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シャロットの計らいで貴族用の門から港湾都市に入れてもらう事になった。
門番は見慣れているのか、馬車を引くゴーレムという異様な光景に驚きもせず、にこやかに対応している。どうやら領主の娘だけあって慕われているようだ。
門を抜けて少し拓けている場所で馬車を止めると、お互いに馬車を降りた。
「本日はわたくしの勘違いでご迷惑をお掛けして、誠に申し訳御座いませんでしたわ。わたくしはこれで館に戻りますが、何かご用がありましたら遠慮なくお訪ね下さいませ」
シャロットはガストール達に、謝罪の言葉を掛ける。
「お、おう…… もう気にしてねぇから、あんま気に病むなよ」
「有り難うございます。それとライルさま、後でわたくしの館へ来て頂けませんか? 色々とお話を伺いたいので」
「分かりました。俺も聞きたい事がありますので用事が済み次第、館にお伺いします」
「お待ちしておりますわ。では皆さま、わたくしはこれで失礼致します。ごきげんよう」
馬車に乗って去っていくシャロットを見送り、俺達は依頼達成とブラックウルフの素材を買い取って貰うため冒険者ギルドへ向かった。
道は平らに舗装され揺れが少なくスムーズに進む。なにで舗装しているのかと思い調べてみたら、コンクリートだった。王都は石畳みなのに、ここではコンクリートが使われている。元から普及されているのか、それともここで開発されたのかは分からない。今思い返してみると、外壁もコンクリートに似ていたな。
家の作りは様々でレンガや石材を使用していたり、木造のものもある。だけどコンクリート建築のものは見当たらない。今のところ、道と外壁以外には使われていないみたいだ。
風が仄かな潮の香りを運び、馬車の窓から入ってくる。ああ、海に来たなぁと思っていると、エレミアが微妙な表情をしていた。
「なんかちょっと生臭いね。これが海の匂いなの?」
「ハハッ! 海の匂いがキツイ程、汚れているとも言われているらしいぜ。ここはそれほど匂いはしない方なんだけどな、森で暮らしていた嬢ちゃんには匂うか」
ガストール達の案内で冒険者ギルドに着くと、ギルドの私有地にある駐車場に馬車を置いて中に入る。
この街のギルドの内装は、ガストールと出会ったギルドと同じ造りになっているようだ。どこのギルドでも内装は統一しているのだろうか?
カウンターで依頼達成の報告を済まして、ブラックウルフの素材を買い取って貰うため魔力収納から取り出す。解体は既に収納内で済ませてあり、綺麗に毛皮が剥ぎ取られていると言うことで少し上乗せしてくれた。
この時の俺を見るガストールの目が非常に恐ろしくて気付かない振りをして誤魔化したのだが、呆れたように溜め息をつかれてしまう。仕方ないだろ! あんな量のブラックウルフを一匹ずつ解体なんかしてられないよ。
ブラックウルフの売上金を五等分にして各々に配り、もう用事は無いので俺達はギルドを後にする。
「ここでお別れだな。俺達は暫くこの街にいるから何かあったら、また依頼してくれよ」
駐車場まで来たところで、ガストールが別れを言ってきた。依頼が済んだので俺達と一緒にいる理由もないし当たり前か。
「はい、その時はまたよろしくお願いします。今回は大変お世話になりました」
「エレミアの姐御! オレっちをどんどん頼って欲しいっす!」
「だから姉御って呼ばないで」
「…………」
グリムはただ此方を見詰めるだけ、こいつは魔力念話の一言以外まったく喋らなかったな。
「ライル、お前の力は自分が思っている以上に価値のあるものだ。心から信用出来る奴以外には隠し通せ、じゃねぇと、どうなっても知らねぇからな」
「はい、ガストールさんの忠告、肝に銘じます。ありがとうございました」
「おう! 頼むぜ、せっかくの金づるだ。いなくなられちゃ困るからな、んじゃまたな!」
ガハハ! と笑いながらガストール達はギルドの方へ去っていく。金づるかよ! まぁ、そのくらいが丁度良い距離感なのかな。
「まるで小悪党ね。これからどうするの? あの領主の娘が館で待ってるって言ってたけど、どういうこと?」
「うん、向かいながら説明するから、取り合えず馬車に乗ろう」
俺とエレミアは御者台に乗り、魔力念話でルーサに指示を送って馬車を走らせた。
館の場所はガストールに聞いているので把握している。移動中、エレミアにシャロットが俺と同じ世界の記憶を持っているかもしれないと。そして、お互いに聞きたい事があるので館に招待されたと説明した。
「ふ~ん、そうなんだ…… 良かったわね、仲間が見つかって」
ん? 何だかエレミアの機嫌が悪そうだな、どうしたんだ?
「仲間かどうかは、まだ分からないよ。それをこれから確認しに行くんだ。たぶん向こうも同じだと思うよ、ガストールさんが言っていたように本当に信用出来るか見極めないとね。今のところ俺にはエレミアとアンネとギル、そしてクイーンを含めたハニービィ達しか本当の意味で信頼出来る者がいないから」
「へぇ、そっか…… 大丈夫よ! 何があっても私が絶対守るから、任せて!」
「う、うん、ありがとう。頼りにしてます」
なんか機嫌が直ったみたいだ。いったい何だったんだろう?
馬車は道なりに進み、領主の敷地前に到着した。鉄格子の門を通って広い敷地内を進んだ先には、大きな三階建ての館の前に着いた。
二人してボケ~と見上げていると、正面入り口の扉が開いて中から赤いドレスに身を包んだシャロットが出迎えてくれる。心なしか気合いが入っているように見受けられるのは気のせいか?
「わたくしの館へ、ようこそ! お待ちしておりましたわ。馬車と馬は此方でお預かりしますので、どうぞ中へいらして下さいませ」
シャロットに言われるまま、俺達は館の中に入っていく。広くて、天井が高いエントランスには、巨大なシャンデリアが吊り下がっている。電球の代わりに沢山の魔石がつけられ、一つ一つが光を放っていた。あれ全部に灯りの術式が施されているのか、随分と贅沢だね。
「さあ! わたくしの部屋へ、早く参りましょう!」
すこぶる機嫌が良さそうなシャロットに連れられて、俺達は部屋へと目指した。




