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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十七幕】魔王討伐連合軍と反撃の始まり
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6

 

 この数日、インファネースに来た難民達は問題なく過ごしている。仕事を与えたからか、住民達と対立するような事もないし稼いだお金を商店街へと落としてくれている。


 デイジーの薬屋とリタの服飾店は勿論の事、調理道具を揃えるのにガンテの鍛冶屋、そしてパン屋も大いに稼ぎを出しているし、夜には男衆が酒場に繰り出し、逃げる時に持ち出した金を使っては酒を楽しむ。


 当然、俺の店にも人は来るようにはなったけど、いまいちこの波に乗りきれていないような…… 売り上げが伸びた商品と言えば、洗浄の魔道具や母さんが趣味で焼いているハチミツクッキーぐらいで、マジックバッグのような高級品を買う人はまだいない。それでも、南商店街全体で見れば潤ってはいるので良しとしよう。



 店に入っては来てくれるんだけどなぁ…… 皆値段を見ては帰って行ってしまうのはどうにかならんかね? しかしマジックバッグやテントもそうだが、自慢の蜂蜜も適正価格というものがあるからこれ以上値段は下げられない。


 絹や綿の生地と糸もそれなりに売れてはいるけど、難民達は今のところ自分で裁縫する余裕はなく、殆どはリタの店で買っている。


 それもここ最近では絹もあまり出回らなくなってきた。それと言うのも天使達が自分の作る絹生地をより高く買い取ってくれる場所を見付けてしまい、殆どをそこへ持っていってしまうようになったのだ。


 まぁ、天使達も生きる為に金を稼ぐ必要があるので、高く買い取ってくれる北商店街に目をつけるのは仕方ない事だけどさ、カラミアの一人勝ちみたいになってしまって、正直悔しい。今では恩と義理で安く天使から絹を譲って貰っているけど、何時まで持つかね? カラミアがその気になれば、買い占める事だって可能な筈だ。


 それを危惧して俺はアラクネ達に新しい生地になる糸の生成を頼んだ訳だが…… これが中々に難しく、苦戦しているようだった。


 アラクネが作り出す糸は本来の蜘蛛としての糸を作り出す能力に、そこへ魔力を付け足して様々な効果の持つ糸を生み出す。その微妙な魔力調整で、粘着力のある糸や細く丈夫な糸、鉄のように頑丈な糸などを使い分けているのだそうだ。



『ライル様、試作品を作りましたので確認のほどをお願いします』


 魔力収納の中にある彼女達の縄張りの森で、一人のアラクネが小さく編み込んだ布を掲げる。


 これで何度目かの試作品を魔力収納から取り出し、魔力で操る義手で持ち、耐久性や伸縮性、そして頬に当てて肌触りを念入りにチェックする。


 …… うん。耐久性も十分だし、伸縮性もこれぐらいだったら許容範囲だ。肌触りも綿のように柔らかく、絹のような滑らかさもある。これなら良い商品になるな。


 そう、俺がアラクネに頼んだのは、綿と絹の良い所を併せ持つ新しい布生地を作り出す事だった。前世で言う化学繊維のようなものだね。いや、天然素材と魔力を合わせる訳だから、合成魔力繊維と呼ぶべきかな?


 とにかく、その合成魔力繊維第一号が此処に完成した。


『アラクネの皆さんには無理を言ったようで大変だったのに、良くやってくれました。ありがとうございます』


『いえ、そんな…… このような素晴らしき地で暮らせるのならばこれしきのこと、どうと言うものではありません。ライル様にご満足頂け、私達一同感動にうち震えております』


『一仕事終えた後で何ですが、これを布生地にして大量に生産して欲しいのです。天使達から解析させて貰った機織り機を量産しましたので、それを使って下さい。使用方法は後程魔力念話での映像を踏まえて教えます』


『承知致しました。ライル様の為に真心込めて織らせて頂きたく存じます』


 ゲームやアニメの影響でアラクネという魔物に偏見を持っていたが、こうも真面目に働いてくれるのは嬉しい誤算だったな。


『フフ、どうです? ライル様にお褒め頂きましたよ。これでいかに私達が優れているか証明出来ましたね』


『あら? これだけで満足なさっているのですか? アラクネというのは何とも志が低いのですね。まだライル様のご要望に応えきれていないのでは? 』


『っ! 言われずとも分かってるわよ。今に見てなさい、アンタ達の度肝を抜かすぐらいの布地を作ってやるわ』


『それは楽しみですね』


 うんうん、普段のアラクネは丁寧な言葉遣いだけど、アルラウネ達と話す時はこうして砕けた口調になる。同じ魔物同士だからなのか、仲良くやっているようで何よりだよ。


『…… ゲイリッヒよ、俺の目にはとても仲が良いようには見えないが、王がそう思うからにはそうなのだろうな』


『そうですね。真実はどうであれ、直接的な争いが無ければ仲が良いという事なのでしょう』


 バルドゥインとゲイリッヒが何やら気になる事を話しているな。やれやれ、まるでアルラウネとアラクネが水面下で対立しているような事を言う。分かってないね、心を許し合っているからこそ、あんな風に軽口を叩けるんじゃないか。


 それより、これで北商店街の好きにはさせないぞ。この新しい布地をリタの店に卸し、南商店街限定のブランドを立ち上げるのも悪くない。取り敢えずはこの布で俺のインナーと服を拵えて貰おう。今の服も悪くはないが、流石に下着は前世のと比べると若干ごわごわしてて落ち着かないんだよね。


 それと、ベッドシーツにしても良さそうだな。サンドワームの弾力性のあるベッドに、滑らかで柔らかいシーツを被せれば安眠間違い無し。これで王妃様相手に心労を溜めている母さんに快適な眠りを提供出来るよ。


『ふむ、ライルよ。それは当然、我の寝床にも敷いてくれるのだろうな? 』


 え? ギルの寝床に敷くのなら結構な量になるけど、それ全部をアラクネが織る訳だから…… 過重労働で倒れたりしないか心配だな。きちんと休むように厳命しないと。

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