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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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 バルドゥインとテオドアを魔力収納へ入れ、アンネの精霊魔法により発生した空間の歪みの前で、俺とエレミアはクレス達へと振り返る。


「クレスさん、当事者の前で色々と勝手に決めてしまい、申し訳ありませんでした」


「いや、構わないよ。彼女達の話を聞いてしまってはね…… それに、ライル君も無関係とは言えないよ。バルドゥインが言うには僕は君が治める国の一員らしいからね。王様には逆らえないからさ」


 重ね重ね申し訳ありません。悪戯っぽく笑うクレスに俺はもう一度頭を下げる。魔力収納ではそれを見たバルドゥインが、王に頭を下げさせるとはなんたる不敬! なんて怒っているけど、原因はお前だからな?


 なんていうやり取りをしていると、遠くから複数の魔力が此方へと向かって来ているのが視えた。


「それは恐らくアロルド達だろうね。一向に戻ってこない僕達を探しに来てくれたのかな? ライル君が見つかると色々ややこしくなりそうだから、僕が適当に誤魔化しておくよ」


 クレス達と別れを告げ、俺とエレミアとアンネは空間の歪みを通ってインセクトキングの巣穴があった森へと移動した。


 光の魔術を刻んだ魔力結晶を明かりに周囲を照らして見れば、大きく陥没した大地に、木々が倒れている光景が広がっていた。


 巣穴崩壊の影響は予想以上に森へ深刻なダメージを与えていたようだ。






「ライル、この木はまだ生きてるみたい」


「じゃあこれも回収っと…… これぐらい集めればアラクネも満足してくれるかな? 」


 根元から倒れている木を、エレミアの知識を頼りまだかろうじて生きているのを探して魔力収納に入れていく。このまま放っておけば何れ枯れてしまうものを主に選らんでは、魔力収納内に植えていった。


 木を回収している中、虫の魔物がいなくなったからか、鳥や猪、鹿といった野生動物がいる事に気付いた。きっと森から逃げ出した動物達が少しずつ戻ってきているのだろう。今後を考えて、まだ元気で丈夫な木は残しておかないとな。



 魔力収納にある果樹園やマナの木が生えている周辺はアルラウネ達が住んでいるので、マナの大樹を挟んだ反対側に集めた木々を植えて、ギリギリ森とは言えなくもないものが完成した。


 これで大丈夫かな? と不安だったけど、アラクネ達が笑顔を浮かべ木や枝の間に糸を張ってはまるでハンモックようにして各々くつろぎ始める姿にホッと胸を撫で下ろす。


 すると一人のアラクネが木から降りて魔力結晶が煌めく空を見上げた。


『私達を受け入れて下さっただけでなく、この様な素晴らしい住み処を作ってくださり、感謝に堪えません。この大恩をどうやってお返しすればよろしいのでしょうか? 』


 う~ん、喜んでくれているのは嬉しいのだけれど、ここで―― その笑顔だけで十分ですよ―― なんてキザったらしい言葉を吐くつもりはない。そんな事よりもっと建設的な話をするべきだ。


 アラクネという魔物の特徴と、人間部分の胸と腰に巻いてある布を見て、ある事を思い付いた。


『あの…… その体に巻いてある布は何処で手に入れたのですか? 』


『え? これは自分の糸を編んで作った物ですが、それが何か? 』


 ほぅ…… 随分と上質な布のようだけど、アラクネの糸というのは蜘蛛の糸とは違うのか? 教えて、ゲイリッヒ!


『アラクネは体内にて魔力を調整する事により、様々な性質を持つ糸を作り出せます』


 流石は二千年生きているヴァンパイア、物知りだね。


 それにしても、様々な性質―― か。俺の考えが正しければ、いけるかも知れないな。


 思わず顔が綻ぶ俺を見たエレミアが、また何か企んでる…… と呆れた様子で溜め息を吐くのを余所に、俺はアラクネ達にとあるお願いをした。



『はい…… ? それなら魔力を普段より多く込めれば作れるかと』


『それじゃ、先ずは自作品として小さい物をお願いするよ』


 良し、これが上手くいったらまた商店街が賑やかになるぞ。細かく言えばリタの服飾屋が、だけどね。


 アラクネ達の成果を楽しみに、俺とエレミアはアンネの精霊魔法でエルマンの邸にある貸部屋に戻る。


 出掛けたのは夕暮れ時だったのが、もうすっかり日も暮れてしまった。特にする事もないし、そろそろ休みますか。


 生憎とこの部屋にはベッドは一つだけなので、アンネとエレミアには魔力収納に入ってもらって、俺はベッドに潜り込む。


 まぁ色々とあったけど、戦いは人間側が勝利を収め、クレス達も無事だったので良かった。魔物の犠牲になった者には悪いけどね。せめて黙祷を捧げようとベッドで上体を起こして、静かに目を瞑り名も知らぬ勇敢な者達へ冥福を祈ってから眠りについた。




 その翌日の正午。何やら慌てた様子でエルマンが邸を出ていったかと思えば、リラグンドとの同盟承諾が綴られた書状を手に帰ってきた。


 リラグンド王国へ届ける役目は勿論エルマンの商会に依頼されたが、この時点でもう既に王妃様に届いたも同然なんだよね。


 そう、邸の地下には俺の店の真下にある地下市場へと繋がる転移門があり、同様にインファネースにある領主の館から王妃様も良く地下市場に訪れるらしい。これほど密会するのに相応しい場所はない。


 それはともかく、これでやっと王妃様からのお使いは終わり、俺は晴れて自由の身となった訳だ。


 早くインファネースに戻って、エルマンの意見を参考に南商店街の店主達で会合をしなくては。ここいらでちゃんと代表らしい事をしないと、せっかくここまで盛り上げてきたのに元の木阿弥になってしまう。それだけは避けたいところである。


 アラクネ達に頼んだ物が、南商店街()いてはインファネースの新たな特産になれば良いんだけど…… 。



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