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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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22

 

 〈う、うわぁあああ!! な、何でこんな所にグラコックローチの幼体がいるんだ!? 結界で街に入ってこれないんじゃなかったのかよ! 〉


 〈いや、それよりも何で俺達だけに追い掛けてくる? 不自然過ぎるだろ!! 〉


 レイチェルの闇魔法で作られた大量の小さいグラコックローチが、カサカサという音が聞こえてくるような動きで執拗にクレーマー達を追い掛ける。


 それを目撃した周囲の無関係な住民達は、そのおぞましい光景に悲鳴を上げて散っていく。母親は咄嗟に自分の子供の目を手で隠している。確かに、これは子供には見せられないね。


 レイチェルの巧みな魔力操作により上手く誘導し、クレーマー達が行き着いた場所は――


 〈はぁい♪ 待ってたわよぉ。さぁ、存分に楽しみましょ〉


 新たな地獄だった。






 ハニービィからの映像では、ティリアとアンネ率いる妖精達、ヘバックと漁師達、そしてレイチェルとデイジー達によって捕らえられていくクレーマーの姿が写し出されていた。


 俺は店の中で代表達とレイチェルにメールで逐一状況を報告している。


 この分だともうすぐ全員捕まえられそうだ。さて、カラミアの方はどうなったのかな?



 北商店街へと向かわせたハニービィの視覚映像を確認すると、一人の執事が子爵の邸の庭でカラミアとインファネースの兵士に抵抗していた。


 カラミアは予め子爵に事情を説明し、フードローブの正体である執事を捕まえるのに協力してもらっていたのだが、思いの外やるようで若干苦戦しているみたいだ。


 〈ちっ、最初から騙されていたって訳か。だが、これで勝ったと思うなよ? 我々の理念は崇高であり、国を腐敗させる王族とは違うのだ! 全うな貴族こそが人民を正しく導ける存在であり、今の時代に王など不要! 新しき時代の幕開けとなる!! 王族がどんなに汚いか、貴女なら分かる筈だ。国は違えども蓋を開ければどこも同じ。それを良くご存知なのでは? 他国から流れてきた貴女なら…… どうですか? お互いに手を組み、王政を廃し、この国を正しく導こうではありませんか! 〉


 インファネースの兵士に囲まれた執事が声を荒らげ訴えた内容に、カラミアはニヤリと口角を上げた。


 〈確かに、王族なんて録なもんじゃないわ。それは身に染みて良く分かってる…… でもね、だからと言って王政を崩したとしても、頭が挿げ替わるだけで国の在りかたなんて変わりやしないわ。あんた等の親玉が其ほど優秀で特別とも思えないしね。…… ん? 理解出来ないって顔してるわね。ならもっと分かりやすく言ってあげる―― 生まれて初めて出来た心許せる友の命を、あの子の母親としての時間を、くだらない理由と卑劣な手段で奪った奴等が国を良くするですって? ふざけんじゃないよ!! 〉


 怒りに染まるカラミアの啖呵に、執事は一瞬たじろいだものの、すぐに顔を赤くして射殺すような視線をカラミアに向ける。


 〈我らを侮辱するか、この流れ者の売女め! 貴様は今ここで殺してくれる!! 〉


 懐からナイフを抜いた執事はカラミアに近付くが、周りの兵士達によって難なく取り押さえられてしまう。


 〈おいおい、あんまし挑発しねぇでくれよ。あんたに怪我でもされちゃ後でライルに怒られるだろ? 〉


 〈あら、ごめんなさい。でも彼が紹介するくらいだもの、これぐらいどうって事ないでしょ? 〉


 ちっ、と舌打ちをして髪の無い頭を乱暴に掻くガストール。


 カラミアが念の為に領主から兵を借りると言っていたので、ガストール達を薦めておいた。給料とは別にカラミアが報酬を出すので、いい小遣い稼ぎになると喜ぶガストールに、ちゃんとカラミアを守るよう頼んだいたのが良かった。


 〈ほら! きりきり歩くっすよ! 〉


 〈…… 〉


 ルベルトとグリムに連れられていく執事だった男は、恨めしい顔をカラミアに向けてはその場を離れていく。






 後の調べで、クレーマー達は執事の主人である貴族に雇われて旅行者としてこのインファネースに潜り込み、騒ぎを起こしたらしい。そんな彼等の単純な金目当ての犯行とは違い、元執事は貴族派の者と直接繋がっている為、取り調べには時間を掛けて慎重に進めている。



「じゃあ、あのクレーマー達はインファネースから追い出しただけ? 」


「まぁ大した事もしておらんからの。国外追放なんぞ出来んし、良くてインファネースへの出禁が関の山じゃて」


「問題はあの男よ。予想外に強情で何も話してくれないわ。出来るなら王妃様の力は借りたくなかったけど、そうも言ってられないわね…… はぁ、今はサンドレアとの貿易路確保でお忙しいというのに、気が引けるわ」


 商店街クレーマー騒ぎが収まり、落ち着いた頃を図って代表達は俺の店へと集り状況整理と今後の対策を話し合っていた。


「流石にインファネースに入ってくる者全員を調べる事は出来んからのぅ、カラミアが目を光らせておってもこの様じゃ。儂らも何れだけ見逃しておるか分からん」


「ここは貿易都市だからね。人の出入りを制限なんかしてたら暴動が起きちまうよ」


 結局、具体的な対策案も出ないままこの日はお開きとなった。



 事件は終わり、捕らえた男から情報を聞き出すだけ…… しかし、カラミアからのメールによって、俺達の望みとは違う幕引きとなってしまった。



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