予期せぬ助っ人3
暗闇の向こうから何か異様な気配を感じた僕とグランさんは急いで仲間達の下へ戻ると、彼等も立ち上がり警戒しているようだった。
「何時もと違って何か変だ。用心しろよ」
グランさんがチームメンバーに注意を促しているのを横目に、僕もリリィとレイシアに近寄っていく。
「レイシア、リリィ。どうにもおかしな気配がする。何か気付いた事はあるかい? 」
「うむ。あの暗闇の向こうから微かだが、風に混じって物音が聞こえてくる。足音のような、金属が擦れるような、そんな音が」
「…… それだけじゃない、空からも魔力を感じる。…… クレス、光魔法でここら一帯を照らす事は出来る? 」
リリィに言われて、僕は大きな光球を魔法で生み出し空高く浮かべた。その光が平原を明るく照らし出すと、僕達の前方にスケルトンとグールの大群が浮かび上がる。
「ちっ、どうなってやがる! 夜は襲って来ないんじゃなかったのか!? 」
「馬鹿言え、調査ではアンデッドがいるのは判ってた筈だ。むしろ今まで夜襲が無かったのがおかしかったのさ」
「どうする? 迎え撃つか? 」
「おい、そこのお前! 転移魔石で前線基地に戻って報告しろ! 敵襲だってな!! 」
周囲にいる兵士や冒険者が一斉にざわめき立つ中、アロルド率いる義勇軍はもうアンデッドの群れに突撃していた。
「クレス、私達はどうするのだ? 」
「基地には既に報告が向かっているようだし、僕達も増援が来るまで目の前のアンデッドを抑えるんだ」
「承知した! 」
アロルドに先を越されてしまったが、今からでも間に合う。あの死にたがり連中を守らないと。
僕は体に光を纏い、光速で移動しようとしたその時、周囲から悲鳴と困惑する声が夜のラウドリンク平原に響く。
「むっ!? 何事か! 」
「おいおい、あれは何だよ…… どうして兵士や冒険者が同じ仲間を襲ってやがるんだ? 」
グランさんの言葉通り、仲間だと思っていた人達が急に周りの者達に攻撃してきた。その顔は狂気に満ち、まるで正気を失っているかのよう。
僕はそんな人達の顔に見覚えがあった。あれは心と体を乗っ取られた者の顔だ。そう、サンドレア王国でレイスに操られていた人達と一緒なんだ。
「グランさん、レイスです! レイスが彼等に取り憑いて操っている。サンドレアで同じような人達を見てきたので間違いありません!! 」
「なっ、レイスだと!? 馬鹿な! レイス対策はしていた筈だぞ? 」
グランさんの言う通り、初めの偵察にレイスがいる事は判明していたので、取り憑かれないよう十分な注意をしていたし、眠る時は必ず結界を張ったマジックテントを用意していた。にも関わらず彼等は何時レイスに憑かれたと言うのだろうか?
「…… たぶん、最初の戦いからだと思う。……サンドレアの時のように潜伏していたのかも」
「だとすれば、前線基地も安全ではないぞ? 確か人間に取り憑いていれば、結界を通り抜けられるのでは無かったか? 」
「っ!? リリィ! 転移魔石はまだ持ってるか? 不本意だけど、あのアンデッドはアロルド達に任せて、僕達は基地に戻ろう。取り憑かれている者達を救う為には神官の浄化魔法が必要だ! 」
グランさんのチームにはレイスに操られている人達を出来るだけ殺さずに捕らえて貰うように頼み、僕達は前線基地へと戻る為、転移魔石を発動させる。
空間の歪みを通り抜けると、そこには人間同士で争っている光景が広がっていた。火をつけられたのか、所々テントが燃えている。
「何て事だ! 神官達は取り憑かれた者達に気付かなかったのか? 」
「…… レイシア、この人数の中で隠れられたら、いくら神官達でも見付けるのは難しい。……それに基地を覆っていた結界が消えている。…… 早く暴れている者達を抑えて結界をかけ直さないと―― 」
リリィが言葉を言い終わる前に、暗い空からハルピュイアが襲ってくる。
「言った側からこれか! レイシア、リリィ! 君達は神官を連れて戦場で操られている人達をレイスから解放してくれ。僕は此処に残ってハルピュイアを仕留める」
「…… 分かった。くれぐれも無茶はしないように」
「そうだぞ。クレスは朝から聖剣を召喚していたから魔力もまだそんなに回復していないのだからな」
僕はレイシアとリリィと別れ、光を身に纏い、光速で空にいるハルピュイアへと距離を詰め一気に切り裂く。
死に際の甲高い悲鳴が耳を劈くが、すぐに次のハルピュイアへと飛んで行く。
二人の言うように、休憩を挟んではいても朝から戦い続けていた僕には十分な魔力は残っていない。しかし、だからといって何もしない訳にはいかないんだ。
魔力切れで気絶してしまわないよう、注意して空中でハルピュイアを仕留めている下では、何名かの神官を連れて戦場に戻るレイシアとリリィを確認した。
良し、これで向こうにいるレイスは何とかなるだろう。戦場にいるアンデッドは動きの遅いグールにスケルトンだ。数は多いが驚異という程ではないし、此処のような空からの奇襲もない。
レイスに取り憑かれている人数とハルピュイアの数からして、本命はこの前線基地だろう。
僕は朝日が昇るまで、ひたすらに剣を振り続けた。