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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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26

 

 鍛冶屋で働くドワーフのドルムに協力してもらい、ウェットスーツの安全性と機動性のテストを重ねて漸く納得のいく形になった。


「もう海の中はこりごりじゃわい! その工事とやらにはワシ以外の者に頼むんじゃな! 」


 約束のウイスキーを手に、ドルムは乱暴な足取りで鍛冶屋へと帰っていった。結構無理させてしまったからな、それでも最後まで付き合ってくれたのだから律儀なものだよ。いや、単に酒が欲しかっただけなのかも知れないが。


 良し、後はこれを王妃様とヘバックに報告して、もう一度ドワーフ達に説得を試みよう。


 だけど今日はもう遅いので、王妃様とヘバックにメールを送り休む事にする。


 疲れたなぁ、なんて呑気に考えながらベッドで横になろうとしたら、突然魔力収納からバルドゥインとゲイリッヒ、そして遅れてオルトンが出てきては辺りを警戒し始めた。


「おわっ!? 急にどうした? 」


「不敬にも王の部屋を覗いている輩がいる」


「それもここ最近ずっと我が主に向けられる視線を感じてましたが、別段何をする訳でもないので様子を見ていました。ですが、これは流石に見過ごせません」


 バルドゥインとゲイリッヒの言葉に目を丸くした。俺を監視している者がいるらしい。全然気付かなかったけど、他の皆は知っていたのか?


「じぶんは勢いで出てきただけであります! しかし、ヴァンパイアの言う通りなら、何とも許せん事ですな! 」


 あ、俺だけ間抜けって訳じゃなくてちょっと安心した。


「私もこのところ嫌な気配を感じて警戒はしていたけど、姿が見えなくて確信が持てなかった。今もそう、この気配はいったい何処から? 」


 部屋を覗いているって言うのだから窓からじゃないのか?


「いえ、もっと近く…… この部屋の中から感じます」


 は? ゲイリッヒの言う事が本当なら既に侵入されている? 結界は正常に発動しているのにそんな事があり得るのか?


「ライル、これはあの詰所と状況が似ているとは思わない? 」


「じゃあエレミアは、この覗き魔の正体は詰所に侵入した暗殺者だって言うのか? 」


 だとしたら何で俺なんだよ。別に暗殺されるような事なんてしてないと思うんだけどな。心当たりはないけど、知らない所で恨みでもかってたのか? だったら結構ショックなんですけど?


「えぇい、焦れったいわね。おい! そこに隠れてんのは分かってんのよ! 観念して出てこんかい!! 」


 痺れを切らしたアンネが魔力収納から出て、部屋の明かりで浮かぶ隅の影に指を指して怒鳴る。


「なぁ、アンネ…… その指の先には影しかないぞ? もしかして、影が俺を監視してたって言うのか? 」


 またいい加減な事を…… と呆れたのも束の間、アンネが指差した影がグニャリと蠢き、中から人の形をした黒い何かが出てきた。


「成る程、やはり妖精の目は侮れんな」


 本当にいたよ…… アンネがほら見ろと言わんばかりに勝ち誇った顔を向けてくる。疑ってすいませんでした―― って、そんな事よりあれは何だ? 良く見たら全身黒ずくめの格好をした人間だ。少し暗めの赤い短髪で、顔の下半分をタートルネックのような黒シャツで隠している為、人相は分からないが声からして若い男性のようだ。何処かクレスと歳が近そうな感じがするな。


「何故王の寝室を覗き見ていた? 答えによっては貴様を殺す」


「その前に何者かを聞かないと…… 貴方は裏ギルドに所属する暗殺者ですか? もしや牢にいた元執事を殺したのも? 」


 殺す気満々のバルドゥインを抑え、ゲイリッヒが基本的な情報を聞き出そうとする。


「俺の名前はリアム。察しの通り裏ギルドの暗殺者だ。仕事で牢屋に囚われている男を仕留めたのは俺だな」


「その暗殺者が何でライルをずっと覗いていたの? 誰かに雇われて殺しに来たって訳? 」


 エレミアの棘のある言葉にピクリと片眉を動かしたが、すぐに冷静になり、淡々と答えていく。


「いや、その少年を消す依頼は出てない。俺達は金にならない殺しはしない主義でね。仕事も終わり帰還しようとしたら、濃すぎる神の気を纏う奴がいたのでギルドマスターに報告したところ、暫く監視するように言われ、闇に身を潜んでいたのさ。お前も分かるんじゃないのか? 俺の中にある神の気配ってやつを」


 良く喋る人だな。暗殺者って普通はもっとこう、寡黙なイメージがあるから違和感が半端ないよ。


 それにしても、あの暗殺者―― リアムと言ったか? 俺から神の気配を感じたって言ったよな? その気配に気付ける者は敬虔な信者かアンネとギルのような神から強い恩恵を受けた者だけ。さっき何気なく魔力支配でリアムを調べようとしたのだが、見事に弾かれてしまったよ。


「確かに、あんたからは属性神の気配を感じるわね…… もしかして勇者候補? 」


 アンネが驚くべき事を口走る。まさか、あいつは殺し屋だぞ? そんな奴が勇者候補に選ばれるなんて――


「そう、俺は闇の属性神に選ばれた。フッ、俺が勇者候補なんてどんな冗談だか…… 闇の属性神は気まぐれと聞くが、こればかりはギルドマスターも困惑していた」


 そのまさかでした。言っておくけど、俺はその神の気配ってやつを感じた事がないんだよね。本当にあいつは闇の勇者候補なのか?


『羽虫を擁護する訳ではないが、我にもあやつから闇の属性神の気配を感じるぞ。間違いなく勇者候補の一人だ』


 調停者であるギルとアンネが言うのだから信じるしかないか。まったく…… 気まぐれにも程があるだろ、闇の属性神様よ。

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