕の魔力はあの光球と繋がっている。


 空高く上がった光球が突如として弾け、地上に光が降り注ぎ昼のように明るく照らし出す。こうも拡散してはレイスを倒す程の威力はないが、暫く動きを止める事は出来る。魔法による光に晒されたレイス達は一様にもがき苦しみ、空中で静止する。


「今だ! 一斉に矢を放て!! 」


 その隙を見逃さず、弓兵部隊の隊長の号令と共に空を埋め尽くさんばかりの矢がレイス達に向かって飛んでいく。あれだけの数なら狙いを付けなくともどれかは当たる。リリィの付与魔術で光る鏃がレイスの体を通り抜けた後には、ぽっかりと大きな穴が空いていた。魔力で形成されているレイスの体に矢はすり抜けてしまうが、そこに弱点である光属性が付与されていれば、触れた箇所の魔力が消失してあのように穴が空く。


 レイス達に風穴を空けた矢は、魔術の効力を失い地上にいるスケルトンへと落ちていく。


 これは防衛戦なので、アンデッドが活動できない朝まで守りきれば此方の勝利。まぁその前に向こうが撤退してくれるなら、ゆっくり眠れる時間ができるのだけど。


 僕は光を纏い、空中にいるレイス達へと光速で移動し、飛んでくる矢を掻い潜りながら魔法を付与した剣で斬っていく。


 矢によって体中穴だらけになってもレイス達は結界を破ろうと執拗に攻撃を加えようとする。普通ならここまで傷を受けると逃げ出す筈。それなのに、レイス達は絶望の表情を浮かべ必死に結界に齧り付く。


 例外はあるが、魔物は魔王の命令には逆らえず絶対服従になるらしい。このレイス達もその強制力で逃げたくとも逃げられないのだろう。死を目前としながらも、それでもこの場から離れない恐怖は如何程のものか…… それは察するに余りある。だけど同情なんてしない。レイスは元人間だったとしても、その殆どは盗賊や山賊だと言う。例え不幸にもレイスとなったとしても、その後は人間に害を為して来ていた。だから僕は決して彼等に手を抜くつもりはない。


 視界の確保とレイス達の動きを鈍らせる為、光が収まり闇が戻る前にもう一度光球を打ち上げては弾けさせ、この真昼のような明るさを維持していく。


 リリィが次々と魔術で弓に光属性を付加し、それを兵士と冒険者が効果の切れた弓と交換しては空へと矢を放つ。地上ではゴーレムが壁となり、アロルドが魔法で雪を操作してスケルトンの動きを封じ、レイラの土魔法で形成された岩の塊がスケルトンの頭蓋を粉砕する。アロルドの精密な魔法とは相対的で、レイラのは威力はあるけど操作が大雑把な感じがする。これじゃ動いている敵には先ず当たりはしないだろうな。だからアロルドが補助に回っているのか。何だかんだ言いつつ、結構息が合ってるように見える。




 結局、アンデッドの襲撃は日が昇るまで続き、日に当てられたスケルトンは只の骨となって崩れ落ち、レイスは絶叫を上げ消えていく。昼の魔物とは違い、見るからに使い捨てにされている彼等を前に、勝利の余韻なんてありはしない。残るのは魔王への憤慨と胸にこびり付く不快感だけ。


 もう少しで春になり、雪がある程度溶けさえすれば、此方から打って出る事が出来る。それまであと何回こんな防衛戦を繰り返さなければならないのか。


 こんなの、転移魔術での食糧の運搬が無かったら、とっくに心が折れてしまっていただろう。魔王の嫌がらせも案外馬鹿には出来ないな。


 とにかく、これで暫くは向こうの態勢が整うまで襲撃はない。リリィと同じで、僕も早く宿に戻って眠りたいよ。厚い雲の切れ間から差し込む日の光を受けて下に拡がる白銀の大地が煌めくのを見下ろし、僕は目を細めては大きく息を吐いた。

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