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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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レヴィントン砦の防衛戦 4

 

 宿の部屋に備え付けられている長方形の魔道具から発生する温かい風が凍えた体を優しく溶かしてくれる。


 僕はこれと良く似た魔道具をインファネースで見たことがある。あれは逆に部屋を冷やす魔道具だったよな。確かライル君が考案した物だったと記憶している。恐らくだが、あれを見た商人が原理を真似してレグラス王国に持ち込んだのだろう。


 この魔道具はレグラス王国の厳しい冬の生活を大きく変えた物だと、ゲオルグ将軍から聞いた。ライル君の発明がこうして本人の与り知らぬ所で人々の生活を豊かにしていると思うと、僕も負けられないという気持ちが沸き起こる。


 そう言えば、魔王軍との戦闘が始まった頃からライル君に連絡をしていなかったな。向こうから連絡が来ないのはきっと僕達の邪魔にならないようにと配慮してくれているから。ライル君はそういう人だから、此方から連絡をしないと何時までも心配させてしまう。そうだ、このメールという新しい機能を使ってみるか。これならライル君の時間を取らせずに現状を報せられる。




 この文字を打つという感覚に悪戦苦闘しつつも、何とかメールをライル君に送る頃にはすっかり日も落ちてしまっていた。


 さぁ、ここからが第二戦の始まりだ。夜には地上からスケルトン、空からはレイスが襲ってくる。でもこれを乗り越えればまた暫く魔王軍からの襲撃はない。シュタット王国のように毎日は流石の魔王軍もこの厳しい環境では難しいみたいだ。大陸最北端のレグラス王国の冬は長い。この雪が全部溶けて無くなるには夏まで掛かると言われている。それまで待つ気はない、積雪が膝下くらいにまで溶ける春に、魔王軍と本格的な戦争を始める予定だ。


 これまでの襲撃を見て気付いたのだが、あのガムドベルンのように魔王から力を授かった魔物の姿がなかった。やはり軍の見立て通り、これは魔王からの嫌がらせに間違いないと僕も思う。


 ゲオルグ将軍が会議で発言していたように、僕達が来なければ魔王の策は成功していた事だろう。如何に頑丈な砦があったとしても、そこを守る人達が弱っていては何れ突破され蹂躙されてしまう。魔王にとって、僕達がこうして魔王軍もよりも早くレヴィントン砦に到着出来たのは誤算だったに違いない。しかし、シュタット王国での事は既に魔王へと情報は渡っている訳だから、転移魔術の存在についても把握している筈なので、幾らこの砦を攻めたとしても、食糧は余裕で春まで持つのは魔王も分かっているだろうに、どうしてまだ攻めてくるのか……


 思考の海に沈みかけていた僕を、不意なノックの音が現実へと引き上げてくれる。


「クレス、寝ているのか? 」


「いや、すぐに開けるよ」


 扉を開ければ、既に鎧を着込んだレイシアと完全防寒しているリリィがいた。


「そろそろ奴等が来る時間だ。クレスも準備して防御壁に向かうぞ」


「…… 夜は更に冷え込む。…… 出来れば外になんか出たくない。…… どうせ結界の中には入って来れない訳だし、私一人いなくても平気だと思う」


「む? まだそんな事を言っているのか? 援軍として来ている私達が出なくてどうする。それにアンデッドにはクレスの光魔法とリリィの魔術が有効なのは知っているだろう? 」


 渋るリリィをレイシアが窘める。そんな何時ものやり取りを横目に僕は鎧を装着していく。まだライル君からの返信はないけど、アンデッドを追い払った頃には来ているだろう。


「お待たせ、それじゃ行こうか」


 レグラス王国の冬の夜は想像以上に冷え込み、リリィが渋る気持ちが良く分かる。鎧の上からローブを纏ってはいるけど、寒いものは寒い。だけどこのローブがなければ外気に晒され鎧が冷たくなり、とても着れたものではない。



 敵が攻めてくる方向は大体決まっているので分かりやすいのだが、空から来るレイスや魔物は全方位から仕掛けてくるので面倒だ。僕らの手の届かない所から無理矢理結界を壊そうと攻撃してくる。大量の負荷を掛けられれば、結界だろうが壊れてしまう。そしたら一斉にレイスが街中に侵入して憑依された人々が暴れ大惨事となる。それだけは何としても阻止しないといけない。


 アロルドとレイラが戦っているであろう門前へと向かう途中、空を見上げればそこかしこにレイスの姿が確認出来た。


「レイシアとリリィはアロルド達の所へ、僕はあのレイス達をどうにかするよ」


「分かった。物理が効かぬレイス相手では、私はあまり役に立てんからな。スケルトンは任せてくれ」


「…… 先に行ってる。…… 早く終わらせてあの温かい部屋に戻って柔らかなベッドで眠りたい」


 レイシアとリリィと別れた僕は、結界に攻撃を仕掛けているレイスに向かって光魔法をぶつける。僕の魔力から生み出された光球がレイス達の目の前で弾け、眩い光が暗い空を明るく照らす。その光にレイス達は悲鳴を上げて逃げ惑う。その中を僕は光を纏い光速で空まで上がっては、腰に差したミスリルの剣に光魔法を付与して一体ずつレイスを斬り裂いていく。魔力の無駄撃ちはしたくないので、聖剣はまだ出すつもりはない。レイスだけなら魔法を付与した剣で十分だからね。



 はぁ、自身に光を纏っていると、鎧がいい感じに熱せられ丁度いい温度になって幾分か気が楽になるよ。空中でレイスを倒しながら呑気にそんな事を考える僕は、戦場の雰囲気にすっかり慣れてしまったようだ。今回のレヴィントン砦での戦いはまだ戦場とは言える程過酷でもないしまだ余裕がある。


 もういい加減諦めて、春まで大人しくしていて欲しいものだね。この嫌がらせは地味に効くから始末が悪いよ。

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