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「さて、もう十分に考える時間は与えた。そろそろ君の意見を聞きたいのだが? 」
裏ギルドの在り方についてか…… 理想と現実、表と裏、光と闇。双方のバランスが保っているからこそ、今の世界が成り立っていると言っても過言ではない。
「…… 例え裏ギルドが無くなったとしても、別の組織が生まれるだけで何も変わらないかも知れない。だからと言ってその存在を皆が認めてしまっては希望の光は消えてしまう。人々は理想を抱けなくなってしまう。貴方達の存在を、声を大にして否定する者は必要だ。色々と考慮すれば簡単に答えなんて出せない程に難しい…… なので世の中の仕組みや事情は一切無しで、俺個人としての考え、とまでじゃなく単純な思いを言わせて貰えば…… 仕事と言って犯罪を正当化するあんたらは好きじゃない。それに何時俺の家族や友人、知り合いが狙われるか分からないからね。正直無くせるのなら今すぐにでも壊滅させたいくらいだよ」
飾らず俺なりの言葉で心の内を吐露してみた。ここで相手の機嫌を伺うのも何か違う気がするし、俺の周りで何かしでかしたら容赦なく滅ぼすという意思表示でもある。
「そうか…… 忌憚のない意見―― いや、思いを聞かせてもらって満足だ。人間の調停者とは争いたくはない。此方が勝てる未来が見えないからな。なのでお互いに出来るだけ干渉しないようにしようじゃないか。私もまさか噂になっている人間の調停者がインファネースにいるとは思わなかった。てっきり聖教国で囲われているものとばかり…… いかんな、歳で頭が凝り固まってしまったのかも知れん」
本格的に対立はしたくないって訳か。それは此方も望む所だが、初めからそれが目的で俺と会いたいなんて言ってきた節がある。
「じゃあ、俺の家族や周りの人達は殺しの対象にはしないと? 」
「勿論だとも、例え王族に依頼されても断るさ。君を怒らせてしまったら、その中にいる化物と聖教国、そして他種族達が私達を滅ぼさんと牙を向けてくる。それは一国を敵にまわす以上の驚異だ。そんな愚は犯したくない」
どちらが自分にとって損が大きいかを冷静に判断している。王妃様が言っていたように利己的な男だ。
「此方の話は終わりだが、其方から何か聞きたい事はないかね? 」
「では、そこにいる闇の勇者候補であるリアムさんですが…… 魔王を倒す意思はあるのですか? 」
「それは私も悩み所でね。魔王を暗殺したとなれば、裏ギルドの実績と信頼が上がるだろう。しかし、確実に仕留められる保証もないまま挑む真似はさせなくない。私達には敵が多くてね。魔王だけに目を向けている訳にはいかないのだよ」
まぁ、こんな仕事だから相当色んな所から恨まれてそうだな。
「今優先して警戒しなくてはならないのはその魔王と、もう一人…… そいつは私と接触を図り、従属しろと迫ってきた。従えば新たな力を与えるが、許否すればギルドを壊滅させると脅して来たのさ。私は考えた…… 結果、断ったよ。奴の話はあまりにも荒唐無稽でね、到底信じられるものでは無かった。あれは何れ私達にとって邪魔な存在となる。そう思い奴の足取りを調べていたのだが、ある日を境に奴は姿を消した。その半年後…… 奴は聖教国から正式に神敵と宣言された。あの時、断るという判断を下した私を自分で誉めてやりたい気分になったよ」
「聖教国から神敵と? 奴と言うのは、まさか…… 」
「そう、カーミラだ。奴と会って話したが、あれは相当狂っているぞ。真の解放を求め、この世界を捨てて新しい世界へと行くらしい。それだけなら其方で勝手にしろと言いたいが、その手段が許容出来ない。奴はこの世界を犠牲にして別の世界へと渡ろうとしている。もしそれが実現されるような事になれば、世界も、そこに生きる私達も全て無くなってしまう。奴とその仲間以外はな…… こんな大損害は絶対に回避しなくてはならない。そこで提案なのだが、お互いに標的は一致している訳だから、奴に関してだけ手を組むのは可能かね? 君達は奴の居場所を探しているのだろう? 裏ギルドもそれに協力しよう。ただし、奴を仕留めるのは君達に任せたい」
調べた情報を提供するから、カーミラを倒すのは俺達でやってほしいと…… そうすれば自分達は危険から遠ざかる事が出来る訳だ。カーミラに関しては利益を求めるのではなく、損失を如何に少なくするかに重点を置くようだ。
正直、こういう者達に頼りたくはないけど、カーミラの居場所も何一つ分からない状況で我が儘は言ってられない。何だかゼノの狙い通りの展開になってる気がしないでもないが、ここは仕方ないか。
『皆の意見を聞きたい。俺はこの提案を受けようと思っているんだけど、どうだろう? 』
『俺は王のご判断に従うだけ』
『我が主の御随意に…… 』
バルドゥインとゲイリッヒは賛成か…… まぁこの二人ならそう言うだろうな。
『う~む…… 教会に属する者としては、この者達と手を組むのは忌避する所ですが、世界の為…… じぶんは黙して目を瞑るのが精一杯であります』
『私も表立って賛成とは言えませんので、何も聞かなかった事にする位しか…… 申し訳ございません』
オルトンとアグネーゼは、ここでの事は何も見ても聞いてもないという体を貫くようだ。これが二人の最大限の譲歩なのだろう。
『オレは利用出来るのならそれで構わないと思う。何よりカーミラを早く探し出して倒さねばならない』
『別にいいんでない? 向こうが何か企んでいたとしても、あたしの精霊魔法とゴーレムで組織ごと粉砕してやんよ! 』
『我はどちらでも良い。ライルの好きにしろ』
『よく、わかんない、けど、ムウナは、ライルをまもる! だから、だいじょぶ!! 』
うん、他にアルラウネやアラクネ達にも反対意見は無しだ。
『…… こいつらを信用なんか出来ないけど、私一人が反対したってしょうがないわよね。だけど、情報を貰うだけよ。それ以上求めても求められても駄目だからね。ライルにこんな奴等と同じになって欲しくないの』
エレミアは渋々だけど了承してくれた。あぁ、分かってる。俺も裏ギルドの連中とそこまで深く付き合おうとは思っていないよ。
魔力収納にいる皆の意見を聞いている間、ゼノとリアムは急かす事なくじっと待っている。長い沈黙の中、俺の声が嫌に大きく響いた。