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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第四幕】ゴーレムマスターと人魚族の憂鬱
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15

 

「先ずはこの手紙を読んでください」


 俺は魔力収納からギルドマスター宛にシャロットが書いてくれた手紙を渡した。


「おや? この封蝋の紋様はレインバーク家のものですね」


 ギルドマスターは手紙を慎重に開いて中身をじっくりと熟読する。やがて手紙を読み終えて此方へと目線を戻すが、何も変わらないその表情からは彼の心情を読み取ることは出来なかった。


「ここに書かれている味噌と醤油という調味料を出してくれませんか?」


 言われるままに味噌と醤油が入った小壺を取り出しテーブルの上に置くと、ギルドマスターは蓋を開けて中身を吟味し始めた。


「…… 成る程、確かに魚料理に合いそうですね。それに他の料理の幅も広がります。シャロット嬢の強い勧めでもありますし、良いでしょう。此方で安全を確認していくつかの料理店に試供品として実際に使用して貰います。料理人とお客様の反応を見てから本格的に売り出すかどうかを決定します。それでよろしいですか?」


「ありがとうございます。それで十分です」


 むしろそこまでして貰えるなんて思ってなかった。あの手紙にはなんて書かれていたのか気になる。


「少しの間、君には儲けはありませんが仕方ないでしょう。皆様に認知して貰う事から始めなければなりませんので、ご理解ください」


「はい、此方もそこは理解してますので大丈夫です。よろしくお願い致します」


 試供分として味噌と醤油を幾つか渡しておく。残った分はどうしようか? シャロットにまとめて売るのもいいな。

 暫くこの街に滞在するので宿を探さなければならない。何処か良い宿がないか聞いてみよう。


「これから宿を探そうと思うのですが、お薦めがあれば紹介してくれると助かります」


「お薦めですか? それなら良い宿がありますよ。少し値は張りますが、料理が美味しくて防犯面もしっかりとして安心ですよ。猫の尻尾亭という名の宿で、名前の通り猫の獣人が営んでいます」


 態々地図まで用意して貰い場所を教えてくれた。


「ありがとうございます。後、塩を出来るだけ多く買いたいのですが、よろしいですか?」


「それなら担当の者に案内させましょう。ではライル君、蜂蜜の件よろしくお願いしますね」


 ギルドマスターの部屋から退出してギルド職員に塩の保管所まで案内してもらい、その場で塩を購入した。

 取り敢えずはこんなものかな。仕入れた物をエルフの里に届ける前に、紹介してくれた宿に行ってチェックインしておこう。


 ギルドから出て教えられた通りの道を進むと、大きな木造の建物に着いた。看板には “猫の尻尾亭” の文字が書かれている。ここが猫の獣人が営んでいる宿屋か。


 中へ入ると目の前にカウンターがあり、受付の人が出迎えてくれた。頭には猫耳がピョコンと出ている、ここからでは見えないが尻尾も生えているのだろう。だけど……


「よく来たな! ようこそ、猫の尻尾亭へ! 何泊の予定だ?」


 …… おっさんかよ!! そりゃ確かに男もいるだろう。でもな、猫の獣人って言ったら普通女の子を想像するだろ? 騙された感が半端ないんですけど! 勝手に想像して勝手に期待した俺が悪いんだけどね! それはわかってるけど、初めての獣人との交流が猫耳のおっさんて…… そりゃあんまりなんじゃないですか?


「どうした? 具合でも悪いのかい?」


 猫耳のおっさんが心配している。ギルドマスターから薦めてもらったし、今から別の宿を探す気力はもうない。


「いえ、少し疲れているだけなので大丈夫です。つかぬことをお聞きしますが、女性の従業員はいらっしゃいますか?」


「あ? そんなもんいねぇよ。うちは全員男だけど? 安全安心がこの宿の売りだからな!」


 確かにギルドマスターが言った通り防犯面がしっかりしてるね! こんちくしょうがっ!!


「取り敢えず…… 一週間でお願いします」


「あいよ! 部屋はどうする?」


 一人部屋を二つでいいかな? そう思い口を開こうとしたら、


「二人部屋でお願い」


 後ろからエレミアが口を挟んできた。思わず振り向いたら少しムッとした顔で、


「なによ? そっちの方が安いし、近くにいないと守れないでしょ?」


 確かにそうなんだけど、まぁエレミアがいいならいいか。


「部屋は階段を上がって右の二〇三号室だ。それとこれが鍵、それから飯は別料金だからな」


 大銀貨七枚を支払って、猫の尻尾を摸ったストラップが着いた鍵を受取り部屋に向かった。中は小さめのテーブルが一つに椅子が二つとベッドが二つ備え付けられてるだけのシンプルなものだ。


「あ~、なんかどっと疲れが出てきた」


 やっと一息つけたからか、俺は椅子に座り天井に顔を向けて呟いた。もう今日は動きたくない気分だ、このままベッドで寝てしまいたい。


「ねぇ、里で受け取った商品は味噌と醤油意外は全部売れたんでしょ? そのお金で必要な物は買ったし、これから里に届けに行くの?」


 そうだな、今後は商品の量を増やしても大丈夫そうだし、そこの相談も含めて一度里に戻ってみるか。


「そうだね、仕入れた物を届けに戻ろうか」


「ほんと? それじゃあ、早速行きましょ!」


 エレミアは森が恋しいのか嬉しそうだ。まだ里を出て一ヶ月も経っていないのにな。

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