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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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30

 

「分かりました。その提案をお受けします。ただし、それ以上は関わらない。それで良いですね? 」


「あぁ、それで結構。出来れば連絡手段として、その小型通信魔道具を貸してくれると助かるのだがね。勿論調べたり、誰かに見せるつもりはない。ただ、それがあれば即座に君へ情報を伝えられるだろ? 」


 それらしい事を言ってはいるが、絶対マナフォンを調べるつもりだな? だけどお生憎様、これは端末でしかなく本体は店の地下にある大魔力結晶だ。なのでその端末だけ調べても何も分からないし、術式を再現できたとしても本体と同調してなければ使い物にはならない。


「良いですよ」


 俺は魔力収納からマナフォンを一つ取り出してゼノの前にある机に乗せる。


「おや? てっきり断られると思っていたのが…… 調べられても問題ないのか、それとも無駄なのか…… 何れにせよ此方の手に負えない物なのだろうね」


 呆気なくすんなりとマナフォンを差し出す俺に、何か仕掛けられているとでも思ったゼノは警戒を高め、側に呼んだリアムにマナフォンを手渡す。


 彼に渡したマナフォンには俺の番号しか登録されていない。それ以上の事は何もしていないのだけど、いい感じに思い込んでくれているのでそのままにしておこう。


「カーミラについて何か掴んだらすぐに報せよう。それと、もし別に依頼したい事があれば格安で受けようじゃないか」


「その代わり、其方のお願いも聞いて欲しいと? 大丈夫です、貴方がたに依頼することはこの先もありませんから」


「それは残念だ。調停者に恩を売っておけば、死後何かと神に融通されると思ったのだがね…… まぁ、先は長い。別の方法で君に恩を売り付けるとしよう。では、また会う日を楽しみにしているよ」


 ゼノがそう言うと、老人のような体は糸が切れた人形のよう机に倒れ伏せた。術を解いた事により意識が本体へと戻り、ただの死体になったのだろう。


「部屋まで送ろう」


 ここへ来たように、リアムの影移動で自分の部屋まで送ってもらう。裏ギルドのマスターと会っていた時間はそんなに長くはないけど、こうして部屋まで戻ってくると安心したのかどっと疲れが出てしまうな。


「用は済んだ。君を監視する必要な無くなったので、もう会う事はないだろうな」


 リアムが再び影に潜ろうとしている所を、俺は咄嗟に呼び止めた。


「あ、ちょっと待って下さい。リアムさんは闇の勇者候補なんですよね? 本当に魔王を倒す意思はないのですか? 」


「悪いが、今は仕事優先だな」


「そうですか…… 私は光の勇者候補を補佐していこうと思っています。その光の勇者候補は勇者が決まるまで待つのではなく、勇者候補全員で力を合わせて魔王を討とうと考えているのですが、良かったらリアムさんも彼に力を貸して貰えませんか? 」


 何とかクレスに協力してくれるよう頼むが、リアムはあまり乗り気ではなさそうに此方へと体を向ける。


「…… それは、魔王を暗殺してくれという依頼か? 」


 これは、どう解釈すれば良いんだ? 依頼なら魔王を倒すのに力を貸してくれるってこと? でもさっき、お前らなんかに依頼する事はないって言ったばかりなんだよなぁ。


「いえ、個人的なお願いです」


 リアムはじっと俺を見詰め、何も言わず静かに影へと潜って行った。


「期待するだけ無駄よ。クレスには悪いけど、あんなのが勇者候補にいたんじゃ全員の力を合わせるなんて出来っこないわ。ここは勇者が決まるまで時間を稼ぐしかないわね」


 魔力収納から出てきたエレミアが、冷たい口調で見放すように言葉を吐く。


「それでも、一応声を掛けとかないと…… 万が一って事もあると思うからさ」


 期待はしてないけど、黙ってるよりかは良いと思って言ってみただけ。


「ふぅ…… 今日はウェットスーツのテストと、思いもよらない来客でもうヘトヘトだよ」


 俺は力ない足取りでベッドへ入ってグッタリと横になる。疲れた体にサンドワームの革の程よい弾力と、アラクネが作る糸で織ったシーツの柔らかで滑らかな感触が、心地よい眠りへとゆっくり誘ってくれる。


「おやすみ、エレミア」


「えぇ、おやすみ、ライル」


 寝ようと目を閉じれば、何やら魔力収納内が騒がしい。気になって意識を向けてみると……


『駄目です、アンネ様! まだライル様は完成していないと仰っていたではありませんか! 』


『そこを退きなさいよ、アルラウネ! 妖精たるあたしが花で作る酒を前にどうして我慢できる? いや、出来ない!! 未完成でもいい、作り始めて結構経ってそれなりの味にはなってるんでしょ? それでも良いから飲ませろって言ってんのよ! 丁度ライルも眠ってる訳だし、ちょびっとだけこっそり飲んでもバレないっしょ? 』


『誰にも此処へは入らせないようにと、ライル様から仰せつかっております。ですから諦めて下さい! 』


 アンネとアルラウネが酒蔵の前で言い争っている。面倒なのでここはアルラウネ達に頑張ってもらおう。悪いね、俺は眠いんだよ。


『アンネ、ひまなら、ムウナとあそぶ。そしたら、おさけのこと、わすれられる! 』


『おわぁっ!? ち、ちょっとムウナ? いまは遊びよりもお酒の気分なの! だからこの触手を離しなさいよ!! 嫌じゃあ! あたしは今飲みたいのぉぉ!!! 』


 魔力収納から完全に意識を閉ざす瞬間、ムウナの触手に掴まれ連行されていくアンネと、それを見てホッとするアルラウネ達の姿が視えた。


 これはアルラウネ達の平穏の為に早く完成させた方が良さそうだ。そんな事を思いつつ俺は眠りに落ちていく。

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