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カラミアが協力してくれるとリタ達に報告してから数日。例の迷惑な同業者を名乗る男は姿を見せなくなっていた。
カラミアの会社の社員は、リタからその男の人相や特徴を聞き、調査をしている最中である。
「何か、ごめんなさい。思ったより大事になっちゃって…… 迷惑ですよね? 」
その後が気になった俺とデイジーがリタの店を訪ねると、暗い顔をしたリタが申し訳ないと謝ってくる。
「リタちゃんは何も悪くないから謝る必要は無いわよ。それに、同じ商店街の仲間でしょ? ガンテや他の店の人達にも話したら、力を貸してくれるって張り切っていたわ」
「うぅ…… 私達の為に、ありがとうございます」
デイジーの言葉にリタは目を潤わせた。
「でも、調査に乗り出してからその男は来なくなったのよね? もしかしてカラミアが動き出したのを察知して隠れたのかしら? 」
「その可能性は高いですよ。ただ、あのカラミアさんが日頃から目を光らせていると豪語しているのに、それに気付かれずに動く事なんて出来ますかね? 」
「何よ、リタちゃんが出鱈目を言ってるっていうの? 」
「ち、違いますよ! そんな礼儀もなっていない商人に、北商店街で店を出す事を許したりするのかな? って疑問に感じただけです。リタさんを疑う気持ちなんて微塵もありませんよ! 」
だからそんな怖い顔を近づけないでくれないかな? 心臓に悪い。
「つまり、北商店街で店を構えているってのは、その男の妄言だったと、そう言いたい訳ね? 」
「えっと…… 何でそんな事を? 」
「いや、まだそうと決まった訳ではないけど…… よく考えてみればおかしいんですよ。何で北商店街で店を出していると言っておきながら、自分の名前を言わなかったのか…… まるで―― 」
そこから先の言葉はとある人物に遮られてしまった。
「―― まるで北と南を仲違いさせようとしているみたい、でしょ? 」
「あ、カラミアさん。いらっしゃいませ」
「突然失礼してごめんなさいね。店の奥で話し声が聞こえたから…… 」
話に夢中になり、相変わらず派手な衣服にキャバ嬢みたいに盛った髪型をしたカラミアが来たことに気付かなかった。
「えっと…… 北と南を仲違いって、それってどう言う意味かしらぁ? 」
「正確に言うと、北とそれ以外の商店街を―― よ。あれから独自に調べてみたら、どうやら他の商店街にも似たような事があったのよ。どれも被害とは呼べない小さな事だけど、その何れもが北商店街に店を持つと言う者が行っているらしいわ。東の爺さんと西のおチビちゃんもまだ表沙汰にするつもりはないらしく黙っていたけど、聞いたら教えてくれたわ」
「あの二人はなんと? 」
「二人とも何か変だと思って調べていたらしいのよ。話を聞いた社員によれば、私ならもっとえげつない方法で嫌がらせをしてくる筈だ―― ってさ。ほんと、失礼しちゃうわよね」
付き合いが長い分、ヘバックとティリアは何か違うと感じたのだろう。何だかきな臭くなってきたな。
「それって、私の所にきた男の人が北商店街の名前を出して他の店にも迷惑を掛けているって事ですか? 」
「いえ、話を聞く限りどうやら一人ではないようね。少なくとも三人以上、それも計画的犯行よ。このタイミングで揃って身を隠すなんて偶然とは思えないわ」
う~ん、相手の狙いはなんなのだろうか? カラミアの言うように北商店街だけを孤立させようとしていたのなら、インファネースではなく、北商店街に恨みを持つ人物の仕業?
「…… もしそうだったとしたら、私も随分と舐められたものね」
おぅ…… 不敵な笑みがとてもお似合いですね。
「貴族派の連中ですか? 」
「まだ何とも言えないわ。でも十中八九そうでしょうね。こんな幼稚な遣り方しか出来ない奴等なんてそれ以外心当たりがないわ」
カラミアは心底馬鹿にしたように鼻で嗤った。
領主の妻でありシャロットの母親を死に追いやった大元が貴族派の中心人物と言われているボフオート公爵だと、カラミアはそこまで調べはついているが、決定的な証拠が無い。
「ここ最近、インファネースが急激に発展したから焦った貴族派の誰かがこんな馬鹿をしてきたのだと思うのよ。領主様は王族派だから、これ以上街が発展して発言力が強まる事を恐れたのかも知れないわね。それで貴族達に関わりの深い私をインファネースで孤立させようと考えたのかしら? 目の付け所は悪くないけど、方法が幼稚過ぎるわ」
「カラミアさんは、今回の件にはボフオート公爵は関わってはいないと? 」
「そうね。あいつが関わっていれば、こんな簡単に尻尾を掴む事は出来ないわ」
「そうならぁ、例え今動いている奴等を捕まえても切り捨てられるのがオチねぇ」
蜥蜴の尻尾切りじゃないが、そこから過去の悪事が次々と露呈する前に始末するだろうな。
「彼方からのこのことやって来るなんて都合が良いわ。捕まえて貴族派の事について知っている限りを話して貰おうじゃない。まぁどうせ爵位の低い奴ばかりで、そんなに知らないかもしれないけどね」
それでも、どんな小さな情報も見逃さないと言わんばかりに、カラミアの目は燃えていた。
「リタさん、これからこの布地について聞かれたら、全て俺の店から仕入れていると言って下さい」
「えっ!? でも、そうすると今度はライルさんの店が危ないんじゃ? 」
「大丈夫。朝と昼には神官騎士が護衛をして夜は結界で店を守っているから、そうそう危険な事にはならないよ。それに、あぁ見えてもシャルルとキッカは強いからね。母さんも出掛ける時には神官騎士の一人が護衛に付いているので安心だよ」
さて、貴族派だか何だか知らないけど、商店街全部の代表を敵に回した事を後悔させてやるよ。