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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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終戦への一石 8

 

 目の前には渦巻く闇の塊が何もかもを吸い込む。空気も大地も、そして僕達をも飲み込まんと更に勢いは増していく。


 その闇へ切っ先を向ける聖剣が眩しい程に輝き出す。


 僕の魔力を持てるだけ注ぎ込んだ聖剣の輝きは何時もとは比べ物にならない。


 あれだけ的が大きければ外す事はないだろうが、慎重に狙いを闇の中心、ガムドベルンがいると思われる箇所に定める。


 聖剣の輝きが更に増すのに対抗するように、ガムドベルンの闇もまた更に深く拡がっていく。



「いけぇ!! クレス! 」


「あのクソ野郎の闇を払って丸裸にしちまえ!! 」



 二人の声援を受け、聖剣の先から巨大な魔法陣が浮かぶ。幾重にも重なる陣はゆっくりと回転を始め、次第に速くなると陣の中心に光が集まっていく。


 ガムドベルン…… お前の闇か僕の光、どちらが勝つか、いざ勝負! これが僕の全力だ!!



 魔法陣に集束した光が、枷を外したかのように闇へと放たれた。



 それは線というより柱。人一人余裕で覆える程の太い光の柱が、真っ直ぐガムドベルンの闇へと伸びていく。


 しかし、その光さえも闇に飲み込まれてしまう。


 まだだ…… まだ僕は負けてない。魔力が足りないなら、この命を燃やせ! 無理矢理にでも絞り出すんだ!


「ハァァァアアア!!! 光よ、闇を打ち払え!! 」




 刹那。


 全てが白に染まる。


 時が止まったかと思う程の静寂が訪れた。




 世界がおかしくなったのか、それとも僕がおかしくなったのか…… ただ、意識だけはハッキリとしている。


 やがて僕の耳に音が聞こえ、目には色が戻り、時が動き出した事を悟ると同時に、ガムドベルンの闇が光の奔流にのまれて四散していた。



 光を失った聖剣が嫌に重く感じ、腕が下がり地面に膝を突く。もう僕の魔力は残っちゃいない。遠くなる意識を気力だけで持ち堪えている状態だ。


 霞む視界に映るのは、左腕に持つ斧を地面に突き立て何とか立っているガムドベルンの姿だった。


 ハハ…… 僕は文字通り命を削り指ひとつ動かすのも辛いというのに、ガムドベルンはまだ立てる程の余裕があるのか…… これはもう笑うしかないね。


「光ノ、勇者候補ヨ…… 俺ノ闇ヲ消シタ事ハ、心カラ称賛シテヤル。シカシ! ソレト同時ニ貴様ハ魔王様ニトッテ驚異トナリ得ル。俺ノ命ガ尽キヨウトモ、ココデ確実ニ始末シナクテハナラナイ!! 」


 最後の力を振り絞り、ガムドベルンが斧を持って突進してくる。その決意に満ちた目は、僕だけを見据えていた。


 だからなのか、両横から立ちはだかる者達に気付くのが遅かったのは。


「させるか! 」


「しぶとい奴め、いい加減倒れろよ!! 」


 そう、僕は一人で戦っている訳ではない。後を任せられる信頼できる仲間がいる。


 アラン君とアロルドが聖剣をガムドベルンの体に深く突き刺し、足を地面に引き摺りながらも、どうにか動きを止めた。


 僕の眼前、辛うじて斧が届かない距離でガムドベルンは刺された傷口から血が流れて瀕死な状態でさえ、僕を殺すという想いが籠った目は今もなお生きている。


「殺ス…… 貴様ダケハ…… 魔王様ノ、為ニ…… ! 」


 アラン君とアロルドの二人掛りでも、ガムドベルンは懸命に足を前に動かし、ジリジリと僕へ近づいてくる。その執念には狂気染みたものを感じる。何がそこまで奴を掻き立てるのか、魔王への忠誠心だけでは説明がつかない。


「くそっ! 止まれってんだよ! 」


 アロルドは聖剣を突き刺したまま、水魔法を発動してガムドベルンの足を凍らせようとするが、完全に凍る前に力ずくで破壊され動きを止められない。


「アラン、確かお前も水魔法が使えるんだったな? 協力してくれ! 」


「分かった。こいつを凍らせれば良いんだな? 」


 アラン君もまた聖剣を刺したままでガムドベルンの体を水魔法で凍らせようとする。


 二人の力でやっと下半身が氷付けになり、ガムドベルンの歩みが止まった。そして氷は徐々に上へと上がっていき、やがて頭まで到達して完全にガムドベルンは氷に包まれた。


 そして二人一緒に突き刺した聖剣を勢い良く引き抜くと、そこから氷に皹が入り、ガムドベルンの全身へと拡がっていき、ガラガラと崩れ散る。


 いくらタフなガムドベルンも、こうなったらもう回復は出来ないだろう。それでも油断は許されないので、アラン君がガムドベルンの残骸を徹底的に燃やし尽くした。


 これで確実にガムドベルンは死んだ。正直、勇者候補が三人いるという状況で、ここまで苦戦するとは思わなかった。


 まさか魔王に力を授かった魔物がこれ程までとは想像出来なかった―― いや、僕の見通しが甘かったと言わざるを得ない。


「随分とギリギリな戦いだったな。でも、あの闇を払うとは、やるじゃないか。流石は光の勇者候補だ」


「はぁ…… ぼく達三人揃ってこの様だ。いったい魔王とはどれだけ強いんだ? 本当に勇者候補全員で掛かれば倒せるのか不安になるな」


 僕もこの戦いでアラン君の懸念は痛いほどに実感したよ。魔王側の勢力には後どれくらいガムドベルンのように魔王から力を授かった魔物がいるのか…… こんな戦いをこれからもしていくと考えただけでもウンザリしてくるよ。



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