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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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 アンネの登場で報告会がお茶会へとシフトした所で、俺は領主とエルマン、それにコルタス殿下と共に館の地下室まで来ている。因みにエレミアも残り、周りが女性だらけで一人になってしまう殿下は気まずさから俺達についてきた。


「ブフ、ここなら誰にも見つかる事もあるまい」


「では、ここに転移門を設置致しますね。アンネが王妃様の所にいますので、もう片方の転移門はすぐに置けませんが、今日中には使用出来るように致します」


 アンネの精霊魔法で店に帰りたいけど、今は王妃様とお茶してるから無理だしな。こんな事なら転移魔術を施した魔石でも用意しておくんだった。




「では、私はこれで失礼致しますね」


「グフ、本当に馬車で送らなくてもよろしいのか? 」


「お心遣い感謝します。ですが、北商店街を回りつつ帰りたいと思っておりますので…… それではライルさん。また邸で」


「はい。エルマンさんもお気をつけて」


 足取り軽く歩いていくエルマンを見送り、さてこれからどうするかと悩んでいると、コルタス殿下が口を開いた。


「俺達も男同士で一杯やるか? まぁ此方は茶ではなく酒だがな」


「ブフゥ、たまには良いですな。では、客室でゆるりと飲むであるか。エルフ産のワインやジパングの酒を用意させよう」


 こうして何故か王妃様達と対抗するように、男だけでの飲み会が始まった。








「だからよ、何でここは良くて城は駄目なんだよ。そりゃ安全面を考慮しているのは分かる。ならば俺の部屋に転移門を置くのはどうだ? 」


「どうだ? ではありませんよ。結局城の中に設置するのと変わらないじゃないですか」


「ブフフフ、殿下は本当にシャロットが好きであるな。父として嬉しく思いますぞ」


「なっ!? べ、別にシャロットに何時でも会いたいという理由だけではないぞ! 何れレインバーク領の主となるからにはだな、頻繁に通う必要がある訳で…… 」


 殿下の顔が真っ赤なのは、きっと酔っているだけではなさそうだ。どんだけシャロットの尻に敷かれてるんだよ。この様子では、シャロットの為に国よりもインファネースを優先してくれるだろう。これなら将来は安泰だね。


「それより! 報告にあった魔力収納についてもだが、ライル、お前まだ俺達に隠している事があるな? この際だから洗いざらい話すつもりはないのか? 」


「まぁ、私も人間ですので、隠し事の一つや二つありますよ」


「フン。話すつもりはないか…… まぁいいさ、精々隠し通せるよう頑張るんだな。母上の情報収集能力は恐ろしいぞ? 」


 それはもうエルマンのような優秀な諜報員がそこら中にいるらしいからね。決して侮ってはいないよ。


「ブフゥ~…… しかし、魔王にカーミラと、物騒な世の中になったのであるな」


 領主はつまみのスモークチーズをかじり、ワインを飲んで溜め息を溢す。


「全くだ。それでなくともこの国は跡目争いの真っ只中だと言うのに…… あの老害共め、本気で国を守るつもりはあるのか、甚だ疑問だな」


「ブフ、殿下は早々に継承権を放棄なされたのでしたな」


「あぁ、俺はあいつらの傀儡になるなんて御免だ。そう思うと、弟には同情するぜ。あの兄上に勝てる筈がないのにな…… 支持してる奴等は何を企んでいるのやら。噂ではヴェルーシ公国と繋がってる貴族がいるなんてのもある」


 ヴェルーシ公国。リラグンドの燐国でありお互いに仲が悪い。まぁ大抵隣の国同士ってのは仲が悪いのが普通だけどね。だかと言って、この国の中枢にまで潜り込んで来るのは問題だ。


「その公国と繋がっていると噂されている貴族は誰なのか分かりますか? 」


「うん? 何だライル、お前も遂にこちら側に関わる気になったのか? 」


「いえ、そのつもりはありませんが、ここまで聞けば気になってしまいますよ」


「まぁいい。お前も無関係とは言えんしな…… 公国と繋がってる疑いがあるのは三大公爵の一人、ボフオート公爵だ」


 えっ、ボフオートって…… 確か、貴族派のトップでシャロットの母親を死に追いやった奴だよな?


「奴が何を企んでいるのか知らんが、好きにはさせない。国に巣食う害虫が! 仲間諸とも駆除してやる! 」


 シャロットの母親を想ってか、殿下は怒りを露にしてドンッ! と乱暴に酒の入ったグラスをテーブルに置く。


「吾輩も奴の動きを探ってはいるが、なかなか尻尾を出さんのでな、あまり進展しておらず殿下も焦っておられる」


「なに、あの母上も動いているんだ。心配せずとも事態は好転するだろう、魔王の邪魔が入らなければな。この戦争に乗じて何か仕掛けてくるかも知れんから油断は出来ない」


 何処まで行っても、人の欲望は尽きる事を知らない。世界の危機をチャンスだと考える者は何時の世も一定数はいるものだ。


 政治に関わるとろくな事にはならない。だけど、そこに仲間がいるとなれば多少話は変わってくる。正直、俺もシャロットから母親を奪ったボフオート公爵は許せない。


『王よ。ご命令頂ければ、その人間を始末してみせましょう』


 魔力収納の中で、バルドゥインの悪魔的な囁きをしてくる。


 そう、ボフオートの邸にバルドゥインをけしかければ、解決とはいかないけど、俺の溜飲は下がる。でもシャロットは納得してくれないだろうな。彼女ならきっと、厳正な法の下で裁きたいと考えている筈だ。力ずくでの解決は望んでいない。それを分かっているからこそ、領主も殿下も必死になって情報を集めている。


 俺にはそういう面で力になれそうもないけど、もしシャロットから助力を乞われれば、一も二もなく引き受けるだろう。


「まぁその時が来たら、お前には存分と働いて貰うからな」


「すまんな、ライル君。吾輩と娘の為に、力を貸して貰えると助かる」


 そんな二人に、俺は勿論ですとハッキリ頷いた後、魔力で操る義手を使いグラスを掲げる。


 それを見た領主と殿下もグラスを持ち上げ、部屋の中で控え目な音が響いた。

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