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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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 はぁ…… 朝から気が重い。


「ライルさん。もうそろそろ行きたいのですが、準備は済みましたか? 」


 ドアの向こうからエルマンの声が聞こえてくる。あぁ、正直王妃様には会いたくない。一体何を要求してくるか分からないからな。


 なかなか部屋から出ようとしない俺に、エレミアは呆れた様子で溜め息を一つ溢す。


「ほら、何時までそうしてるの? どのみち報告はしなくちゃならないんだから、観念しなさいよ」


「ねぇ~、何してんのよ。早くディアナに会いたいんだけど? 」


 ふぅ、もうこれ以上は粘れないか。俺は渋々ではあるが、部屋から出てエルマンと共に転移門がある地下へと進む。


「アンネちゃん。また戻ってくるんだよね? 」


「えぇ、そうよ。ちょっと行ってくるだけだから、夕飯までには戻ってくるから…… それまであんた達、ソフィアちゃんの面倒を見てるのよ! 」


 アンネが、不安気な顔を浮かべるソフィアの周りに飛んでいる妖精達にそう頼めば、了解! と元気な声が返ってくる。


「あなた、気を付けて行ってらっしゃいませ」


「パパ、いってらっしゃい! 」


「あぁ、行ってくるよ。イレーネ、ソフィア」


 エルマンめ、見せ付けてくれるじゃないか。妻と子に見送られて仕事に出るなんて…… 羨ましい。


 心の中で渦巻く嫉妬に気付かれる事なく、俺とアンネ、エレミアとエルマンの四人は転移門を抜けてインファネースにある地下市場へと向かった。




「あっ! エルマンさん。おはようございます」

「おぉ、なんじゃまた来とるのか。お主も忙しいようじゃな」

「エルマン、約束していた肥料はどうなった? 」

「おい、人間よ。頼まれた絹はこのぐらいで大丈夫か? 」


 地下市場を少し歩くだけで、人魚、ドワーフ、エルフ、天使といった者達が普通に話し掛けてくる。


「すみません、少し彼等と話して来ますので…… 」


「大丈夫ですよ。大事な商談なのですから、仕方ありません」


 いやはや、僅か数日でここに馴染んでしまったか。恐るべしエルマンのコミュニケーション能力。俺も負けてられないな。


 他種族達との話を終えたエルマンと再び歩き店の外へと出てては、魔力収納に入れておいた馬車とルーサ、そして馭者を務めるゲイリッヒが目の前に現れる。


 歩いて領主の館へ行くには距離があるからね。それに、早くしろと王妃様から急かされているので馬車での移動だ。本当はのんびりと歩いて行きたかったんだけど。




「ところでエルマンさん。貴方がリラグンド王妃様直属の諜報員だというのは、イレーネさんはご存知なのですか? 」


「はい、知ってますよ。全部知った上で、私と一緒になることを選んでくれました。本当にイレーネには感謝しています。何れソフィアにも大きくなったら真実を打ち明けようとも考えてあります」


 確かイレーネはトルニクス出身だったよな? 他国の諜報員と分かっていながらエルマンと結婚したのか。随分と思い切った決断をしたものだ。


「国がどうとか関係ないのよ。心から好きだから一緒になる。理由はそれだけで十分なの。同じ女性として尊敬するわ」


 あまり他の人間に興味を示さないエレミアがそう言うなんて珍しいな。本当にイレーネをリスペクトしているんだと良く分かる。


 許されざる禁断の愛ってのは普通の恋愛よりも燃え上がるって言うし、エレミアもご多分に漏れずそれに憧れているのかね?


 エルマンとイレーネの馴れ初めに興味を持ったエレミアとアンネの質問攻めは、領主の館に着くまで続いた。エルマンはそんな二人に苦笑しつつも丁寧に答えていくもんだから、目的地に到着する頃にはすっかりくたびれてしまっていた。


 館の使用人に馬車を預け、予めマナフォンで連絡していたので領主とシャロットが玄関先で出迎えてくれる。


「ブフゥ…… 久しぶりであるな、ライル君。先程から王妃様がお待ちであるぞ」


「お久しぶりですわ、ライルさん。マナフォンで連絡を頂いた時は驚きました。色々と大変でしたわね…… 後でお話を伺っても宜しいですか? 」


 同じ世界での記憶持ちであるシャロットには、バルドゥインや二千年前に記憶持ちとして転生していた善治叔父さんの事を簡潔にだが伝えてある。


「初めまして、私はエルマンと申します。本日は急な来訪にも拘わらず、このようにお出迎えまでして頂きまして、誠に感謝致します」


「グフ、王妃様から聞いておる。遠路はるばる―― ではないが、トルニクスからようこそおいでなさった。歓迎致しますぞ」


「ライルさんから聞いていますよ。とても優秀な商人でもあるとか…… 是非ともインファネースの力になって頂きたいものですわ」


 思いの外二人から好評価だったので、エルマンは戸惑いながらも恐縮です、と言葉を返す。


「シャロット~! ちょっくらあたしのゴーレム見てくんない? バルドゥインとの戦闘で壊れてないか心配なの」


「えぇ、良いですわよ。わたくしもその吸血鬼との戦いで、どれ程の損傷を受けたのか気になっておりましたの。早速ラボに行きましょうか」


「という訳だから、あたしのゴーレムを出してくんない? 後、ディアナには少し遅れるからお茶菓子残してくれるよう言っといてね! 」


 魔力収納から取り出したゴーレムに乗ったアンネとシャロットは、研究所に向かっていったので此処で別れる事になった。


 おい、アンネ。王妃様にそんな事言える訳ないだろ…… 勘弁してくれよ。

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