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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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予期せぬ助っ人5

 

「アラン君、レイチェル…… 何故ここに? もしかして、一緒に戦ってくれるのか? 」


 火の勇者候補であるアラン君が加わってくれるのなら、これ程心強いものはない。それにレイチェルの強力な闇魔法も助かる。


「は? いやいや、何でそんな危険な事をしなくちゃならないんだ? ぼくはお前を連れ戻してくるよう王に頼まれたんだよ」


「…… 僕を連れ戻す? 王が? 」


 待ってくれ、どうしてそんな事に? 横にいるレイチェルに目を向けるが黙って見詰め返してくる彼女の視線に、嘘や冗談ではないのが分かる。


「日々戦況は悪化していると報告を受け、せめて勇者候補だけは失わないよう国に引き下げるとの結論に至った。しかし普通に撤退命令をしたところで、お前は聞かないだろ? だから同じ勇者候補のぼくがこうして此処まで来たという訳さ。最悪、力ずくでもいいから連れ帰れって言われてる」


 クッ…… 連日の戦いで僕の体力と魔力は酷く消耗している。対してアラン君は万全な状態、しかもレイチェルと二人で来られては抵抗は難しい。このまま僕は無理矢理戻されてしまうのか? 勝手な国の判断とそれに抗えない自分の弱さに、怒りと失望で顔を歪ませていると、レイチェルがそっと口を開いた。



「ねぇ、アラン? 確かにわたし達は王からの命令でクレスを連れ戻しに来ている訳だけど、本当にそれで良いのかしら…… ? 」


「うん? 良いの何も王の命令だから―― 」


「―― 命令だから仕方ない? それじゃ子供のお使いと一緒よ…… 貴方は何れ父様の領地を継がなければならないのに、それでは先が思いやられるわ…… 良い? わたし達は王族派でもなければ貴族派でもない中立派なの…… ―― 領地の利益を第一に考え、不利益になるようなら、それが例え血の繋がった家族でも容赦なく切り捨てろ―― 常日頃父様からそう言われてるわよね…… ? 」


「あ、あぁ。だから何だよ…… お前はクレスを連れ戻せば領地に不利益が生じるとでも言うのか? 」


 ん? 何だが話の流れが変わってきたな。レイチェルは何を考えているんだ? もしや僕が此処にいられるよう説得してくれているのか?


「そうよ…… ここで魔王軍の侵攻を阻止出来なければ、確実にリラグンドまで攻めてくる…… 」


「いや、まだその前にヴェルーシ公国があるんだから、すぐにとはいかないんじゃないか? 」


「甘いわね…… あのヴェルーシ公国よ? まともに防衛するとは思えない…… それに攻め込まれて行き場の失ったシュタット王国からの難民達を、あれこれと理由をつけてリラグンドに押し付けてくるかも知れない…… そういう嫌がらせを過去に何度もしてきた記録が残ってるわ…… 今だってこの戦争にヴェルーシ公国は軍を出していない…… あの国は信用なんて出来ないの…… このシュタット王国が敗戦してしまえばリラグンドに被害が出るのは確実。そうなればわたし達の領地にも少なからず影響はある…… 」


 レイチェルの言葉にアラン君は焦りを覚えたのか、一粒の汗が頬を流れる。


「し、しかしだな。そうは言ってもどうしろと言うんだ? 」


「簡単よ…… わたしの闇魔法とアランの勇者候補の力で魔王軍を追い払うの…… アランが参戦すれば、ここに三人の勇者候補が揃う事になる…… あの父様が何も言わずにわたし達を送り出したのはアランの素質を見抜く為…… 貴方はハロトライン領の次期領主として、その真価を父様に見せる必要があるの…… 王のいいなりでは、父様を失望させてしまうわ…… 領主になってレインバーク領より発展させるんでしょ? 」


 困惑していたアラン君の顔が引き締まり、攻撃的な視線をレイチェルに向けた。


「当たり前だ。ぼくは必ず自分の領地をあのレインバークよりも有名にしてみせる。そして領民達に豊かな暮らしを約束するんだ! やってやるよ…… 父上にぼくの力を見せてやろうじゃないか!! 」


 もう僕を連れ戻す話なんか隅に追いやられ、何故かアラン君がこの戦いに参加する流れになった。


 やる気に漲っているアラン君を見て、レイチェルはニヤリとあくどい笑みを浮かべる。


「レ、レイチェル…… もしかして、全部計算してたのかい? 」


「フフ…… さて、どうかしらね…… 因みに、アランをここへ向かわせるよう間接的に王へ進言したのは、わたしよ…… 」


 齢十三にしてこれでは末恐ろしいね。しかし、いくら勇者候補が一人加わったとしても、この戦況を覆すのは難しいだろう。


「クレス、どうした? …… おや、レイチェルと勇者候補のアラン君、だったかな? 何故二人がここに? 」


「…… レイチェル、来てくれたのね? 」


 レイシアとリリィが僕達に気付いて近付いてくる。


「リリィが困っているなら、助けるのは当然でしょ……? 」


 リリィの眠そうな目とレイチェルの鋭い目がお互いに向き合い、無言で見詰め合う。そんな二人にアラン君は、え? 何してるんだ? という顔で二人を眺めていた。







「むぅ…… 大体の事情は分かった。力を貸してくれるというのなら有り難いのだが、見ての通り兵が足りず危機的状況なのは変わらん」


 アラン君から話を聞いたレイシアが腕を組んで顔を顰める。すると、リリィと向き合っていたレイチェルがまたもや怪しく口元を歪めた。


「それについては対策してあるわ…… もうそろそろ到着する筈よ…… 」


 何が到着するんだ? そう問い質す前に向こうから答えがやって来る。


 兵士が一人、困惑気味に走って来ては僕の知り合いだという人物がこの前線基地に訪ねてきたので、確認と対応をお願いされた。僕はアラン君、レイチェル、リリィ、レイシアの四人を連れ立って、その人物が待っている結界の境目まで足を運んだのだが、目の前に広がる思いもよらない光景に言葉を失う。



「お久しぶりですね、クレス君。遅くなってしまい申し訳ありません」


「い、いえ…… あの、どうしてアルクスさんが? それに、後ろのゴーレム達は? 」


 シャロットの顧問魔術師であるアルクスさんが来訪してきたのもそうだが更に驚くべき事は、後ろに立ち並ぶゴーレム達の姿だ。


「レイチェルさんから頼まれた完全自立型ゴーレムを届けに参りました。取り合えず今ご用意したのは百体ですが、シャロットさん達が頑張って量産していますので、出来上がり次第持って来ますよ」


「ありがとう…… 無理を言ってごめんなさい…… 」


「いえいえ、これもリラグンド王国とインファネースの為、協力は惜しみません。それに王妃様の許可も頂いておりますので、後の事は何とかしてくれるでしょう」


 アルクスさんにお礼を言うレイチェルの後ろ姿がやけに大きく感じる。君って子は、いったい何処まで先を見据えて動いているのか…… 心底味方で良かったと思うよ。僕より年下の女の子に軽い戦慄を覚えていると、彼女は僕に向き直り勝ち気な目線を送る。


「さぁ、戦いを終わらせてインファネースに帰りましょう…… フフフ、頑張ったわたしを兄様は褒めて下さるかしら…… ? あぁ、早くあの歪で素敵な兄様にお会いしたいわ…… 」


 恋する乙女のように頬を赤く染めた少女に似つかわしくない言葉に、僕は改めて味方で良かったと思った。

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