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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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 ふぅ…… この初対面までの待機時間ってのは妙な緊張感があるよね。これ迄何人ものお偉方と会って来たけど、一向に慣れる様子はない。


 今、俺とエレミアとエルマンの三人はトルニクス共和国の元首との面会へ来ている。この国は王権制度では無い為、王が住まう城はなく、代わりに前世でいう国会議事堂のような建物がある。そこの待ち合い室のソファに座り、メイドさんが持ってきてくれた紅茶を飲んで落ち着こうとするけど、心臓の鼓動は鳴り止んでくれない。


「ライル、顔色が悪いわよ? 私が代わりにその書状を渡してこようか? 」


『ちょっと、エレミア! あんまり甘やかさないでくれる? 大丈夫よ、うちのライルならこれぐらいちゃんと出来るわい! 』


 せっかくのエレミアの厚意を、アンネが魔力収納からオカンみたいな事を言って断ってしまう。


『たかが一国の主ぐらいに緊張するなど…… 調停者であるお前の方が立場も力も上だろうに』


 ギルが呆れて溜め息を溢しているけど、知らぬ間に魔力支配というスキルと調停者なんて重役を与えられた俺なんかと、日々の積み重ねと実力で国のトップに選ばれた人では、明らかに後者の方が人として優位だと思うけどね。少なくとも俺はそういう人には敬意を抱くし、会うとなれば緊張もするよ。


『ただ与えられた立場の者より、自分で成功を掴んできた者の方が実力も立場も上だと? 我が主の言い分は尤もです。しかし、それはあくまでも一般論であり、生れつき高貴な方も存在します』


『然り、王は生まれながらにして特別な存在。そこいらの下劣な者達よりも遥か上に御座す者。ご自分の力を傲らないその御心は素晴らしいが、あまり卑下にし過ぎるのも問題です。もし、それが原因で王が侮辱されるような事になれば、例え国を治める者でも躊躇なく殺す』


 オゥ…… それは大問題だな。バルドゥインの事だから、俺が止める間もなく相手を殺してしまいそうだ。


『ライル様、ご安心召されよ。その時はこのオルトンがしかとバルドゥインめを止めて見せましょうぞ! 』


『えぇ、ヴァンパイアなんかに好きにさせては教会の名折れです。微力ながら私も浄化魔法で妨害致しましょう』


 何だか魔力収納の中では表立っていないだけで、教会とヴァンパイアの対立が起きているような? いや、ゲイリッヒとバルドゥインは気にしているようには見えず、アグネーゼとオルトンだけに隙あらば消してやろうという気概を感じる。


 その後もアルラウネ達やクイーンからも応援や慰めの言葉を貰い、どうにか落ち着いてきた。彼女達からしたら、俺は魔力収納を治める王のようなもの。しっかりしないと不安にさせてしまう。


「そんなに気負わなくても大丈夫ですよ。ライルさんの立場はリラグンド王妃様から書状を託された商人という事になっていますので、形式的に元首に書状を渡すだけで必要最低限の言葉しか交わしません」


「あ、そうなんですか? 」


 俺のこの反応に、エルマンは苦笑しつつも説明してくれた。


 何でも、魔王との戦争が始まったこの時期に、他国へ使者を送るのはなにかと要らぬ詮索をされるというので、戦争であちらこちらと忙しなく動き回ってもそれほど警戒されない行商人に頼んだという設定にしてあるらしい。


 他国の使者ではなく偶々頼まれた行商人では扱いは違い、用事が済めばすぐに帰れる。


 何だ…… それならそうと早く言って欲しいよ。今のでだいぶ心に余裕が持てたぞ。あぁ、お茶が美味しい。







 俺が安心して紅茶を飲み終わった頃に面会の準備が出来たとかで、俺とエルマンだけが元首のいる執務室へと案内された。エレミアはそのまま待ち合い室で待機している。


 王様とは違って、変に畏まらなくても良いのでとても楽だったな。元首も人の良さそうなおじさんって風貌であまり威厳らしきものが無かったのもあって、必要以上に緊張しなくて済んだ。


 元首とエルマンはお互いに面識があるらしく、殆どの事情はエルマンが説明してくれたので、俺はハイ、イイエぐらいの返事しかしておらず、自己紹介もしていないから元首の名前もまだ知らない。まぁ、向こうも俺の名前とかはどうでもいいんだろうけど。


 ずっとエルマン相手ばかりして俺を蔑ろにする様子を見て、バルドゥインが魔力収納から飛び出そうとしていたが、既の所でオルトンとアグネーゼに止められていた。ありがとう二人共、本当に助かりました。


 ある程度事情を飲み込めた元首に、王妃様から預かった書状を恭しく差し出せば俺の役目は完了。特に何を聞かれる事もなく会見は滞りなく終わり、俺とエルマンは退出する。



「ね? それほど緊張するものでも無かったですよね? 」


「はい、跪かなくても良いのは楽でした。あれ何気にキツいんですよ」


「ハハ、確かに。王様や王妃様と公式の場で会おうとすれば、先ず頭を垂れなければ不敬と見なされてしまいますからね。しかしここは王国でなく共和国ですので、元首にそれ程の実権はありません」


 日本でいう大頭領との面会ってこういった感じなのだろう。俺は会った事がないから勝手な想像だけど。


「これから共和国はどの様に動くでしょうか? 」


「恐らく、王妃様から打診された同盟を組むかどうかを、これから国務長官と国防長官を交えて話し合うと思いますよ。ライルさんは、成り行きで私が面倒を見ているという事にしてありますので、受けるにせよ断るにせよ、その旨を(したた)めた文書を信頼する商人―― この場合は私の可能性が大きいですね。それか、ライルさんに渡して王妃様へ届けさせようとすると思われます」


 成る程、どちらになっても確実に王妃様の手に渡るな。


 待ち合い室でエレミアと合流し、外に停めていた馬車に乗ってエルマンの邸へと戻った。


 すぐに答えは出なさそうだし、ここらで少しゆっくりとしていこうかな? 色々とこの街も見て回りたいからね。

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