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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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「バルドゥイン、彼女達の拘束を解いてくれ」


「御意に」


 バルドゥインにアラクネ達を縛っている血の結晶を解除するよう頼むと、すぐにアラクネ達は自由の身となった。


 彼女達はあの凶悪なバルドゥインがたった一人の人間に従う光景を見て驚き、拘束を解かれた事により魔王の支配から脱却していると気付き更に驚く。


「さてと、自己紹介と行きましょうか。はじめまして、俺はライルと言います。皆様は魔王の支配に抗っていたとの事ですが、真偽の程をお聞きしたい」


 すると、一人のアラクネが前に出てきては蜘蛛の足を曲げて頭を下げる。


「私達を代表し、お礼を申し上げます。この度は私達に温情をお与え下さるとお聞き致しました。どうか、魔王から私達をお救い頂きたく存じます」


 あまりにも流暢に話すアラクネに、今度は此方が吃驚した。人間の姿に似ているだけあって知能も高いらしい。


「バルドゥインから何を言われたかは分かりませんが、先ずは話を聞かせて下さい。貴女達は魔王の支配に抗い、人間に害をなすのを拒絶していたのは間違いありませんか? 」


「はい。少なくとも私達はこの五百年、人間との対立を避けて来ました。此度の戦でも、人間を直接殺してはおりません。ですが、私達の糸で動けなくなった人間を他の魔物が止めを刺してしまい、結果的には誰一人救えは出来ませんでしたが…… 」


 頭を下げているので分からないが、彼女はきっととても悔しそうな顔をしている事だろう。後ろに佇むアラクネ達もばつが悪そうに俯いていた。


「バルドゥイン様から聞きました。貴方様の国に所属すれば、魔王の支配から解放され、平和と安寧を得られると。どうかお願い致します。これまで人間達にしてきた数々の暴挙、全て私が責任を取りますので、他の者達をお許し下さい。そして、貴方様の治める国の末席に加えて頂きたい。どうか、私の首一つでご容赦下さいますよう、平にお願い致します」


 他の者達の為、懸命に命を差し出そうする一人のアラクネに、俺は胸が痛んだ。魔王に支配されていたからといって、人間に害をなしたのは事実。言い訳などせずに、それを真摯に受け止めて責任を取ろうとする潔さ。俺は普通に彼女達―― いや、目の前のアラクネに好感を抱いていた。


「顔を上げて下さい。別に俺は人間を代表している訳ではないので、貴女達を裁く権利はありませんよ。それに、ここで貴女を処刑したとしても、亡くなった者は帰っては来ません。それより今生きている人間達へ償いの意を込めて、何かしてみるのはどうでしょうか? 」


 頭を上げたアラクネが、不思議そうに八つの瞳で俺を見詰める。


「償い、ですか? 私達に何が出来るでしょうか? 」


「それは追々と考えて行けば良いのでは? 焦る必要はない、時間はまだ沢山あるのだから」


 頬笑む俺を見て、彼女はまた頭を下げる。


「あ、ありがとう、ございます…… 永久の忠誠をライル様に捧げます」


 彼女は震える声でそう言うと、後ろにいたアラクネ達も次々と蜘蛛の足を曲げて頭を下げていく。その光景を前に、隣に立っているバルドゥインが満足気に頷いていた。



 早速アラクネ達を魔力収納に入れると、例の如く驚愕と感動で唖然としている中、俺はアラクネ達の住む場所をどうするか思案する。


『我が主よ、アラクネは本来森に住む魔物で御座いますので、この魔力収納に森をお作りになればよろしいのでは? 』


 森か…… この魔力収納には果樹園やマナの大樹とマナの木があるけど森と言う程ではない。これではアラクネ達の住み処とはなり得ない。


『そ、そんな…… こんな素晴らしい所で暮らせるだけで十分ですのに、これ以上お手を煩わせる訳には…… 』


 ゲイリッヒとの会話を聞いていたアラクネ達が恐縮するが、そういう訳にはいかないんだよ。


『俺は貴女達の安全と安寧を約束しました。であれば快適に過ごせる場所を提供するのは最低限の義務ですので、どうか気にしないで下さい』


 とは言っても、森を作れる程の大量の木を何処から調達するかだな。規模を小さくしても、それなりの量が突然無くなる訳だから、周囲も混乱するし生態系も崩しかねない。


『ライル様、インセクトキングの巣穴があった森などは如何でしょうか? 巣穴の崩壊でもう森は崩れておりますし、虫の魔物のせいで既にその森の動物達は逃げていなくなっている筈です』


 アグネーゼの言葉で思い出した。そうだよ、あの森からなら多少の木が無くなったとしても、誰も不思議には思わないだろう。


『良し、じゃあそこからアラクネ達が住める森を作る為の木を取ってくるか。そうと決まれば、アンネ! 』


「はいは~い! ここはあたしの出番ですな? インセクトキングの巣穴があった森へと行くんでしょ? 」


 待ってましたと言わんばかりに、魔力収納から飛び出したアンネがビシッ! と何かのポーズを決める。直前まで酒を飲んでいたからか、テンションがやたらと高いな。


「あぁ、頼めるかな? 」


「まっかせんしゃい! あの場所なら覚えてるし、あたしの精霊魔法ですぐだよ! 転移魔術なんかにお株を奪われてたまるかっての!! 」


 あっ、最近転移門やら転移魔石等が広まって来ているのを気にはしていたんだね。



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